ドン・キホーテ(東京バレエ団)

2004/09/04

東京文化会館(上野)で、東京バレエ団創立40周年記念ガラ「ドン・キホーテ」。興味の焦点はなんといっても、牧阿佐美バレヱ団から移籍した上野水香です。マスコミ等でセンセーショナルに取り上げられもした移籍劇でしたが、新しい環境で彼女がどんなダンスを見せてくれるのでしょうか。もちろん、これまでまだ通して観たことがない「ドン・キホーテ」全幕を純粋に観たかったというのもあります。

第1幕

幕が上がるといきなりバジルの床屋で、ドン・キホーテの顔をあたっているバジル(高岸直樹)の仕事の邪魔をするおてんば、というかかなりコケティッシュなキトリ(上野水香)。座席が1階席の一番後ろの方なのでダンサーの表情がよく見えないのが残念ですが、あのよく動く目で豊かに表情を作っている様子が伝わってきます。短かめのプロローグの後に町の広場になって舞台上がぱっと明るくカラフルになり、狂言回しのドン・キホーテ(芝岡紀斗)とサンチョ・パンサ(飯田宗孝)、さらにキトリの父ロレンツォ(窪田央)やガマーシュ(古川和則)のコミカルなマイムにキトリがここでもサービス精神旺盛な演技で絡んでいきます。そして2人のキトリの友人(佐野志織・小出領子)、闘牛士たち、メルセデス(井脇幸江)、エスパーダ(後藤晴雄)。闘牛士たちを従えマントを激しくひるがえしながらのエスパーダの踊りは、回転のタイミングが常に後ろの闘牛士たちと半テンポずれているのが気になりましたが、その闘牛士たちが地面(舞台)に突き立てたナイフの間を縫うように踊るメルセデスは、プロの踊り子の貫禄。そしてバジルの高岸直樹の気合全開な回転のキレの良さは尋常でなく素晴らしく、キトリとバジルのパ・ド・ドゥでは、片腕で頭上高々とリフトされた上野水香の足は天地を180度の角度ですっくと指して見せました。ただ、上野水香もかなりの長身なだけに下から支えるのも相当大変そうだし、最後のフィッシュに持っていくところはちょっと危なかったかも。この場面では、ソリストの大胆なダンスもさることながら、エネルギッシュで華やかなコール・ドの分厚さも印象に残りました。広場の喧噪が伝わるかのようにざわざわと動き、はたまた寄ってたかってサンチョ・パンサをトランポリンでぶっ飛ばし、かと思うと見事に統率のとれた流れるような群舞を見せたり。さすが東京バレエ団、上野水香はこれ(が実現してくれる豊かなレパートリー)を手に入れたかったのではないかと思わせるほど。

夜の風車小屋の場面では、男性ジプシーたちの、まるで劇団四季のミュージカルのような派手なダンスが活きが良くて面白いものでした。ただ、ジプシーダンスならもっとパルマを使うとかタンバリンをしっかり鳴らすとか、ダンサー自身がリズムを強調する動きになってほしかったのですが、あくまでバレエだからそれは無理かな、などと思っているところに続いて踊られた、若いジプシーの娘(吉岡美佳)の何かに取り憑かれたようなダンスが強烈。軽やかさ・華やかさを競うバレエの表現とは対極の、大地と一体化しようとするような動きと表情に鬼気迫るものがあって圧倒的です。続いて、風車に巻き込まれて地面に叩き付けられたドン・キホーテの、夢の場面。キューピッド(高村順子)が可愛い♫……のはさておいて、ドリアードの女王がいまひとつ印象薄いままにドゥルシネアに舞台を引き継いで、ここでも上野水香がきびきびと足技を見せてくれて、ようやく第1幕終了。ここまで1時間20分ほど、巧みな場面転換でテンポよく一気に通して見せる演出です。

第2幕

冒頭の居酒屋の場面ではメルセデスが見どころで、ひとしきり怪しく激しい踊り、客席に背を向け大きく反り返ったポーズで終わります。そして結婚式の場面へとなだれ込み、ファンダンゴやセギディーリャ等に続いて、グラン・パ・ド・ドゥ。キトリは先ほどまでのコケティッシュな表情とは違って、引き締まった顔つきで大きなダンスを見せてくれました。しかし、ポワントでのバランスは若干不安定で、一度は両腕を上げきるのを断念せざるを得なかったし、最後の32回転は、最初こそダブルやトリプルを交えていたもののすぐに1回転で通すようになりましたが、音楽のテンポが速過ぎた様子。ただし、あの高速回転で軸がまったくぶれないのがそれだけでも見ものでした。

21時に終演。オペラグラスを持たなかったことを悔やみながら、上野水香さんにはもっとがんばって欲しいなぁと願いながら、しかしやっぱりバレエはいいなぁとほっこりしながら、会場を後にしました。

配役

キトリ
ドゥルシネア
上野水香
バジル 高岸直樹
ドン・キホーテ 芝岡紀斗
サンチョ・パンサ 飯田宗孝
ガマーシュ 古川和則
メルセデス 井脇幸江
エスパーダ 後藤晴雄
ロレンツォ 窪田央
2人のキトリの友人 佐野志織 / 小出領子
闘牛士 後藤和雄 / 大嶋正樹 / 平野玲 / 野辺誠治 / 中島周 / 辰巳一政 / 横内国弘 / 長瀬直義
若いジプシーの娘 吉岡美佳
ドリアードの女王 遠藤千春
3人のドリアード 大島由賀子 / 乾友子 / 奈良春夏
4人のドリアード 武田明子 / 門西雅美 / 加藤文 / 長谷川智佳子
キューピッド 高村順子
ヴァリエーション1 佐野志織
ヴァリエーション2 小出領子
指揮 アレクサンドル・ソトニコフ
演奏 東京フィルハーモニー交響楽団
ハープ ナターリヤ・シャメーワ

あらすじ

第1幕

騎士物語に取り付かれているドン・キホーテは、バジルの床屋で見掛けたキトリを麗しのドゥルシネアだと思い込む。恋仲のキトリとバジルは町へと飛び出して行くが、広場に現れたキトリの父ロレンツォはキトリを間抜けな貴族ガマーシュと結婚させたいと思っており、一悶着の末に2人は姿を消す。

夜、ジプシーたちのダンスと人形劇。劇中の悪役をこらしめようとドン・キホーテが飛びかかると、仮面がとれた役者たちはキトリやバジル。彼らはまたも逃げる羽目になる。そのとき巻き起こった強風が風車の羽根を動かし、ドン・キホーテは風車に戦いを挑んで地面に叩き付けられる。

夢の中でドン・キホーテは、麗しのドゥルシネアが妖精やキューピッドに囲まれて彼のために踊る姿を見る。

第2幕

キトリとバジルが隠れている居酒屋にガマーシュとロレンツォがやってくる。ロレンツォがガマーシュとの結婚をキトリに迫ると、バジルは嫉妬のあまり死んだふりをする。キトリはドン・キホーテに助けを求め、騎士は哀れな恋人たちを祝福するようロレンツォに迫る。ロレンツォがこれに渋々同意するとバジルは生き返り、2人はドン・キホーテをはじめ多くの人々に見守られて喜びに包まれた結婚式を挙げる。