King Crimson
2003/04/16
King Crimsonのライブ。今回は最新作『The Power to Believe』をメインに据えてのツアーです。今回来日のメンバーは前回同様、Robert Frippに、Trey Gunn、Pat Mastelotto、そしてAdrian Belewというラインナップ。
東京厚生年金会館に開場時刻を少し過ぎた頃に到着し、さっそくツアーパンフを……と思ったら今回はCD付きのツアーボックスになっていて3,000円もしました(後で中のCDを聞いてみたら大半がRobert Fripp等へのインタビューで、わずかに何曲か演奏も収録されていました。しかし、ツアーボックスに収められたツアーブックの中のライブ写真がなかなかよかったので一応納得)。さらに宮殿ジャケットのデザインのTシャツを買ってから、1階後方の席につきました。
ステージ上はこれも前回同様に中央奥がPat Mastelottoのドラムセットで、V-Drumのパッドが垣間見えています。その前にキーボードとエレクトロニックパーカッションを置いたAdrian Belewの立ち位置があり、下手側はTrey Gunnの賑やかな足回り、上手側がサウンドスケープの機材等を収めたラックの前にRobert Frippの椅子。
開演予定時刻の少し前、まだ客席が明るいうちに拍手があがり、何ごと?と舞台上を見るとシルエットになって表情がわからない男性が出てきて上手の椅子に座り、ラックの機材をいじったりギターをふいたりしていますが、その輪郭はまぎれもなくRobert Frippです。そのまま、まだ客が通路を歩き回っているのも気にせずギターを構え、静かにサウンドスケープの持続音を出し始めました。徐々に音量が上がり、分厚い和音が会場を埋め尽くすようになった頃にやっと照明が落ちてメンバー登場。そしてヴォコーダーを使ったAdrian Belewのボイスは新作1曲目の「The Power to Believe I: A Cappella」で、Pat Mastelottoのカウントで「Level Five」に突入。以下、『THRAK』『The ConstruKction of Light』『The Power to Believe』からの選曲で固めた楽曲群はいずれもRobert Frippがヌーヴォ・メタルと呼ぶヘヴィかつ緻密なサウンドで塗り固められており、聴く者と演奏する者の双方に極限までの緊張感を強いるパフォーマンスでした。しかしさすがの彼らもミスることはあって、真ん中へんの1曲ではイントロがしばらく進んだところでどうやらAdrian Belewが曲の進行を見失ったらしく演奏がストップ。Pat Mastelottoを真ん中にTrey GunnとAdrian Belewが何ごとかを確認し合って(その間Robert Frippは離れたところで椅子から動きません)、張本人のAdrian Belewが「もう一度トライしてみます」とアナウンスしてから改めて演奏する場面があり、彼らも人の子なんだな、と妙にほっとしました。
ライブの模様は複数のカメラで撮影されており、何らかの映像作品の制作が予定されている模様(後日DVD化されました)。そのせいかどうか、ライティングはKing Crimsonとしては例外的と言えるほど凝った美しいもので、また途中から巨大な水牛の角のようなオブジェが空気で膨らまされて4本立ち上がるなど、視覚効果にかなりの演出が施されていました。そんな中で、椅子に腰掛けたRobert Frippはかたくななまでに照明が当たることを拒絶し、終始薄紫色のライトが一つだけ彼を捉えているほかは、スポットライトの類いは一切当たらず、表情も演奏している様子もほとんど見えません。Adrian Belewは2本のStratocasterを曲によって持ち替えながら、Robert Frippとの超絶的なコンビネーションを見せたり、彼ならではの奇妙奇天烈なソロを弾いたり、「Happy With What You Have To Be Happy With」「The World's My Oyster Soup Kitchen Floor Wax Museum」「Dinosaur」といった曲を存在感あるボーカルで歌ったり。陽気なAdrian Belewと対照的にひたすら静かなTrey Gunnは2本のWarr Guitar(おそらくフレットレスとフレッテッド)を使い分け、さらにキーボードスタンドのようなものを自分の下手側においてWarr Guitarをその上に横置きしてスティールギターのように弾いたり2本同時に弾いたりしていました。そして今回も存在感にあふれていたのがPat Mastelotto。あのド迫力の体躯でドラムキットが壊れるんじゃないかと思えるくらいぶっ叩いているように見えるのに、ジャストのタイミングでかなり手数の多いフレーズを叩きだしていて、パッドをトリガーとしたトリッキーな音づくりでも聴衆を幻惑しました。それにしても、Adrian Belewの白いTシャツ姿はお腹がでっぷり出ていて、ほとんど肌シャツを着ているようにしか見えないんですが、もう少し衣裳に工夫しようという気はなかったのでしょうか?
アンコールは2回。終了後にメンバーが揃ってリスペクトの拍手を送る聴衆に挨拶をし、下手へ消えるときにRobert Frippが振り返って深々とお辞儀をしました。これを見た聴衆はひときわ大きな拍手を送るとともに、これ以上のアンコールはないことを悟って帰り支度を始めます。こうした、聴衆とバンドとの間の無言の対話ができあがっているのは強靭な忠誠心をもつファンに支えられてきた彼らのライブならでは。それにしても、最後の「Vrooom」が懐かしく感じるほど新フォーマットでの楽曲中心で終始したステージからは、現在のKing Crimsonが1970年代はもとより1980年代からも隔絶した存在であることを誇るかのような強い意志が感じられました。このバンドが「進化し続ける怪物」と評されたのは前作『The ConstruKction of Light』のときだったと思いますが、それは現在も有効な形容で、そうした状態にあるバンドには「21st Century」も「Red」も不要であるに違いありません。会場を出る聴衆のうちの2人が「80年代の曲すら演らないんだな」「結局知っている曲は1曲もなかったよ」と語り合っていましたが、今日の楽曲群の中に『Discipline』からのキャッチーな、しかしヘヴィネスの欠ける曲を入れても、聴衆はいったんは喜んだでしょうが、それはすぐに不満に変わったに違いありません。Metal Crimsonと言われた『THRAK』からの叙情的なナンバー「One Time」ですら、浮いて聴こえるほどだったのですから。
ミュージシャン
Robert Fripp | : | guitar, soundscape |
Adrian Belew | : | guitar, vocoder, percussion, vocals |
Trey Gunn | : | warr guitar, bass |
Pat Mastelotto | : | drums |
セットリスト
- Introductory Soundscape
- The Power to Believe I: A Cappella
- Level Five
- ProzaKc Blues
- The ConstruKction of Light
- Happy With What You Have To Be Happy With
- Elektrik
- One Time
- Facts of Life
- The Power to Believe II (Power Circle)
- Dangerous Curves
- Larks' Tongues in Aspic: Part 4
-- - The Deception of the Thrush
- The World's My Oyster Soup Kitchen Floor Wax Museum
-- - Vrooom