白鳥の湖(東京バレエ団)
2007/04/10
「白鳥の湖」と言えば、これはもう古典バレエの王道。当然毎年のように観ているはずと思い込んでいたのですが、改めて調べてみると意外にも最後に全幕通して観たのは2003年で、通算しても同じチャイコフスキーなら「眠り」や「くるみ」の方が観た回数が多いということが判明しました。確かに、「白鳥」の独特の暗さや抹香臭さは、自分の好みからちょっとずれているのかもしれません。
さて、今回の「白鳥の湖」のオデットは、マラーホフに見いだされてベルリン国立バレエに招かれ今や22歳にして人気絶頂のポリーナ・セミオノワ。昨年2月の「マラーホフの贈り物」で「黒鳥のパ・ド・ドゥ」を観て魅せられ、今度は全幕で観ようと思っていたものです。パートナーとなる王子役は昨年の世界バレエフェスティバルでも組んだ、シュツットガルト・バレエ団プリンシパルのフリーデマン・フォーゲル。会場は東京文化会館です。
第1幕
とりわけパ・ド・トロワの高村順子さんがすてきでした。この後に休憩なしで続く第2幕とセットの外枠を共用するため舞台が少々暗いのですが、彼女が持ち前の明るい笑顔で踊るとぱっと花が咲いたみたいになります。ちょっと演技がうるさいと思えた道化も、細かい足遣いを交えたグランド・ピルエットの一発芸で満場の拍手をさらいました。しかし、王子が嫁取り話にがーんとなる場面に気付かなかったのですが、どこへ行ったのでしょう。さっきまで能天気に踊っていたと思っていたら、いつの間にか憂鬱そうな風情になっていたのが不思議。
第2幕
東京バレエ団のコール・ドは、今日はなんだかばたばたしていて感心しませんでした。精度が悪かった訳でもないと思うのですが、せっかくの美しいパ・ド・ドゥもコール・ドの動きで叙情性が損なわれていたような気がします。ポリーナ・セミオノワも足の演技がずいぶん直線的で柔らかさに欠けているように思えましたが、もしかすると長身の彼女と日本人体型のコール・ドとのバランスの問題かもしれません。それでも最後の速い2拍子では、スピーディーに足を動かしながら両腕はあくまで優美な曲線を描いて羽ばたいて、素晴らしい技巧を見せました。
第3幕
ディヴェルティスマンは、ナポリでのタンバリンの扱いがいい加減だったり、マズルカの振付が冗長だったりと文句を言えばあちこちにツッコミどころがありましたが、ロットバルトとオディールの一味でもあるスペインが素晴らしく、女性2人がぐっと背を反らせると手にしたアバニコが床を打つくらいのダイナミックな踊りで喝采を浴びました。さすがは井脇幸江さん。一方、笑わせてくれたのはロットバルト。オディールが王子を誘惑している途中で背後に現れたオデットの幻影を追い払った後「やれやれ、あせったぜ」と胸を押さえていたら道化が自分を見ているのに気付き、「てめー、なに見てんだよ」とガンを飛ばして道化を俯かせてしまいます(もちろんこの間、主役2人は舞台中央で一所懸命踊っています)。なんて悪いヤツなんだ!悪いヤツと言えばオディールも相当なもので、ポリーナの雰囲気はがらっと変わってかなりの悪女系。王子を手玉にとりながら、時折上目遣いに客席を見て「わかってるでしょうね」と観客を共犯に仕立てようとする風情が見てとれました。もしかしたら、ポリーナは本当に性格が悪いのか?と疑うくらいハマっていましたが、しかしグラン・パ・ド・ドゥでは指揮者と十分に呼吸が合わなかったようです。特にクライマックスのグラン・フェッテ・アン・トゥールナンは冒頭のダブルでの回転軸がぶれていましたし、オケも途中からはっきりとテンポアップ。
第4幕
ロットバルトにオデットの生命を奪われ、自分も倒される寸前の王子を白鳥たちの決死隊が割って入って救出し、逆襲に出た王子がロットバルトの翼をもぎとって勝利。するとオデットが蘇り、しかも人間の姿に戻って王子の胸に、というハッピーエンド。「白鳥」の終わり方はいろいろな演出がありますが、こうして見ると、やはりこの終わり方が一番いいような気がしてきました。
終演後、カーテンコールの途中でポリーナが相手役のフリーデマン・フォーゲルと軽くキスを交わすと客席から黄色い悲鳴が上がっていましたが、それはともかく、ポリーナはもっと凄いところを見せてくれるかなと思っていたのが正直なところ。少なくともこの夜は、100%満足というわけにはいきませんでした。しかし、舞台上で堂々とした存在感を示す彼女を見ながら、今度はコンテンポラリーを踊るポリーナ・セミオノワというのもいいかも、と思い始めていました。昨年の世界バレエフェスティバルでは、私が観た日は「バルコニーのパ・ド・ドゥ」でしたが、別のプログラムではコンテンポラリーも踊っています。この2人の組み合せでどんどん領域を広げてくれると、ファンとしてもうれしいのですが。
配役
オデット / オディール | : | ポリーナ・セミオノワ |
ジークフリート王子 | : | フリーデマン・フォーゲル |
王妃 | : | 加茂律子 |
悪魔ロットバルト | : | 木村和夫 |
道化 | : | 松下裕次 |
家庭教師 | : | 野辺誠治 |
パ・ド・トロワ | : | 高村順子 / 佐伯知香 / 古川和則 |
ワルツ | : | 西村真由美 / 乾友子 / 奈良春夏 / 田中結子 / 浜野香織 / 前川美智子 |
4羽の白鳥 | : | 森志織 / 福田ゆかり / 阪井麻美 / 河合眞里 |
3羽の白鳥 | : | 乾友子 / 田中結子 / 浜野香織 |
司会者 | : | 横内国弘 |
チャルダッシュ | : | 長谷川智佳子 / 大嶋正樹 / 森志織 / 福田ゆかり / 辰巳一政 / 小笠原亮 |
ナポリ | : | 佐伯知香 / 松下裕次 |
マズルカ | : | 奈良春夏 / 山本亜弓 / 中島周 / 野辺誠治 |
花嫁候補たち | : | 小出領子 / 高村順子 / 西村真由美 / 乾友子 / 吉川留衣 / 渡辺理恵 |
スペイン | : | 井脇幸江 / 田中結子 / 後藤晴雄 / 平野玲 |
指揮 | : | アレクサンドル・ソトニコフ |
演奏 | : | 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 |