塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

Toto

2019/02/20

日本武道館で、東京ではこの日1回きりのTotoのライブ。今回のツアーはTotoのデビュー40周年(第一作『Toto』の発表が1978年)を記念するもので、新作3曲(うち1曲は過去の音源を活用)とこれまでの代表曲のリマスター14曲の合計17曲からなるベスト盤『40 Trips Around the Sun』の発表(2018年2月)と共に開始された同名のツアーが1年がかりで地球を回って極東にやってきたものです。

メンバーは、Steve Lukather、Steve Porcaro、Joseph Williams、Shannon Forrest、Lenny Castroが前回(2016年)と同じ。David Paichは体調不良でここには参加しておらず、その代役としてPrinceとの共演経験があるというDominique "Xavier" Taplinが起用されているほか、ベースにShem von Schroeck、管楽器にWarren Hamが配されていて、これら3人のサポートメンバーはコーラスも担当するため、近年のツアーで必ずステージの背後に立っていたコーラス要員は今回は参加していません。

これらの中で個人的に注目だったのはWarren Hamです。今回を含めて17回も日本に来ているというTotoのサポートメンバーとして1980年代の後半に二度来日しているそうですが、むしろ注目ポイントはKansasのツアーサポートとしての彼です。Steve Walshが抜けてリードシンガーがJohn Elefanteになった時期のKansasのライブ映像(1982年)をYouTubeで見たところ、キーボード兼フルート兼バッキングボーカルのサポートメンバーが存在感を示していることに気付いたのですが、それがこのWarren Hamでした。Wikipediaで調べたところでは、彼はその後Kansasから脱退したKerry LivgrenのバンドADのリードボーカルも担当したということですから、楽器演奏と歌唱の両面で才能を有するミュージシャンであるようです。その彼がこうして息長く活動を続け、プロフェッショナル集団であるTotoに力量を買われてサポートに起用されていることにある種の感慨を覚えました。

2階席から見下ろしたステージ上の配置は、例によって上手にSteve Porcaroのキーボード、その後ろにドラムセット。下手の本来ならDavid Paichのピアノを模したキーボードの位置には二段重ねのXavierのキーボードがあって、その後ろはパーカッションブース。そして中央にはLukeの立ち位置があり、その後ろが一段高くなっていて、そこがWarren Hamの地所でした。なお、ドラムの前がベース、その前がJoseph Williamsの立ち位置です。

Devil's Tower
定刻を少し回ったところで場内が暗くなり、BGMなどもなく始まったオープニングナンバー。最初にイントロの上行フレーズが後方からのサーチライトの明滅と共に繰り返され、そしてリズムイン。アリーナはもちろんのっけから全員スタンディングです。シンプルでノリの良いロックナンバーであるこの曲は、昨年発売されたボックスセット『All In 1978 - 2018』に収められた「新曲」で、1980年代前半の音源に新たにギターとボーカルをオーバーダヴィングして完成させた曲だそうです。タイトなリズムに乗って、ボーカルもよく声が出ていることを確認して一安心。これはいいショウになりそうだという確信を得ました。
Hold the Line
間髪入れずにピアノの連打が入って、デビューアルバムからのこの曲に聴衆は大喜びで手拍子。40年の振幅を冒頭の2曲で示したことになりますが、同時に「Devil's Tower」がLukeのギターを、「Hold the Line」がDavid Paich(の代役のXavier)のピアノをそれぞれフィーチュアしていることで、Totoの楽曲の二つのタイプを見せてもいます。
Lovers in the Night
これまたピアノのリフによるファンキーなイントロから、David PaichのボーカルパートをJoseph Williamsが歌います。中間部のリズムのキメがかっこよし。続くギターソロはオリジナルとは異なり、比較的低い音域でラインを組み立てたものでした。

ここでLukeによるMCが入り、40周年ツアーにおいて「Legendary Place」である「Budokan」に戻ってこられたことを感謝する言葉と共に、ここで新曲を演奏するとアナウンスして続く「Alone」に直ちに取り掛かりました。

