レオナルド・ダ・ヴィンチ-天才の実像
2007/04/01
東京国立博物館(上野)へ、イタリアはウフィツィ美術館の至宝、レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)の《受胎告知》を観に行ってきました。
本館の第一会場と平成館の第二会場を用意して、第一会場は広い一室を暗くして順路を作り、そこに《受胎告知》1点のみを展示するという贅沢な会場構成に、まず驚きます。観客は絵の前で蛇行する通路をベルトコンベアー式に進む仕掛けで、昔むかし《モナ・リザ》が来日したとき(1974年)にもこの同じ部屋で右から左へ鑑賞者を押し流す仕組みだったのを思い出しました。これでは「見た」という事実だけは残っても鑑賞したことにはなりにくいのですが、幸い私が会場に入ったときはさほど混んでおらず、多少の立ち止まりは大目に見てもらえました。
しかし、いずれにせよ短時間で観るしかないのなら、あらかじめ予習をしてチェックポイントを頭に入れておくに越したことはありません。実は平成館の1階の映像コーナーで《受胎告知》の不思議を解説したビデオを流していて、それを先に見ておくとずいぶん見方が違ったでしょう。《受胎告知》はレオナルド・ダ・ヴィンチの20代初めの作品で、とてもそうとは思えないほど完成された美しさや技巧の冴えを見ることができますが、仔細に観察すると処女マリアと書見台の位置関係が悪くマリアの右腕が不自然に長かったり、マリアの背後の建物の角を画す石の形が歪んでいたりするとのこと。このことは従来レオナルドの未熟さの現れと言われていたのだそうですが、本当は、この絵が正面からではなく(おそらく絵を置く場所があらかじめ決まっていて)右手前から斜めに見られることを前提に緻密に計算した結果だとのこと。そのことを知っていれば、実物も右手前と正面の両方から見比べてみたのに……。その他にも、30年後に《モナ・リザ》で結実する空気遠近法(=空気の厚みを反映して遠くのものをぼかし、青みがからせる)や衣服の下の肉体の質量感(後に熱心に研究したという解剖学的センス?)など、見どころはたくさん。残念ながらチケットは各会場1人1回限り
有効とされているので入り直すことはできないから、先に第二会場に入って予備知識を得てから、最後に第一会場で《受胎告知》の現物に接するのが良いのかもしれません。
レオナルドは膨大な手稿やスケッチを残しているにもかかわらず、現代に伝わっている絵画作品は意外に少なく《受胎告知》《最後の晩餐》《モナ・リザ》など10数点にすぎない上に、その中のいくつかも未完のままです。したがって今回の展示ではレオナルド自身のオリジナル作品は目玉の《受胎告知》くらいなのですが、第二会場には《東方三博士の礼拝》《キリストの洗礼》の原寸大複製が置かれているほか、レオナルド自身が考案したコンパスなどの道具類や有名な《ウィトルウィウス的人間》の黄金比をはじめとする各種解説ビデオ(最後の方にあった《最後の晩餐》の弟子たちの感情表現をモデルで再現するビデオが面白かった。同作品にちなんだ『ジーザス・クライスト・スーパースター』の一場面も懐かしい)、戦争のために実際には制作に至らなかった巨大なスフォルツァ騎馬像の再現(前脚だけでも見上げるほど大きい!)、人力飛行機や鳥人間(?)の模型を含む大掛かりなフィギュアが楽しく、それらの丹念な解説を通じてレオナルドの作品の背景にある膨大な英知の全貌に触れることができます。
なお、第二会場内の売店ではレオナルドTシャツ、レオナルドマグカップ、それにレオナルドチョコレートも売っていました(注:いずれも正式な商品名ではありません)。《受胎告知》が胸にプリントされたえんじ色のレオナルドTシャツがなかなかよかったので、お土産に1着ゲット=3,000円也。
こちらは、東京メトロ茅場町駅構内で見掛けた広告。角度を変えて撮影してみましたが、右の方がマリアの右腕の長さや天使ガブリエルの前傾姿勢が自然なものになっている……ような気がします。