松廼寿操三番叟 / 梶原平三誉石切 / 盲長屋梅加賀鳶 / 女伊達 / 鳴神 / 土蜘 / 新皿屋舗月雨暈

2005/01/03

2005年の歌舞伎座は、まずは三番叟で新年を言祝ぎます。

松廼寿操三番叟

松羽目の舞台で、翁(歌六丈)、千歳(高麗蔵丈)の荘重な舞の後に、後見(猿弥丈)に操られて糸操りの三番叟の人形(染五郎丈)が人形振りで舞うのですが、後見との息がぴたりと合って気持ち良く、常に片足に重心を置いて吊られている様を表現したり、糸がもつれての回転や糸が切れてだらりとする姿が巧み。明るく、品があって、しかもおかしみのある祝祭舞踊です。

梶原平三誉石切

吉右衛門丈の家の芸。梶原景時が二つ胴の場面で刀の柄に下げ緒を巻くところが吉右衛門型、とイヤホンガイドの解説。頼朝の再起を告げるちょい役の奴が染五郎丈というのも不思議ですが、昔からこの役は梨園の御曹司が演じる役なのだとか。かわいそうに試し斬りにされる罪人の剣菱呑助(秀調丈。それにしても、なんという名前だ……)が酒づくしの台詞で清酒だけでなく「百年の孤独」や「一番搾り」を交えるのが笑いを誘います。

盲長屋梅加賀鳶

黙阿弥の「盲長屋梅加賀鳶」は、1999年に天王寺屋の道玄で観たことがありますが、高麗屋のもなかなか。序幕の勢揃いで加賀鳶の頭の男振りを見せた幸四郎丈が二幕目からは滑稽味もある悪役・按摩の道玄を演じるのが面白く、質見世でだんだん高飛車になっていくねちっこさと、松蔵(三津五郎丈)にあっけなく偽計を暴かれてへなへなと腰砕けになる情けなさがいかにも。弁慶や松王丸もさることながら、かえってこういう世話物の端敵もはまっている感じ。おさすり、と呼ばれる色気のある悪女お兼を福助丈が演じますが、私の後に坐っていた夫婦の会話「福助は、こういういやらしい女が似合うわねぇ」「うん、お姫様なんかは全然合わないね」おいおい……。なお、鳶頭の松蔵・梅吉、それに竹垣道玄の三人で松竹梅で、桜が竹に変わっているものの菅原伝授手習鑑を連想させる仕掛けなのだとか。

昼の部を助六をもじった「女伊達」で締めて、夜の部は歌舞伎十八番の内「鳴神」から。

鳴神

これはもう鳴神上人(三津五郎丈)と雲の絶間姫(時蔵丈)の絡みが見どころで、権威溢れる高僧の上人が百戦錬磨の絶間姫の手練手管に絡めとられて情けなくも己の情欲に負け、酒にも負けるところが観ていてかわいそうになってきます。上人の手が胸に入っているときの絶間姫の恍惚とした表情も色っぽさを通り越していて、ちょっと子供には見せられない感じ。後半の荒事も面白く、ぶっかえりで衣裳が変わった後は、所化たちとの立廻りで所化のひとりが3mの高さからとんぼを切らされたり、人形がぶっ飛ばされたり、やりたい放題。最後は花道を飛び六法で、これぞカタルシス。

土蜘

松羽目物の荘重さの中で高僧(吉右衛門丈)が源頼光(芝翫丈)の前に土蜘の本性を顕わす前半と、平井保昌(段四郎丈)や四天王と茶色の隈取りの土蜘が千筋の糸が飛び交う中で激しく立ち廻る後半の、静と動の対比が見事。特に前半、いつの間にか花道を音もなく近づいている高僧=土蜘の不気味さは背筋がぞくっとするほどで、この瞬間を観るだけでもこの日歌舞伎座に足を運んだ甲斐がありました。なお、頼光に「ご油断あるな」と警告を発する太刀持ち音若の児太郎も好演。児太郎くんは芝翫丈のお孫さん(福助丈の長男)ですから、孫が祖父を助けるの図というわけです。

新皿屋舗月雨暈

「魚屋宗五郎」。昨年観た三津五郎丈の宗五郎は酒を呑んで徐々に酒乱になっていく移り変わりが真に迫っていておかしかったのですが、幸四郎丈の場合は素面のときからのべらんめえ調のせいで、酔った姿が面白くはあっても落差はそれほど感じませんでした。その代わり、端正でない分磯部邸での涙の訴えが泣かせるし、酔いが醒めた後に打って変わって殿様に感謝する、という以前は不自然に感じた展開もより違和感の少ないものになりました。

曜日の並びの関係で短かった今年の正月休みでしたが、最後は歌舞伎座で一日過ごして幸せ。今年もたくさん芝居を観よう。ただし、それにはもっと観劇のための勉強を重ねなければ。

