Jeff Beck

東京国際フォーラムでJeff Beckのライブ。

前回のライブが10年ぶりの作品『Who Else!』をフィーチュアしたツアーだったのに、今回はそれからわずか1年半でリリースされた『You Had It Coming』をメインに据えてのツアーということになり、寡作のJeff Beckにしては画期的なインターバルの短さがファンの間では話題になっていました。その新作は、前作と同種の曲調で打ち込みをバックに自由自在にギターが奏でられるもの。コピー不可能の独自の世界観とも思えるこの演奏を、ステージ上で生身のバンドを従えてどのように発展させられるかが関心事となります。

定刻を15分ほど過ぎたところで『You Had It Coming』に収録された「Blackbird」をSEとしてメンバーが登場。配置はフロント向かって左がベース（Randy Hope-Taylor）、右がギター（Jennifer Batten）、真ん中うしろがドラム（Andy Gangadeen：三連装バスドラと楕円形のシンバルスタンドが特徴的）です。定位置についたところで始まったのが新作のオープニングナンバーで11拍子ながらノリのいい「Earthquake」と、続いて「Roy's Toy」。さらにフェード・アウトしかけてからそのまま「The Pump」へ。そして前回のツアーでも絶賛された「Brush with the Blues」はタイトル通りブラシを使ったドラムの上でギターが静から動へと自由自在に歌うナンバーで、Jeffが出す音の一つ一つが奇跡のようです。

リズムが難解（7＋8と8＋7が交互に現れる15拍子）なJenniferのギターリフに導かれる「Blast from the East」、新作3曲目「Dirty Mind」に続いて、『You Had It Coming』の中でも異色でなおかつ人気が高い「Nadia」。Jeff Beck流インド風アースソングという感じのこの曲は、不可思議なムードのイントロに続いてJeffがボトルネックを投げ捨ててからイン・テンポになって展開される流麗なフレーズがJenniferのMIDIギターによるストリングスと相まって涙が出てくるほど美しく、この曲だけのために『You Had It Coming』を手に入れるべきと思うほどです。

ステージはさらに「Psycho Sam」の後にリズム隊の見せ場を作ってから「Savoy」「Loose Cannon」を経て「Star Cycle」へ。冒頭のトリルの間にJenniferがギターを変えるはずがスムーズに行かず苦笑しながら「早くしてくれよ〜」という感じでトリルダウンさせていたJeffでしたが、ベースソロを混じえた「You Never Know」の後に演奏されたレゲエ調の「Angel」では非常に高いポジション（25F〜36Fあたり）でのフレージングでボトルネックの凄い技を見せてくれました。さらに、Jenniferの堂々としたボーカルが喝采を浴びた「Rollin' and Tumblin'」の後に、お待ちかねの「Blue Wind」。今年は聴衆もしっかり心得ていて、メインテーマのギターと会場の応酬もちゃんと声が上がっていました。ただ、JenniferもJeffにひけをとらない強力なギターソロを繰り出してくれたのにライティングのミスでJennifer側が暗いままだったのが残念です。

アンコールはまずJeffとJenniferの2人が登場し、Jenniferによるストリングス音に乗ってアーミングの妙技が見られる「Where Were You」。最後は去年も演奏されたThe Beatlesの「A Day in the Life」でした。

使用していたギターはStratocaster1本だけで、チューニングを変える（レギュラー→ドロップD？）ときもステージの上できゅいっと緩めてちょんちょんと音を合わせるだけ。ステージ上にはTelecasterもありましたが、こちらはJenniferがギターを背中に回して熱唱する「Rollin' and Tumblin'」でRandyが弾いていました。MCなしでぐいぐい進んだ1時間半のステージはあっという間に感じられましたが、相も変わらずJeff Beckは強烈です。ピックを使わない独特のピッキング・スタイル、的確なボリュームコントロール、ハーモニクスやフィードバックの活用、タッピングやアーミングといった各種技巧と共に、ハードウェアの制約を軽く超えてしまう独創的なフレージングで爆音から消え入りそうな音まで自在にギターを歌わせるJeff。20世紀を締めくくるにふさわしい素晴らしいライブでした。