Alone
上述の『40 Trips Around the Sun』の冒頭に置かれた、緊迫感を伴う曲。後方でWarren Hamがキャッチーなフレーズのコーラスを歌っているのは見えているのですが、それだけにしてはコーラスが厚く明らかにもう一声が加わっているはず……とよく見ると、マッチョな体型でベースを颯爽と操るShem von Schroeckがマイクスタンドを使わずヘッドセットマイクを使ってコーラスに加わっていました。短いながらも艶やかなギターソロも魅力的です。
I Will Remember
「Song about missing people」というLukeのMCに続いてドラムのパターンが始まり、Jeff Porcaroの不慮の死(1992年)の後に発表された『Tambu』からの追悼歌。Lukeがボーカルとギターとで切々と歌い上げ、そこにXavierのリリカルなピアノが加わります。
English Eyes
気分を変えるように「Are you ready?」と呼び掛けたLukeの声に続いてギターのダイナミックなリフ、そしてパワフルなコーラスを伴う「English Eyes」。すべてのパートがオリジナル以上に強靭さを増し、ほとんど感動的と言っていいほどの演奏になっていました。
Jake to the Bone
ドラムとパーカッション(ハンディなカホンのようなもの)のデュオを冒頭に置いて、恐ろしくシビアなリズムのこの曲。途中に7/8拍子のリズムの上でXavierのピアノ・インプロヴィゼーションが入り、ついでLukeの情感をこめたロングトーン中心のソロへ。最後は冒頭のリズムパターンに回帰して、職人技の応酬のようなこの曲が終わります。
Rosanna
「Party song」と紹介されて始まったドラムのハーフタイムシャッフルから、このTotoの代表曲。Warren Hamのゴージャスなサックスフレーズに続く「Meet you all the way」は大合唱となり、Steve Porcaroの輝かしいシンセソロが響き渡ります。ピアノソロのパートに続いてLukeの長大なギターソロは、先ほどとは異なり音符を小節の中に詰め込んだ饒舌なもの。

ここで再びMCタイム。Joseph Williamsに続いてMCをとったLukeが「David Paichは病気でここにいないが回復に向かいつつある」と語る間に、下手の袖からキーボードが引き出されてSteve Porcaroはそちらに座り、ここからアコースティックギターを中心として40年を回顧する小品の連続となります。

Georgy Porgy
まずはファーストアルバムからR&Bテイストのこの曲をひとくさり。Warren Hamのフルートが光ります。オリジナルの女性ボーカルのパートはShem von Schroeckが担当。
Human Nature
Steve Porcaroによって、アルバム『IV』制作時に彼が幼い娘のHeatherとの会話をヒントにしてこの曲を書いたというエピソードが手短かに語られた後に、Michael Jacksonのチャーミングなこの曲がJoseph Williamsのボーカルでワンコーラス歌われました。
I'll Be Over You
続いてLukeの切々としたボーカルによる追悼曲。武道館の客席がスマートフォンによる灯りで満たされます。歌い終わったLukeはこれを見て「Beautiful. Touched my heart, thank you. I love Japan.」。
No Love
気分を変えるように、Warren HamのブルースハープからTotoには珍しいカントリー調の曲。Warren Ha mはその長いキャリアから推測できるように既に60歳を超えていますが見た目は大変若々しく、後で実年齢を知って仰天したほどです。
Stop Loving You
Totoファンなら誰でも知っている、Joseph Williams時代の代表曲。アコースティックギターとピアノでの演奏も親しみやすく、自然な手拍子と合唱が武道館を埋め尽くします。この曲ではWarren Hamはサックスで参加。

小品コーナーはここで終わり、「Stop Loving You」の終わりからシームレスにXavierのピアノ独奏へ。クラシカルな演奏の中にいくつかの耳に覚えのあるメロディを引用(一説によれば「Rhapsody In Blue」も)しつつ4分間にわたって流麗な演奏が繰り広げられました。

Girl Goodbye
ピアノソロからMCを入れずに直ちにシンセサイザーのイントロが始まり、圧倒的な音圧でメインの主題が展開。リズムパターンは軽やかなのに演奏は重厚、そしてギターソロでは高速演奏能力の限界に挑むようなフレーズも飛び出して、このパフォーマンスにアリーナは狂喜乱舞しています。

Lukeによるメンバー紹介コーナー。Xavier、Lenny Castro、Warren Ham、Shem von Schroeck、Shannon Forrestと紹介が進んだところで、キーボードで映画『Jaws』の不穏なテーマが演奏されてJoseph Williams(彼の父John Williamsは『Jaws』の音楽の作曲家)が紹介され、次にSteve Porcaroを紹介してから「Please put your hands and hearts together to Jeff and Mike Porcaro」と今は亡き2人のPorcaro兄弟の名を挙げました。場内が2人を偲んで拍手を送っていると、ティンパニロールと幽霊登場を予感させる揺れる笛のような音と共にJoseph Williamsが「Ladies and Gentlemen」と司会者風の声色を使い、「It is my duty tonight to tell you that aliens are real.」ともったいぶって宣言。そして紹介されたのが「Our alien, Mr. Steve Lukather」!

