眠れる森の美女(ハンブルク・バレエ団)
2005/02/17
ハンブルク・バレエ団の(というよりジョン・ノイマイヤーの)「眠れる森の美女」をNHKホールで観ました。
実は予備知識ゼロで会場に入ったのですが、ノイマイヤー振付・演出だからかなりひねってあるのだろうなと思っていたら、案の定、プロローグとエピローグ付きの全3幕全てにデジレはジーンズ&Tシャツ姿で出ずっぱりだし、悪の精はいてもカラボスではないし、とにかく普通の「眠り」とはかなり違っていて驚きます。かといってマシュー・ボーンみたいに音楽だけ借りて筋書きや振付は根底から違うというのでもなく、基本ストーリーと主要なプティパの振付はそのまま活かした上で、全体をデジレの視点からのファンタジーに再構成し、不要な部分をカットしたりノイマイヤーの振付を足したりしています。この点、会場で販売されているプログラムの記述は極めて丁寧で、曲のどの部分が誰の振付でどこが省略されているかが詳細に解説されていて、それらの中にはもちろん「ローズ・アダージョ」もちゃんとあるし、祝宴でのグラン・パ・ド・ドゥやディヴェルティスマンの青い鳥もプティパの振付で出てきます。
ダンスの見どころとしては、「ローズ・アダージョ」のアティテュード・アン・プロムナードは3人目で素晴らしい静止を見せて感動的でしたし、第3幕のデジレとオーロラのパ・ド・ドゥでは、上手奥から下手手前へ移動しながら、デジレの左後方に立つオーロラがピルエット→一瞬でフィッシュ!の三連発が鮮やか。そしてカタラビュット / 宮廷のダンスマスターでコミカルな演技をしていたダンサーが青い鳥になって超絶足技を披露して大拍手を集めていました。最後にはジーパン姿のデジレの渾身のマネージュ。こんな具合に、「眠り」にこの演目ならではのバレエダンサーの技巧の煌めきを期待する向きも大いに満足できますし、かたやストーリーも単なるおとぎ話ではない、コンテンポラリーかつ首尾一貫した強固なものになっていました。最後にデジレが森の中の公園のベンチに見いだした娘が何をさしているのかは正直よくわからないのですが、プログラムに収載された解説ではそれを「過ぎ去った過去への愛、伝統への愛」と説明しているようです。確かに、現代の森の中で道を失ったデジレが出会った100年前の世界(普通描かれる17世紀フランスではなく、現在から100年前。したがって登場人物はスーツを着ていたりします)に見いだした愛情の対象(オーロラ)は今も生き続けている、というメッセージと見ることができそうですが、反対に、苦悩多き今の世界から逃避したり諦めたりしないで、そのままに大切にしてほしい、ということだったと解釈してもいいようにも思います。
終演後の会場の興奮は凄いものでした。拍手、歓声、そして舞台上にノイマイヤーその人が登場するとスタンディングオベーション。こんなに盛り上がったバレエは久しぶりです。
配役
デジレ王子 | : | イリ・ブベニチェク |
オーロラ姫 | : | シルヴィア・アッツォーニ |
善の精 | : | ヘザー・ユルゲンセン |
悪の精 | : | カーステン・ユング |
カタラビュット | : | アレクサンドル・リアブコ |
エジプトの王子 | : | カーステン・ユング |
ロシアの王子 | : | ヨロスラフ・イヴァネンコ |
インドの王子 | : | ピーター・ディングル |
スペインの王子 | : | エミル・ファスフッディノフ |
富 | : | ディアゴ・ボーデン |
陽気 | : | アンナ・ハウレット |
勇気 | : | カトリーヌ・デュモン |
青い鳥 | : | アレクサンドル・リアブコ |
フロリナ王女 | : | エレン・ブシェー |
指揮 | : | ミヒャエル・シュミッドルフ |
演奏 | : | 東京フィルハーモニック交響楽団 |
あらすじ
プロローグ
嵐にあって青年デジレは森にさまよう。異様な雰囲気に包まれる中、眠っている姫の幻影を見たデジレは、めまいを感じる。
第1幕
デジレが気付くと、そこは城の中。城の主とその妃は生まれてくる子供を楽しみにしているが、デジレは自分の姿がこの世界の人々には見えないことを知る。やがて生まれた赤子=オーロラに、突然鏡の中から現れた奇怪なものたちが呪いをかける。デジレはこの災いを除こうとするがかなわずにいると、鏡から善き精が現れて邪悪な魔法を解き、オーロラは死ぬことなく、百年の眠りののちに王子のキスによって目覚めることとなる。デジレはオーロラを救うことを決意する。
第2幕
月日は流れ、デジレはオーロラの16歳の誕生日に立ち会う。王は姫に、求婚のためにやってきた4人の他国の王子を紹介する。オーロラは王子のいずれにも関心を示さないが、エジプトの王子が差し出したバラの花に気を引かれ、それを手にとった途端にそのとげに刺され、気を失って倒れる。デジレは王子がオーロラに呪いをかけた悪霊だったことを知る。
第3幕
気が付くとデジレは森の中にいる。善き精に助けられ、立ちはだかる邪悪な精を圧倒して城に辿り着き、オーロラの寝室へよじのぼる。デジレが見守る中、オーロラは目を覚ますが、城は壁が崩れ落ち、あたりには死んだように人々が横たわっているさまに不安にかられて泣く。そこでデジレは姿を現し、オーロラに口づけをすると、宮廷全体が眠りから覚める。デジレとオーロラの結婚の祝宴が始まる。2人のダンスが祝宴の最後を飾り、引き続く群舞のクライマックスで、デジレはめまいに襲われる。
エピローグ
デジレが目を覚ますと、そこは森の中。彼の前にある公園のベンチには、娘が眠るように横たわっていた。