塾長の鑑賞記録
art.juqcho.jp

塾長の鑑賞記録

Kyle Eastwood

2020/02/14

ブルーノート東京で、Kyle Eastwoodのライブ。最新アルバムである『Cinematic』(2019年)を携えての来日で、この日のセカンドショウはブルーノート東京での千秋楽にあたります。

「クリント・イーストウッドの息子」という肩書きをもはや必要としないベーシスト・作曲家であるKyle Eastwoodは、1968年生まれで現在51歳。その音楽にこれまで親しんできたわけではありませんが、久しぶりにブルーノートのあの空間でジャズ演奏に浸ってみたい気分だったので、前から名前だけは認識していた彼のライブが行われるとの情報を得て予約を入れました。上記のアルバムは映画音楽を集めたものなので入り込みやすいかもしれない、という予測もそこには働いています。

来日メンバーは、ベースのKyle Eastwoodのほか、ピアノのAndrew McCormack、トランペットとフリューゲルホルンのQuentin Collins、サックスのBrandon Allen、そしてドラムのChris Higginbottomという5人編成。映画音楽はゴージャスなオーケストラで演奏される場合が多いですが、それをこのクインテットでどのようにアレンジしてジャズに仕立て上げるかというところが着眼点となります。

なお、ステージ上に置かれていたリストではオープニング曲が「Skyfall」、本編ラストの曲が「Boogie Stop Shuffle」(Charles Mingus)となっていましたが、これはこの日のファーストショウのセットリストだったようで、我々が観たセカンドショウでは後述のように選曲が異なっていました。

