21st Century Schizoid Band

2003/11/14

昨年の同じ時期に来日した21st Century Schizoid Bandが、またやってきました。一過性のプロジェクトじゃなかったのか?新譜を出したわけでもないのに?うーん、正直あまり観たくありませんが、きっと会場はがらがらだろうからここで私が行かなければIan McDonaldは悲しい目に会うだろうな〜(←義侠心)、という訳でチケットを買ってしまいました。ただし、前回とはドラマーが変わっており、今回はMichael GilesではなくてIan Wallaceです。King Crimsonの4枚目『Islands』に参加したドラマーで、そのへんが期待と言えば期待。

会場は前回と同じ厚生年金会館で、そのときはほぼいっぱいになっていたのに、今回は2階席は完全にクローズ、1階席も七分の入りでかなり寂しく、悪い予感が当たってしまったようです。ステージ上も前回と似ていて、両翼にシンセが1台ずつ(KORGのTriton)とたくさんの管楽器、さらに上手の端にはグランドピアノ。中央やや左寄りがギタリストの立ち位置で、右寄りがベーシストの位置。前回とはっきり違ったのは中央奥のドラムセットで、Michael GilesはツーバスのセットでしたがIan Wallaceのセットはワンバスで、しかもレフティ仕様です。そうか、彼は左利きだったのか……。

定刻をやや過ぎて会場が暗くなり、メロトロン系のSEが流れる中メンバーが登場。これも前回と同じ「A Man, a City」からスタートしました。演奏はいいのですが、ドラムの音量が小さくなんだか迫力ないままに終了。2曲目の「Cat Food」ではこの点は改善されましたが、Ian McDonaldのシンセピアノはちょっとそれはないんじゃないか?というチープな音質&フレーズでした。それでもMel Collinsの炸裂するサックスに気を取り直したところで、Jakko JakszykのMCが「コンバンワ、トキオ」。日本語が下手ですみませんと律儀にカタカナ読みをして、Ian McDonaldの曲である「Let There Be Light」。その次の曲はIan McDonaldのピアノとJakko Jakszykの静かなボーカルから入るマイナーな雰囲気から、途中唐突にコミカルなサックスも入る不思議に長い曲(後日「Cirkus」と判明)。

ここまで会場がなんとも盛り上がらず、なんだか見ていて痛々しい感じがしてきたのですが、Ian McDonald、Mel Collins、Jakko Jakszykのフルート三重奏で「Cadence and Cascade」が演奏されたときには大きな拍手が湧きました。演奏はそのままバンドスタイルに移行し、緩やかなリズムセクションの上にIan McDonaldのグランドピアノとMel Collinsのフルートが乗って叙情的なこの曲の魅力にうっとり。「The Court of the Crimson King」を経て、ダーティーなギターのフレーズから「Ladies of the Road」が始まり、あのギターとボーカルをJakko Jakszykが器用に二役でこなしている間、Ian McDonaldがタンバリンを入れていたのですが、そのうちIan McDonaldが妙に落ち着きなくきょろきょろしているのに気付きました。キーボードの上、譜面立て、足元、ピアノの周りとうろうろしながら視線を走らせたり、何度か自分の喉元を触ったり。最後の仕種でどうやらサックスを吊るすストラップを探しているらしいとわかったのですが、彼の目の前に座っている私の周囲の聴衆も同じことに気付いたらしく、はらはらしながらIan McDonaldの様子を見ていてもう曲を聴くどころではありません。結局ピアノの近くに落ちていたストラップを見つけ、本当にぎりぎりのタイミングで間に合いました。

