Terry Bozzio

2016/05/14

品川ステラボールで「History of Terry Bozzio」と題したTerry Bozzioのライブに参戦。Terry Bozzioと言えば、Frank Zappa……という人も多いと思いますが、私にとっての彼はやはり、Eddie Jobson、John WettonとのトリオU.K.です。オリジナルU.K.の中野サンプラザでの公演を観たのは1979年のことですが、2012年に共に再びU.K.としてステージに上がってくれたときは、感涙にむせびました。近年は要塞ドラムセットでのソロが彼の活動の中心ですが、今回は彼の活動の歴史を過去から現在まで網羅するため、あたかもビッグバンドのように大勢の日本人ミュージシャンを集めてのライブとなりました。

会場に入ると、グッズ売り場には各種Tシャツやスティックが売られていましたが、パンフレットはなし。

1階指定席をゲットしていた私には「サイン入りグッズ」が用意されていましたが、それは上のカードと下のスティックでした。1階指定席はそこそこの席数がありましたが、スティックは律儀に2本ともサインが施されていたのには驚きます。本当に自分で書いたのか?腱鞘炎にならないか?奥さんが代筆していないか?

会場に入ると、ステージ上の下手4分の1ほどがドラムセットで占められており、黄色いスポットライトの中で「dw」のロゴ(ドラムセットのメーカー名)がブルーに光っていました。その美しい威容は光の要塞という感じ。上手方向は中央がベース、上手前列がギター3人分の立ち位置、上手寄り中列がホーン2人のポジションで、後列にキーボード3人が並ぶという配置です。

やがて会場が暗くなり、すぐに上手からTerry Bozzioが黒ずくめの姿で1人登場しました。まずはここから、ソロ曲が4曲。曲名はこのときはわかりませんでしたが、バスドラのリズムキープの上でメロディックなタムが活躍する曲、打込みのシンセ音の上で背後の大小のゴングとメロタム、シンバルの神秘的な響きからバスドラが激しい三連パターンを打ち出す曲、などなど。最初のうちはイヤーモニターが不調だったらしく、曲間でイヤモニを気にする場面が目立ちましたが、数曲で落ち着いた模様。そしてどの曲も、彼のソロ曲としては異例なくらいにエネルギッシュなもので、彼特有のスナッピーを効かさないスネアと複雑な倍音を持つシンバルにはっきりとした音程を持つメロタムが組み合わされ、バスドラすらもリフを作って、めくるめくような演奏が展開されました。

続いて、Terry Bozzio曰く「All Star Band」の登場です。まずベースは櫻井哲夫、ギターは山崎淳、そして難波弘之を含むキーボード3人。ここからはTerryが2015年にリリースした大作『The Composer Series』から、Terry自身による曲紹介を挟みつつ3曲が演奏されました。ダーティーなベースの重低音リフに圧倒される「Psychopath」、KoЯnのために書いたものの採用されなかったダークな7/8拍子の「Beast」(右足側の一番大きなバスドラがキックのたびに外れそうなくらいに揺れていてハラハラ)、Joe Zawinulに捧げられた曲だけにいかにもジャズっぽいスケールとコード進行ながらMike Portnoyばりにスピーディーなツーバスが活躍する「Joe」。

15分間の休憩を挟んで、第2部はThe Brecker Brothersの代表曲「Some Skunk Funk」から。TerryはThe Brecker Brothersの『Heavy Metal Be-Bop』(1978年)に参加しており、ライブ盤ながら名盤の評価をほしいままにしていますが、この日も高崎晃・和田アキラの2人にホーンセクションを加えた大編成で、各人のソロ回しを含む実にスリリングなハード・フュージョンナンバーを聴かせてくれました。続いてお待ちかね、U.K.の『Danger Money』から意外な選曲の「Rendezbous 6:02」。ここで入ってきたTerryの低い呟きボーカルに驚いていると、どうやら歌詞がわからなくなったらしいTerryが途中で曲を止めて苦笑いし、客席も爆笑に包まれました。そこでTerryは足元からアンチョコを取り出し、目の前のタムの上に広げて再び最初からやり直し。難波弘之のシンセソロも決まってどうにかこの曲を演奏し終えた後に、MCなしでシンセサイザーのデチューンされた重低音が鳴り響き始めて、続いての曲はベースをKenKenにスイッチしての「Alaska」です。極光のシンセサイザーの後にドラが鳴らされ、VCS 3の効果音が再現されてリズムが入ってくると、増田隆宣のオルガンが原曲の雰囲気を見事に再現してくれました。曲はそのまま「Time to Kill」には行かずに「In the Dead of Night」へ。ここでもしわがれた呟きボーカルが披露されましたが、さすがにメインリフの「In the Dead of Night」と歌うところだけはちゃんと音程をとって歌っています。Allan Holdsworthのギターソロパートは白髪の和田アキラが原曲の基本ラインを活かしつつ音数多く弾きまくって、さすがやるなあという感じ。しかしこの日一番楽しく聴けたのは、この後に演奏されたニューウェイブバンドMissing Personsのアップテンポな2曲だったように思います。「Mental Hopscotch」「Walking in L.A.」(1982年)のどちらも、あのコケティッシュなDale BozzioのボーカルをTerryが歌うという暴挙ながら実にかっこよかったですし、暴挙とは言えTerryのボーカルにも異様な熱がこもっていて、彼のこのバンドに対する思い入れの深さが感じられました。

