塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

華麗なるスペインバレエGALA

2005/09/09

東京国際フォーラム ホールCで、愛知万博協賛企画「華麗なるスペインバレエGALA」(チケットを購入したときには「スペイン情熱のバレエGALA」というタイトルだったのですが、会場で無料で配布されていたパンフを見ると「華麗なる……」となっていたので、ここではそれにしたがいます。)。スペインのダンサーや、スペイン生まれで他国で活躍しているダンサーなど、スペインゆかりの手練ばかりを集めてスペインバレエの歴史の流れを追う、という企画なのだそうです。バレエも観ればスペイン舞踊も(たまにだけど)観る私にうってつけの企画、しかもあのアンヘル・コレーラが出るのですから、これは観ないわけにはいきません。

最初にダンサーたちが全員でてきて思い思いにポーズ。そして3人の女性を残して他のメンバーが去っていくと、最初の組曲が始まります。スペイン風の衣裳、スペイン風の身体の使い方、そして何より、トリオの後に床に置かれたマントを見据えるようにしてソロを踊った女性ダンサーに降り立ったドゥエンデ(感覚)が、スペインそのものを感じさせます。続く男性ソロも闘牛士風の衣裳のすっきりと粋なダンスで喝采を集めていました。さらに男性のサパテアードと女性のパリージョ(カスタネット)の応酬、6人の群舞といった具合に飽きさせません。スペイン舞踊を観るのは久しぶりですが、やはりあの独特のアイレはなんとも言えません。

続く「海賊」はアリを踊るイゴル・ジェブラが色気に欠け、タマラ・ロホもアリに対してなんだかずいぶんそっけないように思えてしまいました。それに、男性ヴァリエーションはテープの音楽がスローテンポ過ぎ。しかし、コーダでのタマラ・ロホのグラン・フェッテ・アン・トゥールナンが凄かった。2回転おきくらいにトリプルを入れてきて観客を喜ばせてくれたのですが、普通は途中からシングル連続に移行するのに、今日は32回転の最後の方までアグレッシブにトリプルを組み込んできて「おぉー!」と歓声・拍手。

アンヘル・コレーラの「Caught」はデヴィッド・パーソンズ振付のコンテンポラリー。空気を切り裂くような電子音(と思ったのは、後でパンフを見たらなんとRobert Fripp(!)のギターの音でした)、真上からの純白のスポットライトの中に白いロングパンツ、上半身は裸のアンヘル・コレーラが立ち、最初は次々に位置が切り替わるスポットライトの円を追っては、その中で緩やかな振りを繰り返していたのですが、途中から照明が厳しいフラッシュの点滅に変わると、アンヘル・コレーラの姿は魔法のように地上数十cmの高さでポーズをとったり左右に移動したり。実際にはフラッシュの点滅に合わせてジャンプを繰り返しているのですが、その同期があまりにも見事なので穏やかに浮遊しているようにしか見えないのです。そしてフラッシュの合間にところどころスポットライトの中に何事もなかったかのように手を後に組んで静かに立つアンヘル・コレーラの姿が現れるのですが、波打つ胸や汗が、その激しい運動量を如実に物語っています。終わった瞬間、会場中から悲鳴のような大歓声。

日本人でスペイン国立バレエ団に属するタマコ・アキヤマが踊った「砂上」も素晴らしいものでした。無伴奏の女性ボーカルに乗って激しく、土俗的な雰囲気を漂わせたソロに息を呑みます。続くゴジョ・モンテロは、自ら振付けた「Come again」。ギター、ヴァイオリン、ボーカルの美しい曲をバックに、暗い青の照明の中の白く四角いスポットライトの中と、夕日のような真っ赤な舞台全面との二つの世界を行き来しながら、激しいが内省的なソロを踊ります。その孤独感に、観ていて涙が出そうになります。

