河内山 / 身替座禅 / 引窓 / 勧進帳

2000/12/17

歌舞伎座の12月は團十郎丈と猿之助丈。「河内山」と「引窓」は前から観たいと思っていた演目で、これに團十郎丈の奥方が不思議な味わいの「身替座禅」と猿之助丈の富樫に興味津々の「勧進帳」を加えて、四本を幕見で見ることにしました。

河内山

御数寄屋坊主・河内山宗俊の悪党ぶりが痛快。松江侯をやりこめた後、家来のもてなしに対して「相なるべくは山吹の茶を」と露骨にワイロを要求するのも面白いですが、何といっても見どころは、帰り際の玄関で正体を見破られながら「悪に強きは善にもと」と開き直っての啖呵。お家の面目のため河内山に手出しできない松江侯に対して、去り際に「ば〜かめぇ」と小気味良い一言を浴びせるあたりはツボに入った感じです。

身替座禅

この演目は1月に菊五郎丈の右京と田之助丈の玉の井で観ていますが、今回は團十郎丈の玉の井というのが意外で期待しながら観ました。結果からいうと、團十郎丈の玉の井はあまりにもはまり過ぎていて怖いくらいです。太郎冠者を身替わりに立て、座禅修行と称して愛人・花子のもとへ一夜エスケープする山蔭右京の企みが露見して……という恐妻家の悲劇を描いた喜劇ですが、騙されたと知った奥方・玉の井が「腹が立つ、腹が立つ、腹が立つ〜」と最後のフレーズであの團十郎丈の声で恨み節にドスを利かせるのが大ウケ。幕見席には外国人もたくさん座っていましたが、彼らにもこの芝居はわかりやすかったようでけっこう笑っていました。ただ、この芝居は単にどたばたというのではなく、ストーリーの根底のところで奥方・玉の井の右京に対する深い愛情があって、太郎冠者と入れ代わりに衾をかぶって右京を待つ仕草の中にも「戻ってきたらとっちめてやる」という悪意の前に「それでも早く夫の顔を見たい」という玉の井の気持ちが垣間見えるのがいいところです。

引窓

一転して人情ものの名作「引窓」は、幸四郎丈の十次兵衛、段四郎丈の濡髪のいずれもはまっていましたが、鐵之助丈の母お幸がとてもよかった。特に、何も言わずに濡髪の人相書を売ってくれと頼む場面が圧巻。ここをはじめとして、1時間余の芝居がまったく緩みませんでした。

勧進帳

こちらも1月に観たところですが、猿之助丈の富樫というのが私にとってはポイント。猿之助丈には、何を演じてもどこかに現し世から紙一枚の厚さだけ浮いているような不思議な浮遊感というか非現実感を感じるのですが、その不思議な個性があってこそ、存在感の固まりのような團十郎丈の弁慶に対抗しきっていたように思います。その團十郎丈の弁慶ももちろん素晴らしく、最後の飛び六法の場面で歌舞伎座場内の全ての視線を一身に浴びて立つ團十郎丈の身体からは、大名跡・成田屋ならではのオーラが放射されていたように感じました。

配役

河内山 河内山宗俊 松本幸四郎
松江出雲守 坂東八十助
腰元浪路 市川高麗蔵
宮崎数馬 大谷友右衛門
高木小左衛門 市川段四郎
身替座禅 山蔭右京 市川猿之助
太郎冠者 中村歌六
奥方玉の井 市川團十郎
引窓 南与兵衛後に南方十次兵衛 松本幸四郎
濡髪長五郎 市川段四郎
母お幸 澤村鐵之助
妻お早 中村松江
勧進帳 武蔵坊弁慶 市川團十郎
富樫左衛門 市川猿之助
源義経 中村芝翫

あらすじ

河内山

御数寄屋坊主の河内山宗俊は、松江出雲守の屋敷に腰元奉公にあがっている質店上州屋の娘お藤が、主君の恋慕を受け入れず一間に幽閉されていると聞き、救済役を引き受けて手付金として百両の金を受け取る。上野寛永寺の宮の使い僧に化けた河内山は、松江邸に乗り込み、出雲守をちくりちくりとおどして腰元浪路(お藤)を取り戻した上、小判も手にする。帰り際の玄関先で重役北村大膳に見破られるものの、河内山は臆さず悠々と引き上げる。

身替座禅

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引窓

濡髪長五郎の実母お幸は山崎の郷代官だった南方十次兵衛の後妻となり、今は継子の与兵衛とその嫁お早との三人暮らし。恩義ある与五郎のために人を殺してしまった濡髪長五郎が、よそながら暇乞に来て、母とお早に対面する。ちょうどその日父の跡目として代官に取り立てられた与兵衛の初仕事は、濡髪を捕らえることだった。濡髪は母や与兵衛の恩情ある処置に感じ、落ちのびていく。

勧進帳

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