八重桐廓噺 / 身替座禅 / 梅ごよみ / 御存鈴ヶ森 / 阿国歌舞伎夢華 / たぬき / 今昔桃太郎

#194

2004/12/25

今年最後の歌舞伎座は、勘九郎丈の中村勘三郎襲名前の最後の興行です。

八重桐廓噺

昼の部は、まず福助丈の「八重桐廓噺」。後に足柄山で金太郎(坂田金時)を産み育てることになる山姥の前日譚というわけですが、途中の「しゃべり」と呼ばれる、竹本と掛け合いの独り語りが身振り手振りを交えて面白く、引き込まれます。腰元お歌の猿弥の怪演(自分が女形をやっていいのか?みたいなやけくそ)、太田十郎のたばこ尽くし(マルボロやセーラムライトまで出てきます)で笑わせて、最後に紫の紙衣から純白の異形へと鮮やかなぶっかえりで拍手喝采。

身替坐禅

勘九郎丈・三津五郎丈の名コンビで、特に三津五郎丈の奥方はかなり目が怖かった……。なるほど型が違うものだなと思ったのは、花子のもとへ行く方便に右京が奥方に仏詣を申し出る場面で、昨年観た富十郎丈と吉右衛門丈の組み合わせのときには左右に並んで真っすぐ客席を向いていた二人が右京の一年かかろうや二年かかろうやのところで一瞬顔だけ横を向いてきっと目を見交わす場面があったのに、今日はあらかじめ客席に向かって45度の角度で差し向かっていたこと。だまされたと知った奥方が悔しがって泣くところでは奥方の右京に対する愛情の深さが感じられてうれしくなりましたが、橋之助丈の太郎冠者はちょっと出過ぎの感がなきにしもあらず。

梅ごよみ

きっぷのいい深川芸者の恋の鞘当てを勘九郎丈と玉三郎丈が見せてくれて、百点満点の楽しさです。深川はお城の巽の方角なので辰巳芸者とも呼ばれ、吉原のような公認遊郭ではないことから権兵衛名(男名前)に羽織を着た伝法な気風であったとか。玉三郎丈は、そうした男っぽさをにじませた女の役を男が演じるという複雑なシチュエーションを完璧に演じていました。勘九郎丈の芸者?とこちらには最初「?」をつけていましたが、姉さん女房風の可愛さが出ていていい感じ。イヤホンガイドを聞いていたのですが、段治郎丈の丹次郎は大抜擢であるとのこと。しかし、落ち着いたいい芝居でした。

ここまでで昼の部は終わり。夜の部で観劇仲間ユキ姉と合流し、鶴屋南北の「御存鈴ヶ森」から。

御存鈴ヶ森

幡随院長兵衛お若えの、お待ちなせえやし、白井権八雉子も啼かずば討たれまいにの名セリフは有名で、権八との立ち回りでの雲助たちの斬られ方(腕を落とされたり足を斬られたり顔を削がれたり)も工夫があって楽しめました。なお、飛脚早助役で山左衛門丈の名代昇進披露と手締めがありました。

阿国歌舞伎夢華

夜の鈴ヶ森の暗い舞台から一転して、京の郊外、桜の花咲く明るい舞台に黄や橙色の衣裳もあでやかな舞踊劇。ここでの玉三郎丈は阿国そのものの姿で、手の先からつま先まで気持ちが行き届いた舞の優美さにうっとり。名古屋山三が消えた後、振り散る桜の花びらを受けながら周囲の者が踊り続ける中で、悲しみに一度は打ちのめされそうになりながらも堪えて舞い踊る姿が夢幻的で、涙が出てくるほどの美しさでした。

たぬき

大佛次郎の「たぬき」は、前半のさまざまなおかしみが秀逸。焼き場で生き返った三津五郎丈の妾・福助丈は太鼓持・勘九郎丈の妹という設定で、まずもってこの兄妹のやりとりが抱腹絶倒、勘九郎丈は「あんたは谷啓か?」とツッコみたくなるくらいネタの連発で笑わせてくれます。福助丈もこれに負けず劣らずの世俗的なキャラで掛け合いますが、別室に入ってシルエットになって身繕いするところ、着物を替える途中でブラを着け、胸をちょっと持ち上げる仕種をかまして大爆笑。妾の不実を知って姿を消した三津五郎丈が芝居見物の幕間に芝居茶屋で太鼓持と再会し、太鼓持をさんざんにうろたえさせるところも勘九郎丈全開ですが、ここから後の展開が私にはすっきりしません。主人公は子供に正体を見破られて自宅に戻る決心をするのですが、自宅近くまで太鼓持を伴って出向いたのは、子役の出る芝居(「伽羅先代萩」)で泣いて我が子に会いたくなったからなのか、それとも旧知の仲の太鼓持に会っての気まぐれだったのか……。

