仮名手本忠臣蔵

1998/03/15

歌舞伎座で「仮名手本忠臣蔵」の通し狂言。この芝居の初演は寛延元年(1748年)8月、今からちょうど250年前に当たります。

午前11時の開演から午後9時25分の終演まで、むろん途中に休憩はたくさんあるものの、観る方も見せる方も大変ですが、それぞれの幕ごとに見どころがあって飽きさせません。松の廊下での堪えに堪えた末の刃傷、切腹の場面での主従のやりとり。七段目お軽の愁嘆場では見る者を泣かせ、由良之助の見得で胸がすく。役者では、幸四郎丈が貫禄、富十郎丈が重厚な憎々しさ、玉三郎丈は息を呑むほど美しく、橋之助丈の定九郎がせりふは「五十両……」の一言だけながら色悪の凄惨さが際立ちます。また演出面でも、人形浄瑠璃が原作であることに由来する開演前の口上人形、大序出だしの「人形身」。三段目大道具による定敷(うすべり)投げのパフォーマンスや道行でのトンボ、クライマックスの奥庭での立ち回りなど視覚的にも楽しい芝居です。また、食堂も含め劇場としての歌舞伎座を堪能することもできました。

一つの芝居をこれだけ時間をかけて贅沢に見たのは初めてですが、歌舞伎の最も歌舞伎らしい楽しみ方を経験することができた一日でした。

配役

高師直 中村富十郎
塩冶判官 中村勘九郎
大星由良之助 松本幸四郎
早野勘平 尾上菊五郎
遊女お軽 坂東玉三郎

あらすじ

大序:
鶴ヶ岡社頭兜改めの場
鶴ヶ岡八幡宮の社頭、討ち果たされた新田義貞の兜改めを行う塩冶判官の妻・顔世御前に横恋慕する高師直は桃井若狭之助に邪魔され、若狭之助に当たる。
三段目:
足利館門前進物の場
同 松の間刃傷の場
若狭之助の血気を案じた家来の加古川本蔵の賄賂の効き目で、師直は若狭之助に低姿勢。代わりに塩冶判官にあてこすり、遂に判官は殿中で刀を抜いてしまう。
四段目:
扇ヶ谷塩冶判官切腹の場
同 表門城明渡しの場
判官は直ちに館に戻され切腹。駆けつけた国家老・大星由良之助に恨みを晴らしてくれるよう眼で頼む。由良之助は城明渡しに反対する若侍たちを押しとどめ、師直を討って主君の無念を晴らすことを訴える。
浄瑠璃:
道行旅路の花聟
塩冶家の家臣・早野勘平は腰元・お軽と逢引していたためお家の一大事に間に合わなかった我が身を恥じて切腹しようとするが、お軽の説得に応じてお軽の両親が住む京都へ落ち延びて行く。
五段目:
山崎街道鉄砲渡しの場
同 二つ玉の場
勘平は猟をしながら日々を送るうち、雨の夜、山崎街道で誤って人を鉄砲で撃ち殺してしまう。
六段目:
与市兵衛内勘平腹切の場
撃った相手が舅だと知り、折から訪れた同輩の前で腹を切る勘平だったが、その直後傷口の様子から、舅は斬り殺されたのであり、勘平が撃ったのは舅を斬った無頼浪人とわかる。
七段目:
祇園一力茶屋の場
夫の勘平が元の武士になるための百両を用意するために祇園に身を売ったお軽は、遊興を続ける由良之助のもとに届けられた顔世御前からの手紙を盗み見る。それを知った由良之助は口封じのためお軽を身請けしようと言い出すが、折しも仇討ちの一味に加わりたい一心でやってきた兄・平右衛門はそのことを聞いて由良之助の本心を察する。兄から父と夫が死んだことを聞かされたお軽は自害を決意するが、一部始終を聞いていた由良之助はお軽を止め、平右衛門の同行を許す。
十一段目:
高家表門討入りの場
同 奥庭泉水の場
同 炭部屋本懐の場
両国橋引揚の場
雪の夜、由良之助はじめ浪士たちはついに師直の屋敷に討ち入り、激しい斬り合いの末に炭部屋に隠れていた師直を討ち果たし、明け方の両国橋を主君の眠る泉岳寺へ向かう。