ロード・オブ・ザ・ダンス

2000/01/29

映画『タイタニック』をきっかけとして日本でも注目が集まるようになったアイリッシュダンスの「ロード・オブ・ザ・ダンス」を、東京国際フォーラムで観ました。

マイケル・フラットレー率いる「ロード・オブ・ザ・ダンス」は、タップを中心としたアイリッシュダンスにロック・ミュージックのエナジーと照明・音響のテクノロジーを加え、現代的な振付けでアメリカナイズされたショウに仕立て上げたもので、そのステージは非常に洗練されパワフルである反面、数百年の歴史を持つアイリッシュダンスの伝統からは離れたところにあるように思われます。

間に20分の休憩をはさんで2時間にわたるステージには、全体を通して以下のようなおおざっぱなストーリーがあります(プログラムの記述を引用)。

時は止まり、かつてエリン(=Ireland)は全てのものの女神だった。物語は全てしたためられた。誰もが自分の役割を知っていた。

だが、古代の人々(=ケルト人)はストーン・サークルに座り、騒ぎを聞いている。妖精の夢がかき乱される。新たな闇の力が現れ、ロード・オブ・ザ・ダンスに挑む。

ロード・オブ・ザ・ダンスが神話の中の人々を守る。そのロード・オブ・ザ・ダンスに力を貸そうと、妖精は時空を超えて旅をする。信じられないような冒険、そこには愛、欲望、危険との遭遇が待ち受けている。

このストーリー(?)に沿って、女性ダンサーの優雅なダンス、歌姫のケルティックな澄んだ歌、ヴァイオリン・デュエット、そして男性ダンサーのステップダンス(ソロと群舞)が舞台上で披露されます。さすがにステップは強烈で、主として正邪の闘いの場面がその見せ所になっていましたが、目ではとても追いきれないほど速い下半身の動きは驚異的でした。ただ、カラフルで刺激的な照明とともにPAを通して聴くステップの音は、ステージを通じて爆音を鳴らしていたロック系の楽器音以上に生身の人間のリアルさを損ない、なんだかテープの音を聞いているような感覚すら受けてしまいました。

もっとも、このように醒めた見方をしてしまうのは東京国際フォーラム(Aホール)という大きなハコの、しかも2階席の後ろの方という高いところから見下ろすかたちになったせいでもあります。客層を見ると老いも若きもという感じで、まずここからノリの悪さが予想されましたが、さらに2階の14列という位置では遠過ぎました。1階席では最後にはスタンディングオベーションになったというのに自分の周りでは手拍子も疎らでもどかしい思いをし、こんなことなら2千円を惜しんでA席にするのではなかったと後悔しましたが、そもそもS席とA席の2種類だけというのがおかしくて、東京文化会館でのバレエ公演のようにもっと細かく座席区分を設定してくれれば考えようがあるというもの。11月には同じこの場所で本家「リバーダンス」公演があるそうなので、そのときは1階席で観るつもりです。

ちなみに「アイリッシュダンスって、確か上半身を動かさずに、脚の動きで踊るんですよね?戦争の最中だったか、集まってダンスすることが禁じられる中で、家の窓から見える上半身は動かさずに踊る、ステップだけのダンスが確立されたとか……」と、これはバレエ鑑賞の師匠であるIさんのメールでの解説。ただしその後に「ここまで書いて、違うものだったら恥ずかしいのでやめておきます」と一気にトーンダウンしていましたが、実際は「戦争」ではなくイングランドによる植民地支配の中での出来事だったようです。