Charade
ケーリー・グラントとオードリー・ヘプバーン主演のサスペンス「シャレード」(1963年)のテーマ。作曲はヘンリー・マンシーニ。ドラムの派手なイントロから緊迫感に満ちたテーマのフレーズが金管2本によって演奏された後にTp→Sax→Bass→Dsの順番でのソロ回しへ。Kyleの5弦ベースは軽やかな指づかいで、基本の3拍子を4拍子に変え、高音部での細かいフレーズのソロとノリの良いランニングベースを行き来させるソロを披露しました。
The Eiger Sanction
「Happy Valentine's Day」という挨拶の後にメンバーを紹介してから、作曲者のジョン・ウィリアムズと監督・主演のクリント・イーストウッド("Father")の名と共に映画「アイガー・サンクション」(1975年)を紹介して演奏開始。ベースはアコースティック(底部が小さいもの)、トランペットはフリューゲルホルンに持ち替えられて、ピアノを牽引役に2本の管がユニゾンになったり対位的に動いたり、エネルギッシュな演奏を聞かせました。最後にはフリューゲルホルンが震えるような効果音を絞り出して、不安に満ちた雰囲気のうちに終了。
Gran Torino
クリント・イーストウッド監督・主演の2008年の映画「グラン・トリノ」から。Kyleはこの映画の音楽を手掛けています。ピアノとベースで静かに始まり、ドラムの大きなノリによるブラシワークに乗って管がテーマのフレーズを情感豊かに演奏してから、フリューゲルホルンとソプラノサックスが気分を変えて力のこもった掛合いを聞かせます。
Bullitt
スティーヴ・マックイーン主演「ブリット」(1968年)。赤い光の中で力強い跳ねるリズムと緊張感に満ちた管のテーマ。「スパイ大作戦」を連想させると思ったら作曲者のラロ・シフリンはやはり同作や「ダーティハリー」「燃えよドラゴン」の音楽の作曲者でもありました。テーマの後には強力なベースソロ、そして縦横に駆け回るピアノソロ。さらに熱気溢れるトランペットソロ。これらのソロ楽器群を背後から支え、後押しするドラムの音圧も素晴らしく、客席からも盛んに掛け声や拍手が湧き上がりました。
Letters from Iwo Jima
エレクトリックベースとピアノのデュオによる「硫黄島からの手紙」(クリント・イーストウッド監督)。この映画もKyleが音楽を担当しています。美しく哀感に満ちたテーマのフレーズを2人の楽器奏者が優しく、丁寧に紡ぎ出して、そこにそれまでとは異質の情景が広がるようでした。あのベース、確かにフレット線が見えているのですが、実はフレットレスなのかな?
Taxi Driver
1976年のマーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演「タクシードライバー」のテーマ。作曲はバーナード・ハーマンで、テーマ曲はトム・スコットのサックスで有名になりました。不安をかきたてるイントロから、短い間奏を経てゆったりしたブラシワークの上でNYCの夜の情景を思わせるムーディーなサックスとミュートトランペットのソロ。突如ドラムが疾走し始めマーチ調になってベースがボウイングによるロングトーンを奏してから、すぐにスナッピーをオフにしたスネアとタムを用いたラテン調のドラミングの上で主題のメロディーに回帰し、そしてイントロのアッチェレランドするスネア連打に戻って終了。こんな具合にとりわけドラムが活躍するカラフルな演奏でしたが、演奏終了後にサックスのBrandon AllenによるアレンジであることがKyleから披露されました。
Skyfall
2012年の「007 スカイフォール」(ジェームズ・ボンドはダニエル・クレイグ)から、イギリスの歌手アデルが歌った原曲をアレンジした「Our version of Skyfall」。ダブルストップを多用した中近東っぽいエスニックなフレーズ(映画の冒頭の舞台はトルコ)をフリーに聞かせるアコースティックベースソロから、ドラムが入ってスピーディーな展開となってメインテーマ、そして自分で時折声をあげながらの気合の入ったトランペットソロ、その熱気を引き継ぐ一心不乱なピアノソロ、一転して音数を落とした点描から周囲に押し出されるように音数を増やして激しくブロウするサックスソロ。これらのソロ楽器群をステージ上手から盛り立てて全体の音圧を巧みにコントロールしていたドラムが、リズムキープをピアノとベースに委ねてフリーに叩きまくり、一瞬のブレイクの後にコーダ。客席は素晴らしい盛り上がりとなりました。
Pink Panther
アンコール。戻ってきたKyleの「One more??」の問掛けに客席から歓声が上がり、最後はおなじみのヘンリー・マンシーニ「ピンク・パンサー」のテーマ。ただし、フレーズはあのちょっとユーモラスなおなじみのものですが、背後のシンバルの刻みかたが尋常ではなく細かい摩訶不思議なリズムになっており、どのようにリズムを感じているのか解明することができませんでした。ランニングベースの上でサックスソロ、さらにピアノとベースの作る低音のリフレインの上での短いドラムソロを経て、最後はトランペットとサックスが奈落の底へとどこまでも下行するロンググリスダウンで終了。

5人のミュージシャンがエネルギッシュに演奏して超満員のブルーノート東京を沸かせ、本当に楽しい1時間余りのライブでした。リーダーであるKyleのベースプレイヤーとしての技巧と彼を支えていたピアノ奏者の落ち着いたバッキング、無表情なのに熱い演奏を聞かせてくれた金管楽器奏者2人のパッションとそれぞれに聴きどころ満載でしたが、とりわけドラマーが他のミュージシャンの音をよく聴きながら曲の流れを巧みにコントロールしている様子に感銘を受けました。

元々の映画音楽になじみが深ければ冒頭に書いた編曲の妙をさらに楽しむことができたと思いますが、それを抜きにしても青山へ足を運んだ価値が十分にあった演奏でした。せっかくなので、改めて原曲を調べてからCDと聴き比べてみようかとも思います。

ミュージシャン

Kyle Eastwood bass
Andrew McCormack piano
Quentin Collins trumpet, flugelhorn
Brandon Allen saxophone
Chris Higginbottom drums

セットリスト

  1. Charade
  2. The Eiger Sanction
  3. Gran Torino
  4. Bullitt
  5. Letters from Iwo Jima
  6. Taxi Driver
  7. Skyfall
    --
  8. Pink Panther

ホーム前の記事次の記事