戸惑いの日曜日(東京ヴォードヴィルショー)

2006/08/31

脚本:三谷幸喜、演出・出演:佐藤B作の「戸惑いの日曜日」(初日)を、池袋のサンシャイン劇場で観ました。1996年に「アパッチ砦の攻防」として初演され、今回加筆されて佐藤B作が演出を手掛けた本作は、三谷幸喜お得意のシチュエーション・コメディー。事業に失敗した主人公(佐藤B作)が、娘(中澤裕子)が結婚相手(小林十市)を紹介したいというので見栄を張るために3日前に人手に渡ったマンションの留守宅に潜り込んだところ、予想に反してその部屋の買い手(西郷輝彦)が帰宅してしまい、さらに娘は結婚相手だけでなくかつて別れた妻(あめくみちこ)や結婚相手の両親まで引き込んだものだから、主人公は予想外の事の成り行きに追いつめられていくというストーリー。

前半はテンポが悪くてどうなることかと思いましたが、後半、フィリピン人ビビアン役の小林美江の怪演で一気にヒートアップし、後は最後までいい感じで芝居がつながりました。日本語の勉強のために諺を「あ」から覚え始めているという設定で、主人公の佐藤B作が事業に失敗した我が身を嘆くと「悪銭身ニ付カズ」、もう一方の主人公西郷輝彦が次々に闖入してくるB作の家族たちに「お前らはスリの集団か?」と聞くと「当タラズトモ遠カラズ」。これを東北訛りっぽく(←ネタバレ)しゃべるたびに、会場は爆笑の渦。

その他の登場人物も、かなりおかしな感じ。ジャイアンみたいな女子高校生の山本ふじこ、自治会長職をなんとか押し付けようとする市川勇が濃過ぎるくらいだし、一見まともな不動産屋の佐渡稔もキャラが立っていて、最後に細川ふみえを愛しそうになったのは本当だとかっこつけましたが、そのとき携帯にかかってきた電話に出た瞬間をB作にぶっ飛ばされます。しかしB作が殴った理由が「こんなときにスーダラ節なんか鳴らしやがって!」って、それはポイント違うだろう!

とはいえ、実はこの芝居の主人公は西郷輝彦の方で、大好きな「ウエスト・サイド・ストーリー」のビデオを見たいばかりに、テレビ修理に来たという口実で佐藤B作に居座られ、次々に現れる闖入者に我が物顔で日常生活をかき乱され、固辞し続けていた自治会長を引き受けさせられ、妻(細川ふみえ)の浮気や娘の「人に言えないバイト」まで知る羽目になってしまいます。そうして佐藤B作との攻防で追いつめられた彼が、一転して佐藤B作の嘘に協力し、妻やB作との和解に至って大団円、というのがこの芝居の眼目で、前半主人公と見えた佐藤B作は実は狂言回しに過ぎなかったことがわかるわけですが、それにしては西郷輝彦に肝心の「追い詰められ感」が足りなかったのがちょっと残念。

なお、二部制の合間の休憩時間にBGMで「マリア」「アメリカ」が流れていたのがおしゃれ。また、電気屋の小島慶四郎が乾燥機をネタにアドリブを言おうとしたが空中分解(「後で乾燥機のかんそー聞かせてください」と言っていたようです)し、そのまま袖に下がる彼にB作が「アドリブ言うなー!」と追い討ちをかけると西郷輝彦が涙を流して喜んでしまいしばらく芝居にならなかったのが笑えました(もっともこれが本当にアドリブかどうかは、三谷幸喜のことなので多分にアヤシイ)。そういう佐藤B作も途中で思いっきりセリフをかんでしまい、相手役のあめくみちこが笑いをこらえながら「何言っているのよ!」と突っ込んでいたのですが。中澤裕子は好演、小林十市の起用は意義不明、あめくみちこが芝居を締めてくれました。細川ふみえはすらっとしていてセクシーで可愛かったのですが、味のあるいい演技をしていたので、あえて胸の谷間を強調しなくても(うれしいけど)……と思いました。

そして最後は、やっと直ったテレビから派手な破裂音とともに火花が飛んで、仰天したB作と西郷が仲良く仮面をかぶって「ウエスト・サイド・ストーリー」を見ながら、満場の拍手とともに幕が下りました。

キャスト

佐藤B作 / 中澤裕子 / 西郷輝彦 / 細川ふみえ / 小林十市 / 市川勇 / 小林美江 / あめくみちこ / 佐渡稔 / 山本ふじこ / 小島慶四郎 / 角間進 / 市瀬理都子 / 斉藤レイ