扈家荘 / 盗仙草 / 秋江 / 閙天宮(中国京劇院)
2002/03/16
後楽園の文京シビックホールで、中国京劇院の訪日公演。中国京劇院は、1955年に名優・梅蘭芳を初代院長として設立された中国文化部直属の京劇院です。今回の演目は2部構成となっており、第1部が京劇女優(旦)を主人公とする作品3本、第2部がおなじみの孫悟空モノ「鬧天宮」という構成です。
扈家荘
水滸伝の一幕で、扈家荘の武術に秀でた美女・一丈青扈三娘(孟蕊)が、甲冑に身を固め槍をとって激しい立回りを見せます。武旦の中でも騎馬武者役の刀馬旦がその役柄の魅力を全開させる演目で、開幕とともに現れた扈三娘の自信たっぷりの做(仕草)と唱(歌)は胸がすくばかり。傲慢なまでの表情にも嫌味がまったくありません。王英の剣を見事にからめとった後に見せる槍術がすさまじく、まず最初から度胆を抜かれた感じです。
盗仙草
こちらは白蛇伝の一部で、仙山を守る鹿童と鶴童の激しい回転技で幕を開けます。続いて登場する主人公の白素貞(趙鴻)は武旦ではありますが、先ほどの元気溌溂な扈三娘とは違って、夫を救うために何としても仙薬を手に入れなければならないという悲愴感が表情にも仕草にも漂い、観客の感情移入を誘います。しかし、見どころの武技はこちらも面白く、特に四方から投げ付けられる槍を手足や手持ちの武具などで打ち返す打出手には拍手喝采で、最後は白素貞が足技を使って六本の槍を空中に飛ばす場面は目が回りそうになり、隣に座っていた観客も「何がどうなっているのかわからない!」とうろたえていました。
秋江
ここまで2本、理屈抜きでアクロバティックな打(立回り)を堪能しましたが、続く「秋江」は一転して花旦(活発な娘役)と丑(道化役)の二人芝居。恋人を追う尼僧の陳妙常(許翠)と船翁(張亜寧)の演技だけで舟の動きや河の流れを表現するところが見もので、舟の揺らぎは膝の屈伸で表現し、向きが変わるところでは小刻みに立ち位置を変えたりと、船頭との息の合った芸を披露します。また、陳妙常役の許翠は正統派の美人で、純真な尼僧をからかう老船頭の一言一言に恥じらったり拗ねたり怒ったり驚いたり喜んだりと感情の起伏が忙しいのが見ていて楽しく、最後はハッピーエンドで会場中がほっとしました。前の2本もよかったのですが、やはりこの演目がこの日一番の収穫でした。しかし、老船頭が舟を動かすために棒を使う前に握りこぶしを口にあてて「プフォ!」、力を入れるときに脳天から響く高い声で「アーララララララ!」と声を出すのですが、この「アーララ……」にはしばらくうなされそうな気がします。
鬧天宮
15分の休憩をはさんで第2部の「鬧天宮」は、これまでも何度か観た演目で、猿たちのユーモラスでリアルな仕草と、孫悟空と天王軍の激しく、かつどこか間の抜けたところのある武技比べが見どころです。キャストは孫悟空に李光 / 李岩の二人の名前があがっていましたが、これは途中で入れ代わったということでしょうか?スムーズな舞台転換の中でテンポよくストーリーが進んだものの、見慣れた演目だけに立回りでのミスや一部の間の悪さなども目についてしまいましたが、李光 / 李岩のとても50歳を過ぎているとは思えない華麗な体術に、最後は惜しみない拍手を送りました。
配役
扈家荘 | 扈三娘 | : | 孟蕊 |
盗仙草 | 白素貞 | : | 趙鴻 |
秋江 | 陳妙常 | : | 許翠 |
船翁 | : | 張亜寧 | |
鬧天宮 | 孫悟空 | : | 李光 李岩 |
あらすじ
扈家荘
宋江を頭目とする梁山泊軍は、村々を宋から解放していくが、祝家荘を攻めたとき、祝家荘と同盟関係にある扈家荘の武術に秀でた美女・扈三娘が、槍を持って祝家荘の救援に駆け付ける。扈三娘の武威はすさまじく、梁山泊の豪傑・王英はついに生け捕られてしまう。
盗仙草
金山寺の長老法海の策略で妻が白蛇であることを知った青年・許仙はショックのあまり瀕死の状態。夫を救うため、白蛇の化身・白素貞は霊芝仙草を採りに仙山に向かう。山の守護神である鶴童と鹿童に行く手を阻まれ、激しい戦いを繰り広げるが、ついに仙草を手に入れる。
秋江
宋時代、陳妙常は、想いをよせる潘必正が都へ旅立ったことを知り、尼寺を捨て船着場へ駆け付けるが、既に船は都へ向けて発った後。川辺に老船頭を見つけると、恋人の乗る船を急いで追いかけるように頼み込む。ところが老船頭は、彼女の慌てふためく様子を見るとわざと出発をじらしたり、やっと船を出したかとおもえば、船中では陳妙常をさんざんからかったり。それでも心根のやさしい老船頭は、最後には鮮やかな櫂さばきを披露し、見事恋人の乗る船に追いつく。
鬧天宮
天宮の玉帝は孫悟空を斉天大聖に就任させ祝宴を設けるが、悟空は招かれざる客であることを知り、怒り大爆発。用意された仙桃や仙酒、不老不死の仙薬・金丹を飲み尽くして悟空は下界に行ってしまう。とうとう玉帝は天界の将軍たちに神兵を率いて悟空討伐を命じ、天界の神軍と猿を率いる悟空軍の大決戦となるが、悟空は天界軍を散々に打ち破る。