俊寛 / 十六夜清心

#112

2002/03/03

今日は三月大歌舞伎の初日。夜の部を観ようと歌舞伎座に午後4時頃着いてみると、どうやら昼の部が予定外に押しているらしく歌舞伎座前は開場待ちの客で賑わっていました。最後の一枚が残っていた三階B席は西の一番舞台寄りで、座ったままでは花道を見ることができない場所でした。

俊寛

仁左衛門丈・猿之助丈と観て今日は幸四郎丈。三津五郎丈の丹左衛生門と橋之助丈の丹波少将がそれぞれ仁にかなっていて、それ以上に左團次丈の瀬尾太郎は「慈悲も情けも身どもは知らぬ」の憎々しげな台詞がもうこの人しかいません。俊寛は、いったんは思い切ったものの後悔の念に取り憑かれて船を追いやがて放心するクライマックスに向けて、心なしかさらっと流れた感じがしましたが、幸四郎丈はどういう思いをそこにこめたのか?

十六夜清心

河竹黙阿弥得意の悪の美を描く世話物。仁左衛門丈の清心と玉三郎丈の十六夜に左團次丈の白蓮、秀太郎丈のお藤と充実した配役です。冒頭、稲瀬川端でわいわいやっている町人が、証文のつもりで読み上げてみると清元や役者の配役表だったというチャリで舞台が始まり、清元独特の高い粘った声(ついでに書くと見台は房なしで足が箱)で清心と十六夜の心中に至るまでが語られます。水練の心得が邪魔して死にきれず、泳ぎついた百本杭川下で誤って寺小姓求女を殺してしまうまでの清心には、黙阿弥の七五調の名セリフがあってもまるで感情移入できなかったのですが、月明りに照らされて「しかし待てよ」と悪に目覚めるところからようやくエンジンがかかってきました。一方の十六夜は最初の出が花道で、これを真上から見下ろすかたちになりましたが、玉三郎丈の風情のあるたたずまいはこの角度からでも十分に魅力的です。ところが、その十六夜改めおさよが大詰の白蓮本宅になるとこれも悪に目覚めてがらっと雰囲気が変わり、声の調子もぐっと低くドスがきいて、座った姿も首を落とした猫背、目つきもむしろ清心=清吉よりすわっていますが、それでもあくまで女。この大詰めの強請り場でお客もぐっと盛り上がってきましたが、残念ながら今回は通し狂言といいつつ三人が捕り手に囲まれるところで終わり。やはり、最後の清吉とおさよの因果応報の死まで筋を追ってほしかったと思いました。

出演

俊寛 俊寛僧都 : 松本幸四郎
丹左衛門基康 : 坂東三津五郎
丹波少将成経 : 中村橋之助
海女千鳥 : 中村孝太郎
平判官康頼 : 大谷友右衛門
瀬尾太郎兼康 : 市川左團次
十六夜清心 極楽寺所化清心後に鬼薊の清吉 : 片岡仁左衛門
扇屋抱え十六夜後におさよ : 坂東玉三郎
恋塚求女 : 中村勘太郎
下男杢助実は寺沢塔十郎 : 片岡亀蔵
船頭三次 : 市川男寅
道心者西心 : 坂東弥十郎
白蓮女房お藤 : 片岡秀太郎
俳諧師白蓮実は大寺正兵衛 : 市川左團次

あらすじ

俊寛

→〔こちら〕

十六夜清心

場所は鎌倉、遊女十六夜と深い仲になったことで極楽寺を追われた清心は、廓を抜け出た十六夜と手に手をとって川へ身を投げたが、泳ぎの達者な清心は死にきれず、十六夜も俳諧師白蓮に助けられる。通りかかった寺小姓求女の命をはずみで奪ってしまった清心はいったんは悔いて死のうとするが、雲間から差し込んだ月明りに照らされた瞬間、一転して悪の道に転ずる決意を固める。

一方、白蓮の囲われ者となっていた十六夜は尼になろうと髪をおろして清心の菩提を弔う旅に出たものの、やがて清心あらため鬼薊の清吉と巡り会って自分も悪に染まる。共謀して白蓮宅へ強請りに乗り込んだ二人だったが、ただの金貸し業と見えた白蓮は実は頼朝公から極楽寺に奉納された祠堂金三千両を盗んだ大泥棒だった。さらに白蓮と清吉が実の兄弟と知れて意気投合したところを捕り手が取り囲む。