シルヴィ・ギエム・オン・ステージ 2011

2011/11/03

10月19日のガラからスタートした「シルヴィ・ギエム・オン・ステージ 2011」は、東京を離れて全国を巡っています。東日本大震災のダメージを受けた岩手、福島を回って西へ、東京とは異なるプログラムを携えて。「ボレロ」を再び観たいというのもありましたが、それ以上に5年前の世界バレエフェスティバルで観たことがあるラッセル・マリファント振付の「TWO」をもう一度観てみたくて、ガラ、10月29日のBプロに続き、名古屋へ足を運ぶことにしました。

夜行バスで早朝に栄に着いて、バスとセットのサウナでのんびりしてから、会場の愛知県芸術劇場へ移動。空間をぜいたくに使った、大変立派な施設でした。

私がとった席は2階席ということになっていますが、ほとんど1階席と変わらないフラットな高さにあってなおかつ舞台までの見通しが良く、満足度の高い位置でした。しかし、ここはオーケストラピットがないようで、1階席の最前列はほとんどかぶりつき。あの席からなら、舞台前方に出てきたダンサー(とりわけギエム)と握手することも可能そうで、うらやましい限りです。

それはともかく、定刻になってほぼ満員の観客席が暗くなると、最初の演目である「白の組曲」の序曲が流れ始めました。

白の組曲

セルジュ・リファール振付、黒一色の舞台にタイトルの通り白いクラシカルな装いのダンサーたちがソロ、パ・ド・ドゥ、パ・ド・トロワなどさまざまな組み合わせで登場して、古典の技法にのっとり優美で華やかなダンスを繰り広げる45分間の作品。テーム・ヴァリエでの奈良春夏さんのバランス、アダージュの上野水香さんのローズ・アダージョを連想させる美しいアティテュード、エピローグでの小出領子さんの安定した連続フェッテなど見どころが多く、また曲想に応じて次々にダンサーが入れ替わりながらも、どの場面を切り取っても幾何学的に均整のとれた配置は、あたかも動く西洋庭園を見ているよう。

ルナ

ガラでも観た作品ですが、東京バレエ団の精鋭たちによる「白の組曲」の後に観ると、ますますギエムの凄さがわかります。逆説的な表現ですが、アクロバティックなまでの四肢の自由度があって初めて実現する深い叙情性。まさに別次元。

チェロのための5つのプレリュード

モーリス・ベジャール振付。バッハの無伴奏チェロ曲を用いた作品で、黒地に黄色いラインが入ったトランクス姿の若者がチェロを抱えて登場し、椅子の上にそのチェロを横置きにして静止。一方、もう1人の登場人物である可憐な少女は曲に合わせてたおやかに踊ります。踊りの中でも、合間でも、彼女は若者に何かをアピールしているように見えるのですが、若者には少女の姿が見えていない様子。しかし、曲の合間になると何やらコミカルなロボットのような仕種を見せていた若者は、終盤になって体操選手のような見事な転回を見せると一気に少女の世界に入り込みました。少女は、チェロの精?解釈は難しいけれど、吉岡美佳さんの表現力の豊かさだけで十分に惹き付けられる作品。

TWO

頭上から四角く照らす暗いオレンジ色の光に包まれて、潜水艦の発するPing音の繰り返しの中に蠢くギエム。やがて低音の反復音からドラムが激しいビートを刻み出すと共に照明がギエムを囲む四角い檻を作ると、ギエムの長い手足がリズムに乗って武術家の演舞のように激しく、かつ滑らかに前後左右に動き、その手足が光の檻と接するところで瞬間的に冷ややかな火花を散らすように白く輝く。初めて観たときと同じ、短いながらも観る者の息を止めてしまうほどの緊迫感に満ちた作品でした。

ボレロ

もはや言うことなし。全てが終わった瞬間、ここまでクールに舞台を見続けていた名古屋の観衆が、それまで貯めていたエネルギーを一気に噴出させるように熱い拍手と歓声を舞台に送りました。

ロビーには、「HOPE JAPAN」のモチーフ(高田賢三氏デザイン)をラベルにした東北・北関東各県のお酒が並んでいました。売上の一部は義援金になるのだそうです。お買い求めは、各酒造メーカーへ。

  • 『天の戸 HOPE JAPAN 純米大吟醸』浅舞酒造(秋田県)
  • 『飛良泉 HOPE JAPAN 純米大吟醸』飛良泉本舗(秋田県)
  • 『郷乃誉 HOPE JAPAN 生もと純米吟醸』須藤本家(茨城県)
  • 『あさ開 HOPE JAPAN 純米大吟醸』あさ開(岩手県)
  • 『南部美人 HOPE JAPAN 純米大吟醸』南部美人(岩手県)
  • 『人気一 HOPE JAPAN 純米大吟醸』人気酒造(福島県)
  • 『一ノ蔵 HOPE JAPAN 純米大吟醸』一ノ蔵(宮城県)
  • 『浦霞 HOPE JAPAN 純米吟醸』佐浦(宮城県)
  • 『東光 HOPE JAPAN 純米大吟醸』小嶋総本店(山形県)

この後ギエムは、1日おきに西宮、富山、倉敷、広島、福岡へとツアーを続けます。もちろんそこまで追っかけるつもりはありませんが、今から四半世紀前にバレエ鑑賞の手ほどきをしてくれた旧友ヨシコさんに今回の名古屋行きの話をしたところ、こんなメールが帰ってきました。

もしかしてギエムストーカーに?引き合わせたような気がするんで彼女に申し訳ない……。

配役

白の組曲 シエスト 乾友子 / 高木綾 / 渡辺理恵
テーム・ヴァリエ 奈良春夏 / 木村和夫 / 柄本弾
セレナード 西村真由美
プレスト 佐伯知香 / 松下裕次 / 氷室友 / 長瀬直義 / 宮本祐宜
シガレット 田中結子
マズルカ 後藤晴雄
アダージュ 上野水香 / 柄本弾
フルート 小出領子
ルナ シルヴィ・ギエム
チェロのための5つのプレリュード 吉岡美佳 / 高橋竜太
TWO シルヴィ・ギエム
ボレロ シルヴィ・ギエム
松下裕次-長瀬直義-宮本祐宜-梅澤紘貴