Lion
アルバム『Isolation』から。このアルバムから選ぶなら「Endless」か「Isolation」にしてほしかったように思いますが、ダンサブルなこの曲も悪くありません。メインのボーカルはJoseph Williamsが、サビの高音部(Lyin' in the sweat, tryin' to forget...の部分)はShem von Schroeckが担当し、シームレスに受け渡しがなされていました。短くテクニカルなシンセソロはSteve Porcaroです。
Dune (Desert Theme)
今回の選曲で驚いたのは、これです。映画『Dune』(1984年)のサントラとして作曲されたインスト曲で、左右のキーボードを駆使して映画音楽らしく比較的淡々と繰り返す主題の上にギターが控えめに乗る構成ですが、スペイシーな雰囲気が出ている佳曲だと思いました。ちなみに映画の方は、フランク・ハーバートによる原作のファンである私としては悪夢としか言いようのない不出来で、デヴィッド・リンチ監督畢生の駄作です。
While My Guitar Gently Weeps
自分の最初のギターヒーローであるGeorgeに捧げる、として演奏されたThe Beatlesの曲。Totoらしい金属質のシンセリフをイントロに置いて、Lukeがじっくりと歌い、泣きのギターを聞かせ……と思ったら最後にLukeらしい弾きまくりも。2002年発表のカバー・アルバム『Through the Looking Glass』に収録されたことから、このステージでも取り上げたようです。そしてここでもスマホによる光の海が。
Make Believe
心地よいピアノのシャッフルに乗ってWarren Hamのサックスが活躍。Joseph WilliamsとShem von Schroeckのコーラスも気持ちよく重なってきます。
Africa
本編最後はもちろんこの曲。David Paichの低い声部もJoseph Williamsがカバーし、やがてSteve Porcaroのシンセソロからひとりしきりの大合唱大会の後にLenny Castroが聴衆の手拍子に乗って要塞のようなパーカッション群を叩きまくるパートが用意されており、続いて例によってJoseph Williamsと聴衆とのコール&レスポンス。「パーラッパッパラッパッパー」と歌う聴衆に対しLenny Castroが適当にわめいて合わせて笑いをとってから、大団円に向かいました。

Home of the Brave
アンコールは勇壮な「Home of the Brave」。冒頭のDavid PaichのパートをWarren Hamが前に出てきて堂々と歌い、Joseph Williamsにつなぎます。終盤にブレイクをたっぷりととってからスネア一発で一気にリズムに復帰すると、大喜びの聴衆はひたすら手拍子を重ねました。

すべての演奏を終えたメンバーが舞台前に揃い、Lukeが「Thank you Tokyo, see you next time!」と叫んでショウは終了。40周年ということでメンバー(とりわけ肉体的負担の大きいボーカル)の演奏力低下を心配していたのですが、オリジナルメンバーのコンディションは良好でしたし、サポートの面々もそれぞれに力量を発揮して、Totoのすべての時代の楽曲を現代に蘇らせてくれました。まさにプロフェッショナルの仕事、大満足の一夜でした。

バンドはこの日本でAPACツアーを終え、ついで6月からヨーロッパを回る模様。その尽きないエネルギーには感嘆しますが、Joseph Williamsはまだ50代で他のメンバーも60歳を少し超えたところですから、確かに「next time」もあり得るかもしれません。そのときには、David Paichにも元気にそのユーモラスな巨体を見せてもらいたいものです。

ミュージシャン

Steve Lukather guitar, vocals
Steve Porcaro keyboards, vocals
Joseph Williams vocals
Shannon Forrest drums
Lenny Castro percussion
Shem von Schroeck bass, vocals
Warren Ham saxophone, flute, harmonica, vocals
Dominique "Xavier" Taplin keyboards, vocals

セットリスト

  1. Devil's Tower
  2. Hold the Line
  3. Lovers in the Night
  4. Alone
  5. I Will Remember
  6. English Eyes
  7. Jake to the Bone
  8. Rosanna
  9. Georgy Porgy
  10. Human Nature
  11. I'll Be Over You
  12. No Love
  13. Stop Loving You
  14. Piano Solo
  15. Girl Goodbye
  16. Lion
  17. Dune (Desert Theme)
  18. While My Guitar Gently Weeps
  19. Make Believe
  20. Africa
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  21. Home of the Brave

これらの曲をディスコグラフィーに当てはめてみると、次のようになりました。

発表年 アルバムタイトル 上記リストの番号
1978 Toto 2,9,15
1979 Hydra  
1981 Turn Back 6
1982 Toto IV 3,8,19, 20
1984 Isolation 16
1984 Dune 17
1986 Fahrenheit 11
1988 The Seventh One 13,21
1992 Kingdom of Desire 7
1995 Tambu 5
1999 Mindfields 12
2002 Through the Looking Glass 18
2006 Falling In Between  
2015 Toto XIV  
2018 40 Trips Around the Sun 4
2018 All In 1978 - 2018 1

こうして見ると、比較的最近の発表作品である『Toto XIV』はそのためのツアーを行ってからまだ日が浅いのでよいとしても、『Hydra』『Falling In Between』からの曲が含まれていないのは少し意外です。『Hydra』からなら「99」か「White Sister」、『Falling In Between』からならタイトルナンバーが候補になりそうですし、そのために『Toto IV』からのチョイスを1曲くらいは減らしてもよかったようにも思いますが、インタビュー記事によればツアーの間のセットリストは不動ではないとのことですので、たまたまこの日はこういう組合せになっただけということなのかもしれません。