番町皿屋敷 / 大津絵道成寺 / すし屋 / 義賢最期 / 道行恋苧環 / 縮屋新助
2000/06/11
歌舞伎座の6月は、鴈治郎丈を上方から迎えて豪華な配役の六本立て。
番町皿屋敷
例の怪談とプロットは同じでも筋は全く違って、團十郎丈の青山播磨の真心を信じきれない福助丈のお菊が家宝の皿をわざと割ってみせ、いったんは播磨のお菊への想いを確認できて安堵するも、試されたことを知った播磨に手討ちにされるというもの。相手の誠意をわかってはいても縁談の噂にいてもたってもいられなくなる女心の弱さと、命がけの真を疑われたと知った播磨の悲しみ・憤りがよく伝わります。お菊を手討ちにすると決めた播磨がお菊の目の前で「一枚、二枚」と数えながら残る皿を割る場面は怪談の余韻を巧みに取り込み、絶妙の間で鬼気迫るものがありました。
すし屋
鴈治郎丈の五変化による舞踊劇「大津絵道成寺」に続いて「義経千本桜」の三段目の切にあたる「すし屋」は有名な場面ですが、ちょっと冗長に感じました。羽左衛門丈の梶原が去り際に権太に「こいつ小気味のいい奴」と言って視線をくれ、それとなく権太の企みを見抜いていることをにじませるあたりが貫禄。
義賢最期
テンポが良く、立ち回りも迫力があってわかりやすい時代物。義賢は仁左衛門丈ですが、Π字型に組んだ襖の上に立って崩れ落ちる戸板倒しや、二重の上から前にばったり倒れる仏倒れなどの大業が迫力満点でした。
縮屋新助
舞踊劇の「道行恋苧環」の後、本日最後の演目は「縮屋新助」。幸四郎丈がここでは小心な越後商人を演じ、実らぬはずの恋に入れあげて手酷い仕打ちに会い妖刀村正の魔力に取り付かれて次々に殺人を犯すにいたる心の動きを見事に語って、見ていてもらい泣きしそうになりました。筋の流れには無駄がなく、場面転換もスムーズで、特に大詰めの村正をひっさげた新助が相手を求めてさまよう場面は廻り舞台を最大限に活用したダイナミックなものとなりました。
配役
番町皿屋敷 | 青山播磨 | : | 市川團十郎 |
腰元お菊 | : | 中村福助 | |
放駒四郎兵衛 | : | 片岡仁左衛門 | |
渋川後室真弓 | : | 中村芝翫 | |
大津絵道成寺 | 藤娘 | : | 中村鴈治郎 |
鷹匠 | |||
座頭 | |||
船頭 | |||
大津絵の鬼 | |||
すし屋 | いがみの権太 | : | 松本幸四郎 |
弥助実は三位中将維盛 | : | 片岡秀太郎 | |
鮓屋弥左衛門 | : | 松本幸右衛門 | |
娘お里 | : | 中村芝雀 | |
梶原平三景時 | : | 羽左衛門 | |
義賢最期 | 木曽先生義賢 | : | 片岡仁左衛門 |
九郎助娘小万 | : | 澤村田之助 | |
下部折平実は多田蔵人行綱 | : | 市川團十郎 | |
道行恋苧環 | 杉酒屋お三輪 | : | 中村芝翫 |
烏帽子折求女 | : | 市川團十郎 | |
入鹿妹橘姫 | : | 中村鴈治郎 | |
縮屋新助 | 縮屋新助 | : | 松本幸四郎 |
芸者美代吉 | : | 中村福助 | |
穂積新三郎 | : | 中村翫雀 | |
荷持作助 | : | 坂東弥十郎 | |
赤間源左衛門 | : | 坂東吉弥 | |
尾花屋女房おつゆ | : | 片岡秀太郎 |
あらすじ
番町皿屋敷
播磨と腰元のお菊は相思相愛の仲だったが、播磨が頭の上がらぬ伯母から縁談を勧められているのを知ったお菊は、播磨の愛を確かめようと青山家の家宝の皿を打ち割る。愛しいお菊の過失と軽く許した播磨だったが、故意に割ったことが露見し、心の内を疑われたと知ると、代々伝えられる通りに皿を割ったお菊を手討ちにする。
すし屋
吉野に近い下市村のすし屋の一人息子権太はごろつきで勘当の身。使用人の弥助と妹のお里はわりない仲になっていたが、弥助が実は平家の御曹子維盛と知った権太は訴え出て金にすると家を飛び出す。首実検に来た梶原景時の前に、権太は維盛の首に加えて維盛の奥方と令息に縄をかけて差し出す。あまりの非道さに父弥左衛門は権太を刺すが、実は首は偽物、引っ立てられていったのは権太の女房と子供。維盛への忠節を尽くそうとする父を助けるための芝居だった。しかし梶原もまた権太の企みを見抜いており、権太に褒美として与えた陣羽織には維盛に出家を勧める文が縫い付けてあった。維盛の出立を見送りながら、権太は息絶える。
義賢最期
源義賢は館に来た奴姿の男を多田蔵人と見抜いて源氏再興の志を打ち明けたが、そこへ訪れた平清盛の使者に嫌疑をかけられてついにこれを討つ。蔵人には娘とともに頼朝のもとへ旅立たせ、懐妊中の妻の葵にも子(後の木曽義仲)を無事に育てるよう諭し供をつけて落ち延びさせ、一人で平家の軍勢を迎え撃って壮絶な最期を遂げる。
縮屋新助
越後から縮の反物の行商に来た朴訥な新助は、深川の売れっ子芸者美代吉の難儀を助けたその夜、永代橋が落ちた際に美代吉を再び救い、心の内を打ち明ける。美代吉には新三郎という間夫がいたが、その新三郎から訳あって愛想尽かしをされた八つ当たりに、美代吉は満座の中で新助に愛想尽かしをする。絶望した新助は道具屋から五十両で村正の脇差を買うと道具屋を手始めに次々に人を斬り、ついに美代吉をも手にかける。