配役

松廼寿操三番叟 三番叟 市川染五郎
千歳 市川高麗蔵
後見 市川猿弥
中村歌六
梶原平三誉石切 梶原平三 中村吉右衛門
六郎太夫 市川段四郎
娘梢 中村福助
奴菊平 市川染五郎
大名川島近重 大谷桂三
大名岡崎頼国 澤村宗之助
大名山口政信 澤村由次郎
囚人剣菱呑助 坂東秀調
俣野五郎 中村歌昇
大庭三郎 市川左團次
盲長屋梅加賀鳶 竹垣道玄・天神町梅吉 松本幸四郎
女按摩お兼 中村福助
春木町巳之助 中村歌六
魁勇次 中村歌昇
昼ッ子尾之吉 市川染五郎
虎屋竹五郎 市川高麗蔵
盤石石松・お朝 澤村宗之助
おせつ 澤村鐵之助
伊勢屋与兵衛 松本幸右衛門
家主喜兵衛 松本錦吾
妻恋音吉 大谷桂三
天狗杉松 澤村由次郎
御神輿弥太郎 坂東秀調
雷五郎次 片岡芦燕
日蔭町松蔵 坂東三津五郎
女伊達 女伊達 中村芝翫
男伊達 市川高麗蔵
男伊達 中村歌昇
鳴神 鳴神上人 坂東三津五郎
所化白雲坊 坂東秀調
所化黒雲坊 大谷桂三
雲の絶間姫 中村時蔵
土蜘 僧智籌実は土蜘の精 中村吉右衛門
平井保昌 市川段四郎
番卒太郎 中村歌六
番卒次郎 中村歌昇
番卒藤内 市川高麗蔵
渡辺綱 大谷桂三
碓井貞光 澤村宗之助
坂田公時 澤村由次郎
巫女榊 中村吉之丞
太刀持音若 中村児太郎
侍女胡蝶 中村福助
源頼光 中村芝翫
新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎 松本幸四郎
宗五郎女房おはま 中村時蔵
小奴三吉 市川染五郎
磯部召使おなぎ 市川高麗蔵
菊茶屋女房おみつ 澤村鐵之助
娘おしげ 澤村宗之助
岩上典蔵 松本錦吾
宗五郎父太兵衛 片岡芦燕
磯部主計之助 大谷友右衛門
家老浦戸十左衛門 市川段四郎

あらすじ

梶原平三誉石切

鎌倉鶴ヶ岡八幡宮に参詣に来た平家方の武将、大庭三郎と弟の俣野五郎のもとへ六郎太夫と娘梢が重宝の刀を売りにやってくる。大庭に刀の目利きを頼まれた梶原平三景時は「名刀」と鑑定するが、納得のいかない俣野により二人の人間を重ね斬りする「二つ胴」で切れ味を試すことに。金の工面をしたい六郎太夫は自ら名乗りを上げるが、六郎太夫が源氏に由縁の者と見た景時はわざと二つ胴を失敗し、大庭・俣野の罵りを受ける。その後で自らもまた源氏に心を寄せることを父娘に打ち明けた景時は、重宝の刀で見事石の手水鉢を斬って割り、刀を買い上げることを約して屋敷へ向かう。

盲長屋梅加賀鳶

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鳴神

陽成帝の御世。朝廷に恨みを抱く鳴神上人は、秘法を遣って三千世界の竜神を北山に流れる大滝の滝壺に封じ込める。そのため一滴の雨も降らず、日照り続きで、民衆は苦しみに喘ぐ日々を余儀なくされる。このため朝廷は雲の絶間姫を上人のもとに遣わし、その色香で上人を堕落させ、竜神を天に飛び去らせて雨を降らせようとする。絶間姫の計略にたばかられた上人は、酔わされた上に龍神を解き放つ行法の秘密を明かしてしまい、寝入った隙に龍神を滝壺に封じ込めている注連縄を切られる。騙されたと知った上人は憤怒の形相を顕わし、経文を引き裂き弟子たちを投げ飛ばし、絶間姫の後を追っていく。

土蜘

平安時代の中頃。病に伏せる源頼光のもとに薬をもって侍女の胡蝶が訪れ、胡蝶は慰みにと都の紅葉の名所の様子を踊り聞かせる。胡蝶が去ると頼光は再び胸苦しさを感じ、そこへ比叡山の智籌と名乗る僧が現れる。その影は尋常ではなく、とうとう土蜘の精の本性を顕わす。平井保昌は四天王と土蜘蛛退治に向かい激しく争い、名剣膝丸の威徳の前に土蜘の精は命絶える。

新皿屋舗月雨暈(魚屋宗五郎)

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