「Schizoid Bandの新曲です」と紹介があって、7/8拍子のインスト曲。流れるようなギターソロ、Mel Collinsのサックスソロ、そしてここまで比較的淡々と叩いていたIan Wallaceがいよいよ本領発揮のソロコーナーがあって凄い迫力。この間、Ian McDonaldの方はサックス、シンセと忙しく裏方に回っていました。ようやく会場もヒートアップしてきた感じで、続いてPeter Gilesの和音を多用したベースソロからグランドピアノとフルートが入って、ブラシを使ったドラムの上にしみじみとしたボーカルが流れて、前回のライブ後に大好きになった「Formentera Lady」。サックスとスキャットの掛け合いでぐっと盛り上げていって、やがてアンビエント系のギターが静かに流れるパートに移り、そこに聞き慣れたライドシンバルのフレーズが入ってきて会場がわっ!と湧きました。「The Sailor's Tale」です。Ian Wallaceの怒濤のリズムとパワフルなMel Collinsのサックスが最高。これはこの日一番の演奏だ、と思いながら聞いていたら、ふと見るとベーシストの姿がありません。長い曲に疲れたのか、ピアノのかげで椅子に座って弾いていたようです。

「I Talk to the Wind」「Epitaph」ときて、最後の曲とMCがあって「21st Century Schizoid Man」。ここでこの曲を持ってくるのか!と驚きながら、ベースの高音域での細かいフレージングやツインペダルでのド迫力のドラム、そして見事にタイミングを合わせるキメのフレーズに聞き入りました。演奏終了と同時に聴衆は立ち上がって大拍手。

いったん袖に下がったメンバーが再び登場。Ian McDonaldのシンセからストリング音がフェードインしてきて、客席から大きな拍手が上がりました。今回のライブの目玉である「Starless」です。「Starless」はJohn WettonやBill Bruford在籍時のラストアルバム『Red』の最後のナンバーですが、Ian McDonaldやMel Collinsもゲスト参加している曲で、確かにこのメンバーで演奏するのも理由のないことではありません。そして、実はこれが文句なしの演奏でした。最初のボーカルパートも声がよく出ていましたし、Mel Collinsのソプラノサックスにも感涙。中間のギターの単音フレーズの部分ではドラムがカウベルや径の小さいシンバルで細かく効果音を出していて雰囲気満点で、そして脱兎のようにリズムが走り出すところは(ちょっとテンポが遅かったものの)先日のJohn Wettonの演奏よりはるかにパワフルでソリッドでした。最後はあの分厚いストリングスで、それでもここはその分厚さが命なのでツインキーボードでやってほしかったのですが、とにかく演奏が終わったときは会場総立ちとなりました。その後、最後にもう一度ステージに戻ってきて「Birdman」の一部を演奏してくれて終了しましたが、これは予定されていたものかファンサービスかは不明。しかし、これがなくても会場としてはもう十分満足したに違いありません。

会場に行く前は「懐メロバンドの存在意義とは?」「新曲を出さずに(プロの)ロックミュージシャンがつとまるのか?」などと形而上学的(?)な疑問が脳内に渦巻いていたのですが、とにかくいい楽曲をいい演奏でステージ上で再現してくれるのであれば、それはそれで聴衆にとってうれしいことなのだからいいのだとあっさり納得をして会場を出ました。この辺りのことについて、終演後に会場で会ったfruuppさんとビアグラス片手に語り合う時間があったらさぞ楽しかったでしょうが、あいにくこちらの都合があわず、それだけが残念。

ミュージシャン

Jakko Jakszyk vocals, guitar, flute
Ian McDonald saxophone, flute, keyboards, vocals
Mel Collins saxophone, flute, keyboards, vocals
Peter Giles bass, vocals
Ian Wallace drums, vocals

セットリスト

  1. A Man, a City
  2. Cat Food
  3. Let There Be Light
  4. Cirkus
  5. Cadence and Cascade
  6. The Court of the Crimson King
  7. Ladies of the Road
  8. Catley's Ashes
  9. Formentera Lady
  10. Sailor's Tale
  11. I Talk to the Wind
  12. Epitaph
  13. 21st Century Schizoid Man
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  14. Starless
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  15. Birdman