労働者M

2006/02/24

Bunkamuraシアターコクーン(渋谷)で、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出の「労働者M」。観終わっての感想は、なんと言うべきか……忌憚のないところを言えば、金(¥9,000-)と時間(3時間半!)を返せ、という感じです。

ストーリーは重層的で、現代での自殺志願者の相談所兼ねずみ講事務所の人間模様と、近未来における木星人との戦争後の収容所における反体制活動家の破壊工作、の二つのストーリーが交互に演じられました。回り舞台が高い壁で120度ずつ三つに区切られて事務所内・受付・休息室に割り当てられており、暗転と衣裳で時制が示されます。

近未来の収容所では、管理する側とされる側という権力構造がありながら、それはある日突然に配置転換によって逆転する脆さを抱えており、そこに生き残りの木星人と収容所爆破を図る反体制活動家の存在がさらなる不確定要素となります。ま、こうした造り自体は巧みだと思いますし、出だしの「にょろにょろ」のシークエンスも面白かったので、近未来の収容所の方だけをうまくまとめれば芝居としてそれなりにまとまったかもしれません。

かたや、もう一つのストーリーである現代の事務所では、登場人物のいずれもが一種の心の病み(闇?)を抱えており、自殺志願者を電話で諭す相談員自身もかつては自殺志願者であったという過去、そうした人助けのような事務所が同時にねずみ講の元締めでもあり、いじめによる自殺者を出しているという偽善、だまそうとする相談員とその相談員をペテンにかけようとする客の駆け引き、といった二重性が一応の鍵になっているような気がするのですが、いかんせん、話の展開が行き詰まりかけるとセックスになだれ込む軽々しさがどうにも共感できない、というより不快です。そして、最後まで近未来の話とは収斂することなく、最後にわけのわからない尻軽な金髪娘と浮浪者を登場させて唐突に終わります。

一応、冒頭に偽堤真一と偽小泉今日子が出てきて、この芝居では大事なセリフが欠落していてストーリーがわからないかもしれない、みたいな能書きを語るのですが、そういうレベルのわからなさではないことは、終演後のうっすらとした拍手、カーテンコールなしでの終演が雄弁に物語っています。初めて観るケラ作品なので期待していただけに落胆も大きく、たぶん二度と彼の作品を観ようとは思わないでしょう。

なお、堤真一の熱演は賞賛に値し、松尾スズキはさすがでしたが、小泉今日子は残念ながら輝いていませんでした。

キャスト

堤真一 / 小泉今日子 / 伊藤ヨタロウ / 松尾スズキ / 秋山菜津子 / 犬山イヌコ / 田中哲司 / 明星真由美 / 貫地谷しほり / 池田鉄洋 / 今奈良孝行 / 篠塚祥司 / 山崎一