第二次世界大戦の末期、コーカサスのある村の廃墟。ドイツ軍を追い払いはしたものの荒廃した谷の再開発方針を巡って、その地から疎開していた山羊飼育コルホーズ「ガリンスク」(山羊を連れて帰郷しようとしている)と隣接する果樹栽培コルホーズ「ローザ・ルクセンブルク」(果樹園を広げようとしている)とが争い、国家復興計画委員会が裁定のために訪れている。議論の末、果樹栽培コルホーズが作成した灌漑プランが優れていることを皆が認め裁定が一段落したところで、一同は歌手アルカディが歌う芝居『白墨の輪』を聴くことにする。
昔々、血なまぐさい時代。太公からの任命を受けてこの地を治める領主ゲオルギは、太公の首都で起きた貴族たちによる反乱の余波の中で貴族カツベキに捕えられ、処刑されてしまう。混乱の中、台所女中グルシェは領主夫人ナテラを護衛して都を離れようとする兵士シモンと結婚の約束を交わして別れるが、ナテラがどさくさの中でゲオルギの宮殿に残した若君ミヘルを乳母から押し付けられる。一晩中ためらった後、グルシェはミヘルを抱いて宮殿を離れる。
北へ向かう道を辿るグルシェ。ミルクを買うにも苦労し、馬車持ちの貴婦人たちには邪険にされ、とうとうミヘルを百姓の家に置き去りにしてシモンが戻っているはずの都へ帰ろうとするが、ミヘル探索の甲騎兵たちにミヘルが見つかったために甲騎兵を薪で殴り倒し、ミヘルを抱いてさらにさすらうことになる。22日の後、氷河のふもとでミヘルを自分の養子にした後もさらに続くグルシェの旅は、谷にかかる腐った吊橋に阻まれる。しかし甲騎兵たちが迫る中、その場に居合わせた商人たちに見守られつつ、二人の命を賭けてグルシェは橋を渡る。
やっとの思いで辿り着いた兄夫婦の家。身を小さくしてなんとかひと冬を過ごしたものの、兄嫁や村人の手前もあり、春になればやってくる追手をかわすためにも、いつまでもここに厄介になっているわけにはいかない。そこで兄ラヴレンティは、死を目前にした男との書類上の結婚を行うことをグルシェに勧め、グルシェも承諾する。ところが、相手の家で偽りの結婚式を上げたとき、参列者たちの口から反乱が鎮圧されたという噂を聞かされた上に、瀕死の男は実は兵役を逃れるために仮病を使っていたことがわかり、グルシェは動揺する。
月日がたち、育ったミヘルが近所の子供たちと遊べるようにまでなったある日のこと。グルシェのもとにシモンが訪ねてくるが、グルシェが結婚により名前を変えていること、子供がいることを知ると、シモンはグルシェの説明を聞こうとせず立ち去ってしまう。そこへ甲騎兵が現れてミヘルを連行し、グルシェはその後を追う。
アツダクの物語。反乱があった日、村役場の書記アツダクは乞食に身をやつした避難民の一人を一晩かくまい、逃してやる。しかしその避難民が太公だったことを知ったアツダクは、これを恥じて自分への裁きを求め出頭して都へ連行させる。甲騎兵たちがアツダクをからかっているところへやってきた貴族カツベキは、動乱の中で吊るされてしまった奉行の後釜に自分の甥を推そうとするものの、太公が逃亡中のために強く出ることができず、その場の面々(民衆)の同意を求める。しかし、甥の力量を試すためにアツダクを被告(太公)役にして模擬裁判を行った結果、甲騎兵たちはカツベキの意に反して妙に弁の立つアツダクを奉行の地位に据える。
酔いどれアツダクの奉行ぶりはいかがわしく、裁判を行うのに手数料をとり、審理もいいかげん。しかしその判決はいずれも、金持ちから取り貧乏人に与えるものだった。ところが太公は復権し、貴族カツベキは首を刎ねられ、領主夫人も戻ってきてアツダクの地位は風前の灯に。
ミヘルの帰属を巡る領主夫人ナテラとグルシェとの裁判が始まろうとしている。それまで奉行だったアツダクは彼の裁判のせいで不利益を蒙ってきた大百姓たちによってなぶり殺しにされそうになっているが、そこに届いた任命状は、太公にとっての命の恩人であるアツダクを太公の名において奉行に任じるものだった。
あらためてアツダクの下で行われた裁判で、領主夫人ナテラの弁護士は「血は水よりも濃い」と主張するが、もう一人の弁護士はミヘルがいなければ領主夫人ナテラは領主ゲオルギの遺領を継承できず、弁護報酬も支払えないことを明かしてしまう。一方、グルシェはミヘルを懸命に育てたこと以外に主張できる材料を持たず、挑発するようなアツダクの言動に怒りを爆発させてしまう。しかしアツダクはグルシェを招き寄せ、ミヘルを金持ちにしてやりたくはないのかと尋ねて、グルシェが口には出さなかった「弱い者を踏みつけ」「石の心を抱く」ことをミヘルにさせたくないという彼女の気持ちを汲み取る。その上でアツダクは一本の白墨で地面に円を描かせ、その中心にミヘルを立たせて両側から領主夫人ナテラとグルシェとにその手をとらせ、同時に引き寄せさせる。しかし、二度やって二度ともグルシェは手を放してしまい、絶望したグルシェは嘆く。「あの子をひき裂けっていうんですか?私にはできない」と。これを見てアツダクが下した判決は、次のとおり。
①ミヘルはグルシェのものとする。早々に都を立ち去るように。
②領主夫人ナテラは虚偽の訴えによって処罰されないうちに退去せよ。
③領地は公有となり、そこにはアツダク記念公園を設ける。
この結論を出したアツダクは、失神した領主夫人が連れ去られるのを見送りつつ奉行のガウンを脱ぐことを宣言するが、その前に並行審理していた老夫婦の離婚裁判の判決文を書く。ところが、そこに書かれていたのは本来の当事者の名前ではなく、グルシェと偽装結婚した夫との名前だった。こうしてグルシェとシモンは元の鞘に納まることができ、アツダクの退職祝いのダンス・パーティーで皆が賑やかに踊るうち、アツダクの姿は人混みの中に見えなくなっていく。
最後に歌手アルカディは歌う。アツダクはその晩のうちに姿を消し二度と現れなかったが、民衆は彼を忘れず末長く語り伝えた。「白墨の輪」の物語が語る昔の人の意見はこうだ――持ち物と持ち主の関係は、役立つ物が役立つ人に属すること。子供は母性愛のある女に属することでよく育ち、谷は灌漑する人たちに属することで実りをもたらす。