アンチョコの出番はここまでで、以後はインストゥルメンタル・ナンバーが続きます。まずJeff Beckの『Jeff Beck's Guitar Shop』(1989年)から、重々しいリズムの刻みの上で高崎・山崎の2人のギタリストが気迫を示す「Big Block」と、Terryが「burning songだ」と紹介した爽快な疾走系ナンバー「Sling Shot」。特に後者で65歳のTerryが見せた膨大な手数足数と音圧には、本当に圧倒されました。さらに、Tony LevinとSteve Stevensの2人と共にリリースした『Situation Dangerous』(2000年)から、美しいギターのアルペジオと長いシンセソロ、中間部の激しい3拍子が印象的な「Tragic」、ストレートなロックナンバーに見えてリズムの仕掛けが面白い「Crash」、山崎淳によるスパニッシュなアコースティックギターとこれに寄り添うベースが美しい「Spiral」、そしてタイトル通りに緊迫感溢れるハードなリフで始まるナンバー「Dangerous」。

そろそろ聴いている方も疲れてきましたが、Terry Bozzioは演奏の手を止めようとはしません。Billy Sheehanとのユニット名義で2002年に発表した『Nine Short Films』からさらに3曲が披露されました。このアルバム、Billyはスタジオに3日間しかおらず、ほとんどを自分が完成させたといった趣旨のことをTerryはMCで語っていましたが、再び地獄の底から聞こえてくるようなTerryのボーカルを伴った「Water and Blood」はベーシスト2人で演奏され、テキサスのシリアスな天候を歌う「Tornado Alley」ではKenKenの激しいスラップを交えたベースがうねり、そして最後の「Live by the Gun」ではTerryのシンバル乱打とシンクロするKenKenのベースプレイが光りました。

アンコールは、「My great mentor」であるというFrank Zappaの曲。さすがにあの「Punky's Whips」は大人の分別(?)で演奏できなかったようですが、これは絶対取り上げるだろうと思っていた「Black Page #2」が演奏されました。またしてもアンチョコが置かれ、Terryはメガネをかけて会場の笑いをとっていましたが、これはおそらくドラム譜だったのでしょう。私のイメージしている「Black Page #2」とは少し違ってオーソドックスな4拍子のリズムに乗った演奏でしたが、要所要所でこの曲ならではの5連符や6連符、さらには11連符が炸裂しました。この曲を生で聴くことができる日が来ようとは。

最後はステージ上に「All Star Band」の全員が顔を揃え、再びJeff Beckに戻って、まずはコンスタントなリズムが心地よい「Savoy」、そしてスタンディング・オベーションと盛大な手拍子の中、「Star Cycle」(原曲のドラム演奏はTerry BozzioではなくJan Hammer)で全員がソロを回して楽しく終了しました。

第1部が約1時間、第2部とアンコールをあわせて約2時間。合計3時間と長丁場の演奏でしたが、最初から最後までテンションと体力を維持したTerryに脱帽。小さなハコでのソロライブではアンビエントな演奏が多い彼ですが、この日は最初から最後までエネルギッシュで、要塞セットの全機能を活用しながらロックドラマーとしての本領を発揮してくれた、白熱のライブでした。さらに、サポートのメンバーたちもいい仕事をしたと思います。キーボードの3人は壁の花的な立ち位置でちょっと気の毒な感じもしましたが、ギターの3人はそれぞれに持ち味を見せてくれて、とりわけ山崎淳の堅実なサポートぶりが目を引きました。ベーシストは、シルクハットをかぶったKenKenが個性を示しましたが、なんといっても櫻井哲夫のかっこよさにはしびれました。

終演後にはステージ上で客席をバックに写真撮影があり、これが終わるとTerryとバンドメンバーたちは満場の拍手の中を上手に下がっていきました。会場にはカメラが入っていましたので、演奏の模様は映像作品になるようです。この日の熱演を見逃した方は、そちらでぜひ。

ミュージシャン

Terry Bozzio drums, vocals
高崎晃 guitar
和田アキラ guitar
山崎淳 guitar
難波弘之 keyboards
増田隆宣 keyboards
川口綾 keyboards
櫻井哲夫 bass
KenKen bass
竹上良成 saxophone
中村恵介 trumpet

セットリスト

  1. (Unknown Song)
  2. (Unknown Song)
  3. (Unknown Song)
  4. (Unknown Song)
  5. Psychopath
  6. Beast
  7. Joe
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  8. Some Skunk Funk (The Brecker Brothers)
  9. Rendezbous 6:02 (U.K.)
  10. Alaska / In the Dead of Night (U.K.)
  11. Mental Hopscotch (Missing Persons)
  12. Walking in L.A. (Missing Persons)
  13. Big Block (Jeff Beck)
  14. Sling Shot (Jeff Beck)
  15. Tragic (Bozzio Levin Stevens)
  16. Crash (Bozzio Levin Stevens)
  17. Spiral (Bozzio Levin Stevens)
  18. Dangerous (Bozzio Levin Stevens)
  19. Water and Blood (Bozzio & Sheehan)
  20. Tornado Alley (Bozzio & Sheehan)
  21. Live by the Gun (Bozzio & Sheehan)
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  22. Black Page #2 (Frank Zappa)
  23. Savoy (Jeff Beck)
  24. Star Cycle (Jeff Beck)