今昔桃太郎

最後は渡辺えり子作の「今昔桃太郎」。昭和34年(1959)に「昔噺桃太郎」で初舞台を踏んだ勘九郎丈、その勘九郎丈の名前での最後の舞台を桃太郎で締めくくろうという洒落で、冒頭に初舞台の様子が黒衣のかざすスクリーンに映し出された後、その子役姿の勘九郎丈がそのまま舞台上に飛び出してきた!と思ったら中村宗生くん演じる桃太郎甥・宗蔵でした。これは桃太郎の甥っ子という設定ですが、勘九郎丈は橋之助丈の義兄で、宗生くんは橋之助丈の次男なので、実際に甥っ子ということになります。さて、台車に乗せられて登場した桃太郎はぶくぶくに太り、含み綿メイクで面体が変わってしまっていて、まさに飽食の時代の残滓という感じ。ところが再び日本征服を狙う鬼軍団(頭の上ににょきっと角が飛び出してくるのが不思議!)の策略にかかって踊り狂いの病にかかってしまいます。村人たちの踊り狂いはMichael Jacksonのスリラー顔負けの異様さで、これが本当に歌舞伎か?という感じですが、竹本も負けじとパワー全開で、ほとんどこめかみに静脈を浮き出させながらがなっている感じ。この踊り狂いの中で勘九郎丈によって踊られるのが「藤娘」「まかしょ」「棒しばり」「高杯」などなど。「棒しばり」は三津五郎丈とのペアで踊るのをテレビで観たことがあります(二人でディスコに行ってこれをその場の曲に合わせて踊って大ウケだったとか!)が、下駄でタップダンス(?)を踊る「高杯」は初見だったので驚いてしまいました。そして、踊り進んで行くうちに次第に痩せていき、元の心身のキレを取り戻した勘九郎丈が痩せるには踊りが一番。隣村のえり子に教えてやろう。美しい桃の精の福助丈がスモークの中に出てきて放つ桃太郎、おっかさんですよにも歌舞伎座中が「え、えぇーっ!?」とずっこけた感じで、まったく何でもありのスラップスティック歌舞伎ですが、再演なし、当月限りの演目に出演者一同楽しみながらも全力投球している様子がひしひしと伝わってきます。ところで、桃の精が去って暗転してから再び明るくなるはずのところで舞台装置にトラブルがあったらしく、予定外ながら暗闇の中いったん幕を下ろして舞台側だけ明るくして対処する場面がありました。この間幕の向こう側から舞台スタッフの緊迫したやりとりが聞こえてきてハラハラしましたが、数分ののちに無事に幕が上がると桃太郎が目覚めて今のは夢か、ずいぶん長い夢だったなとアドリブでフォロー。そしていよいよ復活なった桃太郎が再び鬼退治に出向く場面で、驚きの演出が待っていました。45年前の「昔噺桃太郎」での犬猿雉を演じた役者さんのうち、犬と猿はその息子、雉は本人(役柄の上でも実際にも)が今回の「今昔桃太郎」での犬猿雉をつとめていたのですが、犬の長老ということでかつて犬を演じた又五郎丈が花道から登場したのです。90歳の長老・又五郎丈に舞台上で祝福された桃太郎が、勇躍花道を旅立って大団円。いやー、楽しかった。

これで今年の観劇は全て終わり。来年も、たくさんの素晴らしい舞台に出会いたいものです。

出演

八重桐廓噺 八重桐 : 中村福助
煙草屋源七実は坂田蔵人時行 : 中村信二郎
沢瀉姫 : 中村七之助
腰元お歌 : 市川猿弥
太田十郎 : 坂東弥十郎
腰元白菊実は時行妹糸萩 : 中村扇雀
身替座禅 山蔭右京 : 中村勘九郎
太郎冠者 : 中村橋之助
侍女小枝 : 中村七之助
侍女千枝 : 市川門之助
奥方玉の井 : 坂東三津五郎
梅ごよみ 芸者仇吉 : 坂東玉三郎
丹次郎 : 市川段治郎
千葉半次郎 : 市川門之助
政次 : 市川笑三郎
本田次郎 : 市川寿猿
お蝶 : 市川春猿
古鳥左文太 : 市川猿弥
千葉藤兵衛 : 坂東弥十郎
芸者米八 : 中村勘九郎
御存鈴ヶ森 幡随院長兵衛 : 中村橋之助
白井権八 : 中村七之助
阿国歌舞伎夢華 阿国 : 坂東玉三郎
名古屋山三 : 市川段治郎
元禄の人 : 市川猿弥 / 市川春猿 / 市川笑三郎 / 市川笑也 / 市川右近
たぬき 柏屋金兵衛 : 坂東三津五郎
妾お染 : 中村福助
女房おせき : 中村扇雀
狭山三五郎 : 中村橋之助
門木屋新三郎 : 市川門之助
倅梅吉 : 齋藤勇一郎
松村屋才助 : 中村信二郎
備後屋宗右衛門 : 坂東弥十郎
芸者お駒 : 中村東蔵
太鼓持蝶作 : 中村勘九郎
今昔桃太郎 桃太郎 : 中村勘九郎
桃の妖精 : 中村福助
忠吉 : 中村橋之助
吾作 : 中村信二郎
お米 : 市川門之助
桜 : 中村七之助
宗蔵 : 中村宗生
妖精 : 中村隼人 / 中村国生 / 岡村研佑
猿 : 市川猿弥
犬 : 坂東弥十郎
お松 : 中村扇雀
薬売り : 坂東三津五郎
長老の犬 : 中村又五郎

