カノン(NODA・MAP)

2000/04/18

渋谷、Bunkamuraシアターコクーンで、NODA・MAPの「カノン」。座席は2階席正面。舞台上のセットはシンプルで、まず大きな鉄材の枠が、羅生門のようでもあり舞台を絵に見立てたときの額縁のようでもあり。左右には白く塗られた格子が高く立てられ、中央に大小たくさんの絵が裏返しで乱雑に積み重ねられています。

定刻を過ぎて会場が暗くなり、風の音とともに徐々に舞台後方から赤い光がさしはじめると、盗賊たちが判官の屋敷を襲撃する場面。しかし、裏切りによって待ち伏せを受けた盗賊たちは追い詰められ、絶体絶命に……と、ここまでをプロローグとして、猫(須藤理彩)をナレーターがわりに時間をさかのぼりました。

かつて山の自由の民を裏切って都に地位を築いた天麩羅判官(野田秀樹)のもとに仕えていた太郎(唐沢寿明)は、判官の密命を帯びて女盗賊・沙金(鈴木京香)の率いる盗賊たちに紛れ込んだものの、沙金のとりことなって次第に罪業の繰り返し(=カノン)に沈んでいきます。沙金をめぐって同じ盗賊団に加わった弟の次郎とも時に対立する太郎でしたが、やがて判官の陰謀で追い詰められた盗賊団は「自由」を奪うために判官の過去を暴く巨大な絵(=ドラクロワの「民衆を導く自由の女神」)の強奪に挑むことに。ここから冒頭のシーンに回帰するのですが、囲まれながらも絵を手中にした太郎たちが手に入れたものは「自由」ではなく「銃」。そして盗賊達を裏切ったのが実は頭の沙金だったことが明らかになり、太郎は自由の女神の絵の向こうに立つ沙金を、自らを罪業の深みから解き放とうとするかのように銃で撃ちます。

芥川龍之介の「偸盗」を下敷きとした約2時間の芝居は、ストーリーの構成も言葉の使い方も役者の動きも比較的シンプルに感じられましたが、実はあさま山荘事件がそのモチーフ。額縁を模した木枠が牢の鉄格子や路地の街並、飲み屋のテーブルなどに自在に変化して場面をスピーディーに転換させて見応えがありましたが、主題を理解するためには「偸盗」の予習に加えて連合赤軍の崩壊過程についての予備知識が必要だったようです。役者・野田秀樹が役柄の性格上感情移入の対象にならない分、鈴木京香と唐沢寿明に見る者の気持ちが集まることになりますが、唐沢寿明はさすがの演技であるものの、鈴木京香は女盗賊の存在感を放ちつつもいささかワンパターン(もっとも沙金の人間像が平板なのは原作も同様ではあります)。さらに須藤理彩の猫は特に前半とてもよかったのですがエンディングはその役割がいまいち不明で、唐沢寿明=太郎の長い独白も自分には響いてきませんでした。

……などと勝手なことを考えつつも終わったときには涙腺を刺激されながら拍手していたのだから、自分の鑑賞眼なんていい加減なものです。将来この作品が再演されることがあれば、そのときの自分はどういう感想を持つことになるだろうか?というちょっと屈折した期待を持ちながらシアターコクーンを後にしました。

配役

太郎 唐沢寿明
沙金 鈴木京香
天麩羅判官 野田秀樹
次郎 岡田義徳
須藤理彩
刀野平六 手塚とおる
猪熊の婆 広岡由里子
海老の助 大森博
十郎坊主 宮迫博之
侍 / 烏賊蔵 他 小林正寛
蛸吉 / 穴子郎 他 春海四方
侍 / 八海山 蛍原徹
女 / お通し 他 瀧山雪絵
女 / 保険のおばさん 杉本恵美
女 / 保険のおばさん 保坂エマ
猪熊の爺 串田和美