第1部最後はホセ・カルロス・マルティネス(ジョゼ、と呼んだ方が通りがいいかも)とラウラ・オルミゴンの「黒鳥」でしたが、残念ながらこれは期待外れでした。高さ、スピード、キレ、いずれも不十分。「海賊」の凄いグラン・フェッテの後ではちょっと厳しかったのですが、しかしコーダの最後にラウラ・オルミゴンがポワントでの技の冴えを見せてくれて挽回。

15分の休憩の後、第2部の最初は「イサドラ・ダンカン風ブラームスの5つのワルツ」(振付:フレデリック・アシュトン)。下手に置かれたグランドピアノの演奏に乗ってタマラ・ロホがオレンジのひらひらした衣裳で踊るソロ。最初は人形のように蠱惑的に、そして時折無音のパートをはさみながら徐々に激しく、スカーフをひらめかせたり花びらを撒き散らしたりしながらついには狂おしく踊ります。続く「白鳥XXI」は、イゴル・ジェブラ自身の振付。サン=サーンスの白鳥を男性の強靭な肉体で踊り、生の痛み→死の断末魔をはっきりと示して感動的。

モダンなバレエ作品が続いたところで、「調和」は正統派(?)スペイン舞踊。カホンの大地を揺るがすような響きとともに男女2人が激しいパリージョのバトルを繰り広げます。「調和」というより「情念」といった感じ。次の「私なりに」は、とても美しい音楽に乗って髪に赤い花を挿したラウラ・オルミゴンがポワントを使いながらカスタネットを鳴らします。第1部の「黒鳥」もそうでしたが、彼女は演目の順番で不当に損している感じ。これに対して、やはり「黒鳥」を踊ったホセ・カルロス・マルティネスは「粉屋の踊り」で大きな身体を思い切りに使った大胆なダンスでひきつけました。特に、膝を突いた状態から片膝を引き抜いて思い切り前へ投げ出す(言葉で説明するのが難しい!)動きが強烈。

とてもコミカルな「オー・ソーレ・ミオ」(マッツ・エックはこういう振付もするのか……)をはさんで、いよいよ今日のメインイベントはアンヘル・コレーラとシオマラ・レイエスの「ドン・キホーテ」。恐るべき高さのジャンプと回転スピードはABTのガラ(DVD)で観た通りで、ところどころシンプルになっている箇所もあったかわりに、グラン・ジュテでのマネージュの合間に空中2回転をいくつか入れて観客の度肝を抜き、シオマラ・レイエスが負けじとフェッテのダブルでアバニコを頭上にひらひらさせると、グランド・ピルエットにあの超高速回転を組み入れて対抗するといった具合。恐ろしい……。

全体を通して、テープによる音響が(特にクラシック系の曲で)悪かったのですが、照明の効果は最高。ときどきプロムナード的に登場したドン・キホーテとサンチョ・パンサの存在が最後まで意味不明でしたが、アンヘル・コレーラの気合の入ったダンスも観ることができたし、スペインダンサーの魂の入った舞踊も観ることができたしで、とても充実したステージでした。

配役

組曲 ロラ・グレコ / マリア・ビボー / マイテ・バホ / ガラ・ビバンコス / ナニ・パニョス / ラファエル・エステベス
海賊 タマラ・ロホ / イゴル・ジェブラ
Caught アンヘル・コレーラ
砂上 タマコ・アキヤマ
Come again ゴジョ・モンテロ
黒鳥 ホセ・カルロス・マルティネス / ラウラ・オルミゴン
イサドラ・ダンカン風ブラームスの5つのワルツ タマラ・ロホ
白鳥XXI イゴル・ジェブラ
調和 ミゲル・アンヘル・ベルナ / マイテ・バホ
私なりに ラウラ・オルミゴン
粉屋の踊りファルーカ ホセ・カルロス・マルティネス
オー・ソーレ・ミーオ アナ・ラグーナ
ドン・キホーテ アンヘル・コレーラ / シオマラ・レイエス