あらすじ

八重桐廓噺

元は傾城、今は傾城の恋文の代筆をして歩く八重桐は、大納言岩倉兼冬の館の前で、行方が知れなくなった恋しい坂田蔵人時行と自分しか知らないはずの、聞き慣れた歌を耳にする。館に入った八重桐は、兼冬の娘沢瀉姫を囲む人々の中に、煙草売りに身をやつした時行を発見。沢瀉姫に乞われるままに、自分を棄てた時行への複雑な想いを込めて、その境遇を立て板に水のごとく語る。時行は怒るが、父の仇を妹の糸萩が討ったことを知り、我が身の不甲斐なさに腹を切り、自分の魂を八重桐の体内に宿して死ぬ。神通力を得た八重桐は澤潟姫を連れ出そうと寄せてきた太田十郎を追い散らす。

身替座禅

→〔こちら〕

梅ごよみ

張りと意気地が身上の辰巳芸者。そのひとり米八は、お蝶という許嫁がいる唐琴屋の養子丹次郎にぞっこん惚れ込み、丸抱えで面倒を見ている。もうひとりの辰巳芸者仇吉もまた、美しい丹次郎に一目惚れ。丹次郎が恩ある人のために探しているという茶入れを奪還するために、ひと肌脱ごうと意気込む。丹次郎を取り合う仇吉と米八の直接対決は、大喧嘩に発展。しかし、茶入れがめでたく丹次郎の手に入り、お蝶と祝言をあげることになって、骨折り損の仇吉と米八は「しらけるねぇ」と負け惜しみを言いながら和解する。

御存鈴ヶ森

盗賊と化した雲助が多数出没する、東海道品川宿近くの鈴ヶ森。ここへ駕籠で乗り付けたのは、はかなげな美少年、白井権八。雲助たちの餌食になると思いきや、権八は一刀のもとに賊を斬りつけ、事なきを得る。その刀さばきを見ていた花川戸の侠客幡随院長兵衛は、権八が追われる身であることを承知の上で世話をすると申し出、権八も男気のあるその言葉に感謝して、江戸での再会を約して別れる。

阿国歌舞伎夢華

出雲大社の巫女阿国は、歌舞伎踊りで耳目を集めようと、京の都にやって来る。艶やかな阿国の踊り姿に、京の人々は夢中。そこへ今はなき歌舞伎者の名古屋山三の幻が現れ、阿国と仲睦まじく踊り出す。やがて夢が覚めると山三の姿は消え、阿国は人々とともにひたすら舞い踊る。

たぬき

はやり病の「ころり」で死んだはずの道楽者の柏屋金兵衛は、荼毘に付される直前に、息を吹き返す。女房のおせきのもとには帰る気になれず、妾のお染を訪ねたものの、お染はすでに狭山三五郎といい仲。ショックを受けた金兵衛は、甲州屋長蔵と名を変え、別人のように猛然と働いて、成功を納める。二年後、芝居茶屋の座敷で、お染の兄の太鼓持ち蝶作に出逢った金兵衛は、戦慄する蝶作を伴って、かつての家族のもとに出向いたが、幼い息子・梅吉の「ちゃんだ」の言葉に、家に帰る決心をする。

今昔桃太郎

桃の花散る、のどかな村の春。鬼退治からはや幾歳。あの桃太郎は自分では歩けないほど太った身体を台車に乗せ、犬と猿に引かせるダラけ切った姿に、昔の面影は皆無。ところが、折からやってきた薬売りも、長年健気に下働きをつとめる忠吉も、無口な女房・松さえも鬼だった。薬売りの薬を飲まされて桃太郎も村人一同も身体が勝手に踊りだし、止めることができない。自分の愚かしさにやっと気付き嘆く桃太郎の前に桃の妖精が現れ、与えられた桃の実によって鬼の踊りはようやく止まる。すっかり昔の覇気を取り戻した桃太郎は、かつての名刀や犬・猿・雉のお供を得て、再び鬼退治に乗り出していく。

この日の夜の部は、一年の締めくくりということで奮発して桟敷席(お一人様16,800円!)でした。写真のとおり、二人一組の席ですが隣との間には肘程度の高さの低い間仕切りがあるだけです。我々が坐ったのは東側の桟敷席で、花道からは遠い方ですが、花道上の役者はこちらを向いて芝居をするので、こちら側が正面ということになります。食事は係の人が席まで注文を聞きに来てくれることになっていて、左の写真の左側が桟敷寿司、右側が桟敷幕乃内、いずれも3,300円也。

桟敷席からのリッチな観劇は楽しかったけど、やはり年に一度の楽しみにするのがいいかな。より多くの芝居を観に行けるように。