塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

Dream Theater

2017/09/11

バンドの結成から長い年月にわたる活動が続く中で、そのごく初期の作品がバンドのイメージを決定づけ、ファンがいつまでも数十年前の曲をライブに期待するというのはよくある話で、Dream Theaterにとってのそれは第2作の『Images and Words』(1992年)ということになるでしょう。もちろん、Dream Theaterはこれまでおおむね2年ごとに質の高い作品を生み出し続けており、特にコンセプトアルバム『Scenes from a Memory』(1999年)は彼らの代表作の一つとして認知されているのですが、ファンの中にはいつまでも『Images and Words』の美しい楽曲群へのノスタルジーが抜きがたく存在します。私自身も、Mike Portnoyが在籍している間はなんとかアルバムリリースをフォローしていましたが、だんだん曲やアルバムの区別がつかなくなってきて、ドラマーがMile Manginiに替わった『A Dramatic Turn of Events』(2011年)の後に発表された2作品はチェックできなくなっていました。

そんな中、今年は『Images and Words』がリリースされてから25年目という節目の年にあたり、これを記念してのアニバーサリーツアーは「Images, Words and Beyond」と題して、2017年の1月から5月までヨーロッパ、9月からアジア、中近東、そして10月後半から12月まで北米という長大なスケジュールが組まれています。

この日は、このツアーの一部として行われた日本武道館でのライブでした。彼らのライブに足を運ぶのは、上述の『A Dramatic Turn of Events』リリースに伴う「A Dramatic Tour of Events」の中での2012年4月の公演以来ですから、実に5年ぶりです。

チケットを買うときは「まかり間違ってアリーナ席が当たったら、体力的にもたないかもしれないな」と懸念したのですが、幸いにしてあてがわれた座席は南東の2階席。これなら音楽に集中できそうです。ホール内に入ったのは開演予定時刻の20分前でしたが、場内には既にスモークがたちこめており、BGMにはRonnie James Dioの声。それだけでわくわくしてきます。

ほぼ定刻通りに照明が落ち、勇壮なクラシック風の曲(トレーラー音楽制作会社「Two Steps From Hell」の「The Colonel」)が鳴り響きました。湧き上がる歓声と拍手。この序曲が終わると同時にJohn Petrucciの低音でのギターリフが始まり、さらに強烈な音圧のドラムがかぶさるヘヴィメタリックな「The Dark Eternal Night」(『Systematic Chaos』2007)からスタート。スネアの音が入ってきたときはそのパワーに圧倒されかけましたが、聴き進めていくと、確かに音圧はあるものの無駄に爆音ではなく、各楽器の音が分離して聞こえる絶妙のバランスが保たれていることに気付きました。ステージ上のミュージシャンたちの配置はいつもの通りで、唯一はっきり見た目に違いがあるのは、Mike Manginiのドラムセットがフォーバスからツーバスに縮小(?)されている点くらいです。ボーカルのJames LaBrieも積極的にステージ上を歩き回って聴衆を煽り、曲の途中ではJordan Rudessもキーボードブースを離れショルダーキーボードならぬショルダーシンセパッドを肩から下げて前に出てきました。

Jamss LaBrieのMCに続いてセルフタイトルアルバム『Dream Theater』(2013)から「The Bigger Picture」。初めて聴きましたが、叙情的なピアノとダイナミックなギターが交互に効果を発揮するドラマティックな展開で感動しました。そして妖しい重低音が鳴り響き、曲は『Falling Into Infinity』(1997)からJohn Petrucciの伸びやかなギターソロが主役となるインストゥルメンタルナンバーの「Hell's Kitchen」。中盤の5拍子リフが気持ち良く、終盤ではギターの音域を相当広げたメロディーが展開しました。そして牧歌的な7拍子のリフから始り終盤にめまぐるしいインストの展開を用意して聴衆を眩惑する「The Gift of Music」と、ギターのリフとコーラスとにポップセンスが感じられる(彼らにしては)素直なロックナンバー「Our New World」は共に『The Astonishing』(2016)からのセレクトで、これらも私はこの日が初聴でしたが聴き惚れました。

