相生獅子 / 伽羅先代萩

2001/10/13

「伽羅先代萩」は御存じ伊達騒動に題材をとった芝居(「先代」は「仙台」の引っ掛け)で、中でも「御殿」の場は乳人・政岡が立女方最大の難役と言われ、ぜひ一度は見ておきたい演目でした。今月の歌舞伎座はこの「御殿」を含む通し狂言で、政岡に玉三郎丈、仁木弾正に仁左衛門丈、細川勝元に團十郎丈と実に豪華な配役です。

相生獅子

夜の部の最初は福助丈と孝太郎丈の「相生獅子」。石橋物(能の「石橋しゃっきょう」を素材にした獅子物舞踊)の中でも最も古い作品だそうで、手獅子をもって踊る二人の姫が獅子の精に取り憑かれる様を見せるのですが、とても見ごたえがありました。前半の手獅子や扇を使った舞も、後シテの紅白の毛を戴いた獅子姿での狂いも、いずれもきびきびした動きの中に女方の艶やかさがあって楽しく見ました。

伽羅先代萩

お待ちかねの「伽羅先代萩」は、発端の「花水橋」を経て「足利家奥殿の場(=御殿)」へ。伊達騒動がネタとは言っても実名・同時代で芝居にするわけにはいかないので、本作では殿様は足利、三幕目で出てくる判事は細川勝元と山名宗全といった具合に舞台を室町時代に移しかえているわけです。この「御殿」は義太夫狂言の様式で、幕が引かれるとすかさず「葵太夫!」と声が掛かりました。

舞台は中央奥の一段高いところに政岡の玉三郎丈、幼君・鶴千代と政岡の子で毒味役の千松の三人が座り、ここから政岡が幼い二人のために食事を作る「飯炊きままたき」がなんと延々30分にわたって続くのですが、茶の作法で飯を炊きながら幼君と我が子の不憫を密かに嘆く心理表現が物凄く、場内は水を打ったように舞台に集中しています(子役二人もエライ)。終盤、鶴千代に出された毒菓子を身替わりに食べて事の露見を恐れた八汐になぶり殺しにされた千松に政岡が「でかしゃった、でかしゃった」と泣きかかる場面は、それまでの気丈な烈女・政岡が母親としての悲しみをぎりぎりの表現で吐露してこちらも目頭が熱くなりましたが、その直後に八汐が政岡に斬りかかってどたばたと場面が進み泣きどころを逃してしまった感じだったのが自分としてはちょっと残念。

しかし荒事の「床下」を経て、最後の「対決」「刃傷」では仁左衛門丈の凄みと團十郎丈の爽やかな弁舌がテンポよく一気に見せてくれて溜飲が下がり、気分よく歌舞伎座を後にすることができました。

配役

相生獅子 中村福助
中村孝太郎
伽羅先代萩 乳人政岡 坂東玉三郎
栄御前 澤村田之助
荒獅子男之助 市川新之助
渡辺外記左衛門 片岡我當
山名宗全 片岡芦燕
八汐 市川團十郎
細川勝元
仁木弾正 片岡仁左衛門

あらすじ

伽羅先代萩

奥州足利家では、当主頼兼の叔父大江鬼貫を担いで執権職の仁木弾正らがお家横領を企んでいる。計略にかかって身持ち放埒を理由に隠居の身となった頼兼に代わり、跡目は幼い鶴千代が継ぐことになったが、仁木らは鶴千代をも亡き者にしようと狙う。

乳人政岡は鶴千代を病気と称して御殿の奥深くかくまい、食事も政岡が作るもの以外は食べさせないようにして毒害から守っていた。鶴千代も政岡の子・千松も、政岡の言葉をききわけてひもじさにじっと耐えている。そこへ一味の黒幕で足利幕府の管領山名宗全の奥方栄御前が仁木弾正の妹八汐らを伴ってやってきて、見舞いの菓子を鶴千代に勧める。無碍に断ることもできず政岡が窮地に立たされたところへ千松が駆け込み、その菓子を頬張りあとを蹴散らしたが、ことの露見を恐れた八汐は毒に苦しむ千松をすぐさま捉え懐剣で刺し殺す。我が子が殺されても顔色一つ変えない政岡に、栄御前は政岡が鶴千代と千松を入れ替えておいたものと勘違いして一味の連判状を政岡に渡し同心するよう促す。栄御前が帰った後に残された千松の遺骸を前に一人になって、政岡ははじめて子の死を嘆き悲しむが、そこへ斬り掛かった八汐を逆に討ちとった際に鼠に化けた仁木弾正に連判状を奪い取られる。

渡辺外記左衛門は室町の足利幕府問注所へ鬼貫・弾正一味の悪事を訴え出たが、裁きに出たのは山名宗全。外記方が提出する証拠の品々は決め手とならず、評定は仁木らの勝利となりかけた。そこへ現れた山名の同役細川勝元、巧みな裁きで弾正を追い込み、忠臣側の逆転勝訴となる。敗訴となった仁木弾正は外記を逆恨みして斬り掛かったが、ついに討たれて果てる。