塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

来生たかお

2016/04/24

ボル友・Y女史から急な話ですがという前置きつきで、時間が合えば週末の来生たかおのコンサートにお付き合いいただけませんか?というメールが入ったのは、4月19日のこと。来生たかおって「さよならはわか〜れ〜の〜ことば〜じゃなく〜て〜」の来生たかお?それも、Gipsy Kings命のY女史が来生たかお?後から聞いた話では、Y女史の勤める会社が社員向けにチケットを提供していて、それにたまたま当たったのであわてて同行者を探し、私に白羽の矢が立ったということだそうですが、実のところ私の嗜好にも来生たかおはまったくかすりもしません。とは言うものの、私もY女史の趣味におかまいなしにManu Katché上原ひろみに付き合わせたりしていますから、ここは恩返しのいい機会だと思うことにしました。

そんなわけで彼女にお供をしての神奈川県民ホールでの来生たかおのライブは、題して「40th Anniversary 来生たかお Symphonic Concert 2015-2016 〜夢のあとさき〜」。

中華街の東門で待ち合わせて、まずは遅めのランチから。

肉が苦手のY女史は、XO醤焼きそばを注文したものの細切れの肉をより分けながら食べなければならず、ちょっと難儀していました。XO醤というのを私はよく知らなかったのですが、干しエビや干し貝柱を原料とし、1980年代に香港で開発された新しい調味料なんだそうです。

さらにY女史たっての願いで、頂好食品でココナッツ団子を購入。食べ歩きをしましたが、ふわふわと柔らかく美味。その後は、関帝廟にも立ち寄りました。お線香を上げるのに順番や作法がありますが、「お参りは初めてですか?」と聞いてくれる親切な係のお兄さんがいて詳しく解説してくれるので、ノープロブレム。

さて、肝心のコンサートはといえば、東京フィルハーモニー交響楽団(指揮:渡辺俊幸)をバックに従えた大掛かりなもので、歌手活動40周年記念のセルフカバー・ベスト盤『夢のあとさき』リリースに伴い昨年末から行っているシンフォニック・コンサート・ツアーの千秋楽という位置づけでした。

オープニングの曲は大橋純子が歌った「シルエット・ロマンス」で、いきなりそこから来るのかと思っていたら、4曲目には薬師丸ひろ子さんが「セーラー服と機関銃」で歌った「夢の途中」で、私にとっての来生たかおはこの曲のイメージです。途中休憩をはさんだ2部構成で、他にもしばたはつみさんの「マイ・ラグジュアリー・ナイト」、中森明菜さん「セカンド・ラブ」等が歌われましたが、もちろん自身をシンガーとして世に出した曲も少なからず歌われ、新譜のための書き下ろし曲もあって、それら多彩な楽曲群により来生たかおのメロディセンスを堪能することができました。

演奏は、オーケストラをバックに歌ったり、自身や別のピアニスト(紺野紗衣さん)のピアノ演奏と共にシンプルな構成で歌ったりでしたが、とぼとぼと出てきて、ぼそぼそと喋って、ぎこちなくお辞儀して、この人にはショウマンシップという言葉は当てはまらないな……と思うものの、しかし歌うときはさすがの歌声を聞かせてくれて、そこはやはりさすがのプロでした。Wikipediaの「来生たかお」の記事では、彼のことを

控えめ且つ都会的でありながらもノスタルジックな、心温まる楽曲で知られる、ニューミュージック界屈指のメロディメーカー。その多くはマイナー調であり、淡々としていながら叙情漂うそのメロディと、ほとんどビブラートの掛からない囁くような歌唱は、“来生節”と称される。

と紹介していますが、実際に聞いた印象では「淡々」というよりもう少し情感がこもった歌唱でした。それだけに、曲の合間に何度か入ったMCでのぼそぼそ感とのギャップが激しく、驚きます。曲の紹介やアルバムの紹介は折々になされましたが、まとまったMCとして話されたことは、米長邦雄氏が語っていた「運」の話(大事ではない対局に全力を尽くすこと)と吉本隆明氏の「素質」の話(ひたすら10年頑張れば誰でも一丁前になれる、その先に初めて素質の違いが出てくる)を枕として、自身のデビューのきっかけとなった井上陽水(当時は「アンドレ・カンドレ」)との出会い、鳴り物入りでのデビューがうまくいかなかったこと、かえってそのおかげで息の長い活動が続けられたこと、など。

ただ、40年にわたり曲を書き続けて現在は65歳。しばらく前から袋小路、あるいは枯渇を感じ、このツアーを終えたら休養をとることにしたという最後のMCでの率直な発言には驚きました。後日、来生たかおのオフィシャルサイトに掲載されている対談を読んでみると、「鬱」あるいは「隠居」という言葉が登場しており、不安を感じさせます。とはいえ、アコースティックセットでのコンサートがこの後6月から10月まで組まれていますから、少なくともその間は、しっかりと歌い続ける姿を聴衆に見せてくれることでしょう。

終わってみればY女史も私も「いいコンサートだったな(自分の趣味とは違うけれど)」と異口同音の感想でした。しかし、どうやら会場の雰囲気はコアな常連客の同窓会の様相で、そうした人たちのためにも来生たかおには、休養が明けてからの息の長い音楽活動を期待したいものです。

セットリスト

  1. シルエット・ロマンス
  2. 針の雨
  3. 流れる
  4. 夢の途中
  5. いとしい あした
  6. 余白の街
  7. 風と共に去りぬ
    --
  8. 終止符
  9. あいつ
  10. メドレー(おだやかな構図 / 振り向くならせめて / 無口な夜)
  11. マイ・ラグジュアリー・ナイト
  12. セカンド・ラブ
  13. 風のニュアンス
  14. 明日物語
    --
  15. Goodbye Day
  16. 浅い夢