再びJames LaBrieのMCで紹介されたJohn Myungのソロは、Jaco Pastoriusの「Portrait of Tracy」。ハーモニクスと実音との複雑な組合せの妙がポイントとなるこの曲を見事に弾いてみせましたが、この選曲には少々疑問あり。John Myungは、自身のソロ曲を持っている(教則ビデオで聴くことができます)のですから、あえてJaco Pastoriusを持ち出す必然性はないのではないでしょうか。そんな疑問符を頭の中に浮かべている間に、ベースのフレーズはディストーションのかかったダークなものに変わって「As I Am」(『Train of Thought』2003)。2004年のここ日本武道館での公演でのオープニングナンバーで、これには聴衆の反応もひときわ熱く、このヘヴィな曲が支持を集めていることが2階席から見ていてもよくわかります。曲の途中にはMetallicaの「Enter Sandman」が挟まれるサービスもあり聴衆は大喜び。そういえば、2004年のときはJordanはキーボードの右サイドにお茶目な鯛のシールを貼っていましたが、今回は左サイドからヘリコプターのおもちゃらしきものをぶら下げていました。

そして第1部の最後は『A Dramatic Turn of Events』からアップテンポな変拍子リフが展開する「Breaking All Illusions」。中間の静寂部からJamesが雄大に歌い上げ、そして変拍子を含む複雑なインストパートではライティングのシンクロ度が超絶。その後にくる艶やかなギターソロにもしびれました。

ここまで1時間ちょうどの演奏が終わって、20分間の休憩。これまで聴いたことがない曲や聴き込めていなかった曲が少なくありませんでしたが、ライブで聴くとどれも好印象でした。Dream Theaterはやはり『Images and Words』だけのバンドではないということを如実に見せつけた上で、第2部でその『Images and Words』再現に取り組むというにくい演出にも脱帽です。

新年到来を祝う1992年のノイジーなラジオ放送がチャンネルを次々に変えて流された最後にDream Thaterの紹介を持ってきて、いよいよ『Images and Words』の全曲再現です。

Pull Me Under
あのギターのイントロが演奏されたら、会場はそれだけでお祭り騒ぎ。そして再びJames LaBrieが登場すると津波のような歓声。当然、「Pull Me Under」の大合唱です。
Another Day
抒情的なメロディラインとハイトーンボーカルが聞きどころのこの曲、James LaBrieはさすがにかなり下にフェイクしていましたが、その分John Petrucciのギターソロが頑張ります。そして原曲のサックスソロはJordan RudessがContinuumでしっとり弾いた後に、キーボードで刺激的な音色のソロを続けていました。
Take the Time
1992年11月の初来日以来の日本のファンのサポートに対する感謝をJames LaBrieが述べてから、この曲。大地を這うようなベースのうねり、そしてサビの大合唱。キーボードソロは音色もフレーズも原曲にかなり忠実ですが、やはりJordanらしく音符の密度が上がっています。そして曲のコーダ部には長大なギターソロが置かれていました。
Surrounded
これは私が『Images and Words』の中でも特に好きな曲で、DJイベントでもとりあげたことがありますが、そのことを察してくれたのか(そんなはずはない)、James LaBrieは覚悟を決めて高音部に挑み、玉砕寸前でぎりぎり踏みとどまっていました。James、ありがとう。
Metropolis Pt.1: The Miracle and the Sleeper
捨て曲がない『Images and Words』の中で、Dream Theaterの技巧面に着目するならこれ、というテクニカルな曲。最初のボーカルパートが終わった後のインストパートは高速フレーズと奇怪な拍子転換の嵐です。中間にドラムソロが入り、Mike Manginiは相変わらずの高速片手ロールやド派手なクロススティッキングを見せつけました。さらにベースのタッピングソロの後に続くギターとキーボードのユニゾンパートはワンフレーズごとにブレイクを入れて変化をつけ、大団円へ。
Under a Glass Moon
複雑な曲構成をものともしない楽器隊の一糸乱れぬ演奏に圧倒される一方、James LaBrieのボーカルは相当厳しくなってきました。がんばれJames、あと少しだ。
Wait for Sleep
ステージの中央に椅子を持ち出してきたJames LaBrieが、そのミュージシャンとしての才能と長いリレーションシップ(We've been married.)を紹介したJordan Rudessによるリリカルなピアノソロから、ピアノとボーカルのデュオであるこの曲へ。次が最後の曲なのだなとしみじみ。
Learning to Live
いよいよ本編最後、独特の雰囲気とトリッキーな変拍子を持つ曲。前半のボーカルはかなり苦しんでいましたが、中間のインストパートを経てボーカルがハイトーンを聞かせる場面で、短いながらもJames LaBrieの渾身のシャウトが炸裂し、日本武道館が揺れるかと思うほどの歓声が上がりました。やはり、どれだけ楽器隊が技巧的に優れたバンドであってもボーカルの説得力は圧倒的であるということをまざまざと見せつけるパフォーマンスに、感動しました。最後はJohn Myungのベースのフレーズに乗り、会場が一体となっての手拍子と大合唱。そして最後のキメにワンフレーズだけRushの「Cygnus X-1」のリフ。

