コミュニケーションズ
2005/04/21
新国立劇場の小劇場で、渡辺えり子構成・演出のコント集「コミュニケーションズ」。下のキャスト表にあるように多彩な作家の作品をこれも多彩な役者が演じる企画で、全体を通した共通のテーマはタイトル通り「コミュニケーション」。
会場に入ると、なんともレトロな字体とイラストの看板が左右に並んでいて、濃いめのスモークの中に赤・黄・緑・ピンクなどのチープな色使いのライト。看板をよく見ると、「お茶の間留学 野葉宇宙語学校」とか「ペットショップさわだ クローン金魚 ロボット犬」とか微妙に(?)レトロでなかったりするのですが、定刻頃になってふと目の前を通る場内係員の女性の顔を見たら、なんとそれが円城寺あやでびっくり。彼女をじかに見るのは1992年の夢の遊眠社「ゼンダ城の虜」以来ですが、間違いありません。そのまま円城寺あやは会場横の扉から外に出てしまってこちらはあっけにとられていたら、客席の中ほどに坐っていた女の子(実は石井里弥)が突如立ち上がって上手舞台下のPA卓の男におじさん、まだ始まんないの?
と声を掛けて、ここから芝居に入って行きます。設定としては、明日で閉鎖されるコメディ専門の劇場。照明、音響、舞台監督、牛乳売り、モギリなどのスタッフたちが、全盛期を懐かしみ、愚痴など言いながら、自分たちでコントをやってしまう。明日で閉鎖されるのに観客がほとんどいなくて、その人も巻き込まれて……というような設定
だそうです。
で、最初から最後まで大いに笑えたかというと、実はそうでもありませんでした。確かにそれぞれ笑いの質が違っていて、ベタに笑わせるものもあればシュールな笑いもあったりするのですが、その多彩さに観客がついていけず、これは笑うべきところなんだろうか?といった手探り感がつきまといました。また、シチュエーションや情景は面白いのですが、オチが決定的に弱いと思える作品も少なくありません。そうした中でも、「存在証明」「ライフ・ライン」「フルムーン」「ボスと男たち〜仁義の逆襲」は文句なしに面白かったし、「バス停のある風景」はいかにも別役ワールド(金内氏曰く、別役先生は電柱1本で空間を支配する
のだそうです)、「立てこもり」の警部が勝手に状況を深刻化させていく様も王道を行っているなーという感じ。
- 存在証明
- 車をぶつけられたヤクザ(円城寺あや)がぶつけた若者(矢崎広)におばあちゃんに電話させて修理代を出させようとするが、電話の向うのおばあちゃんはおれおれ詐欺だと思ってとりあわない。なんとか本物の孫だと信じさせるようなエピソードはないのか、と詰め寄るヤクザだが、若者はあまりにも普通の人生を送ってきていて……。
- ライフ・ライン
- 自殺志願者の自殺を思いとどめさせる電話相談所。ベテラン相談員(山崎清介)の妙技に圧倒される新米相談員が、ついに自分で担当した自殺志願者は、自分の娘だった。
- フルムーン
- フルムーン旅行で別府行きの船上、はじめはいい雰囲気だったのに、夫(綾田俊樹)がうっかり口を滑らせて過去の浮気旅行のことをばらしてしまったため、妻(神保共子)との間でいつの間にかののしりあいの暴露合戦になってしまう。
- ボスと男たち〜仁義の逆襲
- 綾田組に若い者を殺され、復讐策を練るボス(金内喜久夫)と手下たち。綾田の何かを奪おうということになったが、「子供は?」「未来のある子供に手を出しちゃならねぇ」「女は?」「女を守るのが男ってもんだろう」「あいつ自身を」「それは人殺しだぞ。わかってんのか」と埒があかない。で、結局なぜか換気扇を奪い、しかも新品と交換してきたのだが、綾田は今は亡き恋女房の手料理の匂いが染み付いた換気扇を奪われたことに打撃を受けて……。
役者さんでは、上述の円城寺あやのほか、山崎清介に目が釘付け。とりわけ「ライフ・ライン」の佐野玲子役は凄い存在感でした。綾田俊樹と金内喜久夫の両ベテランもとりわけ連作風につながっている「ボスと男たち〜仁義の逆襲」でいい味を出していましたし、腹筋善之介の有田焼の男は登場しただけで場内爆笑。その彼が「蟹を食う」でちゃぶ台の上でベジャールのボレロを踊ったときは曲が違うためにあまり気が付いた人がいなかったみたいで、本物のボレロのBGMで踊らせてあげたかった。また、若手2人(石井里弥・矢崎広)の頑張りは、大いに買ってあげたいと思います。
演目 / キャスト
場 | コント名 | 作者 | 綾田俊樹 | 石井里弥 | 円城寺あや | 片岡弘貴 | 金内喜久夫 | 神保共子 | 腹筋善之介 | 矢崎広 | 山崎清介 |
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1 | コミュニケーションズ | 藤原茜 | 鈴木道代 | 金内万作 | |||||||
2 | 森の妖精 | 竹内佑 | 妖精 | ウサギ | ウサギ | ウサギ | ウサギ | 小リス | 男1 | ウサギ | 男2 |
3 | コミュニケーションズ | ベース | トランペット | ウクレレ | 太鼓 | ドラム | 三味線 | トランペット | エレキピアノ | ギター | |
4 | お笑い界 | 竹内佑 | 東 | 西 | |||||||
5 | バス停のある風景 | 別役実 | 男1 | 女1 | |||||||
6 | 立てこもり | いとうせいこう | おやじ | 待機C | 女性 | 待機B | 犯人 | 警部 | |||
7 | コミュニケーションズ | 金内 | 丸山 | ||||||||
8 | 蟹を食う | 鄭義信 | チチ | ハナコ | 林好江 | 男性B | 男性A | ハハ | 森 | イチロウ | 男性C |
9 | 存在証明 | 杉浦久幸 | 男 | タカシ | |||||||
10 | ライフ・ライン | ケラリーノ・サンドロヴィッチ | アカネ | 藤本 | サラリーマン | 常住 | 若者 | 佐野玲子 | |||
11 | 有田焼の男 | 高橋徹郎 | 看護婦 | 先生 | 有田焼 | ||||||
12 | フルムーン | 綾田俊樹 | 晴夫 | フラダンス | フラダンス | フラダンス | フラダンス | 邦子 | フラダンス | フラダンス | フラダンス |
13 | 犬の沈黙 | ふじきみつ彦 / 筒井康隆(原作) | 義父 | 妻 | 木口・兄 | 木口成美 | 俺 | ||||
14 | コミュニケーションズ | 綾田熊吉 | 藤原茜 | 鈴木道代 | 塚田 | 金内万作 | 鈴木良枝 | 鉄也 | 弘之 | 靖 | |
15 | ボスと男たち | 武藤真弓 | 男2 | ボス | 男3 | 男1 | |||||
16 | 仁義の逆襲 | 綾田俊樹 | 親分 | 浜子 | 定吉 | ||||||
17 | コミュニケーションズ | 清掃員 | 金内 | 丸山 | |||||||
18 | 坂本 | 土田英生 | 高原 | 丸山 | |||||||
19 | カレーライス | 綾田 | ○ | ○ | ○ | 金内 | ○ | ○ | ○ | ○ | |
20 | 親子 | 竹内佑 | 東 | 西 | |||||||
21 | コミュニケーションズ | ベース | トランペット | ウクレレ | 太鼓 | ドラム | 三味線 | トランペット | エレキピアノ | ギター |