塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

茶壺 / 吉野川

1999/10/23

10月の歌舞伎座は「吉野川」に期待しましたが、少し早起きして一つ前の芝居から幕見席で観ました。ところがこれが正解で、富十郎丈と左團次丈の掛け合いに弥十郎丈が絡む「茶壺」がとても面白く、得した気分になりました。

茶壺

狂言に由来する松羽目物の「茶壺」は、他人の茶壺を我がものにしようと目代の前で田舎者の振りを盗み見ながら一所懸命真似て踊る熊鷹太郎の憎めない奮闘振りがなんともユーモラスで、客席は爆笑の嵐でした。最後は偽物であることがばれるもののちゃっかり茶壺をもって逃げてしまいますが、それまでの健闘のおかげで「あれだけ頑張ったんだからまぁいいか」と客席を納得させるところがミソです。

吉野川

「妹背山婦女庭訓」の「吉野川」の場は、幸四郎丈の大判事、芝翫丈の定高、玉三郎丈の雛鳥という重厚な布陣に染五郎丈の久我之助が挑戦する二時間の長丁場。両花道・両床という特殊な舞台構成で有名な作品です。蘇我入鹿の時代の紀伊国と大和国をへだてる吉野川をはさんで大判事家と太宰家の間に繰り広げられる歌舞伎版「ロメオとジュリエット」は四人の主役のそれぞれの感情表現がポイントですが、退屈したらしい観客の無神経な振舞いに舞台への集中力をそがれたのが残念でした。

ここで皆さんにお願い。お芝居を観るときは、

  1. 携帯電話の電源は切っておこう。
  2. ビニールの手提袋や新聞紙をガサガサいわせるのはよそう。
  3. ここが見せ場!というときに席を立つのはやめよう。

配役

茶壺 熊鷹太郎 中村富十郎
目代某 坂東弥十郎
麻胡六 市川左團次
妹背山婦女庭訓
吉野川
太宰後室定高 中村芝翫
娘雛鳥 坂東玉三郎
久我之助清舟 市川染五郎
大判事清澄 松本幸四郎

あらすじ

茶壺

主人に言われて中国地方から京の栂尾に茶を買いにいった帰りの麻胡六は、摂津の国で酒に酔って道ばたに寝込んでしまった。これを見つけた小悪党の熊鷹太郎は麻胡六の背中の茶壺に目をつけて壺の担い縄に手を通し、目覚めた麻胡六が昼強盗、出会えと叫ぶと自分も同じことを叫ぶ。所の目代が茶壺を預かり、茶の由来因縁、茶の銘・出所を言わせていずれが本物か盗人かを見極めようとするが、麻胡六の口上・舞いを熊鷹がことごとに真似てみせるため目代は困り果てる。しかし最後に、壺の中の斤(重さ)を言わせたときに、ひらめいた麻胡六が目代の耳もとで答えを囁くと、これを聞き取れなかった熊鷹はしどろもどろ。とうとう盗人とばれてしまう。

吉野川

紀伊国背山と大和国妹山をへだてた大判事清澄家と太宰家とは、領分の境界のことから長らく不和が続いていた。大判事家の嫡男久我之助と太宰少弐の息女雛鳥はかつて春日大社の近くで出会い一目惚れの仲だが、両家の下館の間を流れる吉野川越えに言葉を交わすのが精いっぱい。ある日、大判事清澄と太宰家の未亡人定高は、帝位を纂奪して傍若無人の振るまいをしている蘇我入鹿から難題を与えられて帰ってくる。その難題とは、天智帝の寵愛を受けていた采女の局の行方を追うため、その付き人であった久我之助の出仕と雛鳥の入内を命じるもの。不和ではあるものの、互いにわが子を犠牲にして入鹿に差し出し先方の子だけは助けてやろうとの心づもりを隠しあいながら、定高は雛鳥に恋しい久我之助を助けたいなら嫁入りしろと迫り、大判事は出仕というのは名ばかりで采女の局詮議の拷問にかけられるのは必定と久我之助に切腹を勧める。久我之助はその意を汲み見事に切腹するが、定高の方も入内とは偽りで雛鳥の久我之助への操を通すためその首を差し出すつもりと本心を打ち明け、雛鳥は喜んで母の手にかかる。相手助けたさに密かにわが子を犠牲にしたのに、同じ考えから共に子を失った大判事と定高。せめて久我之助の息のあるうちに嫁入りさせようと定高は雛鳥の首を雛祭りの道具とともに川の流れに託し、大判事はそれらを一つ一つ大事に引き寄せる。