アンコールは1曲だけ……とは言うものの、組曲「A Change of Seasons」ですから20分以上です。とりあえずボーカルが入ってからの15拍子フレーズ(3/4+4/4+1/16 → 3/16+3/16+3/16+3/16+3/16 → 4/16+4/16+4/16+3/16)に気持ち良くヘッドバンギングした(ここはリズムの構造を知らないと混乱に陥ること必定です。)ことと、Mike Portnoyのボーカルパートは省略されていたこと、そしてギターソロとオルガンソロの応酬から超高速ユニゾンへの一連の流れが緊迫感に満ちていたことだけを記しておきたいと思いますが、もはやそれ以上のくだくだしい解説は不要でしょう。ただし、この曲のクライマックスと言うべき終盤のシンセソロは少々残念なものでした。

原曲で聴かれるこのDerek Sherinianのセンス溢れるシンセサイザーソロは数あるロックキーボードソロの中でも出色のものだと思いますが、Jordan Rudessのそれは圧倒的な高速ながらフレーズの流れにここまでのストーリー性が感じられず、しかもギターとドラムの音圧に埋没したために細部のフレーズの動きを聴きとることが難しいものとなってしまいました。

ともあれ「A Change of Seasons」も無事に終了して、まるまる3時間のショウが終わりました。本当に、彼らの底知れぬ演奏力(技巧・持久力共に)には脱帽です。そして、名盤『Images and Words』のすべての曲が今でも色あせない魅力を放っていることを再確認すると共に、未聴だった最新アルバム『The Astonishing』からの曲にも劣らぬ輝きを感じられたこと、すなわちDream Theaterの創造力はいつまでも枯渇することを知らないようだということを実感できたのが、この公演に参加してのうれしい発見でした。

ミュージシャン

James LaBrie vocals
John Petrucci guitar, vocals
Jordan Rudess keyboards
John Myung bass
Mike Mangini drums

セットリスト

  1. The Dark Eternal Night
  2. The Bigger Picture
  3. Hell's Kitchen
  4. The Gift of Music
  5. Our New World
  6. Portrait of Tracy (John Myung Solo)
  7. As I Am
  8. Breaking All Illusions
    -
  9. Pull Me Under
  10. Another Day
  11. Take the Time
  12. Surrounded
  13. Metropolis Pt.1: The Miracle and the Sleeper
  14. Under a Glass Moon
  15. Wait for Sleep
  16. Learning to Live
    -
  17. A Change of Seasons
    1. The Crimson Sunrise
    2. Innocence
    3. Carpe Diem
    4. The Darkest of Winters
    5. Another World
    6. The Inevitable Summer
    7. The Crimson Sunset