塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

Kansas

2001/01/20

新宿の東京厚生年金会館でKansasのライブ。2年ぶりの来日は、昨年7月にリリースされた新作『Somewhere to Elsewhere』のプロモーションツアーです。

雪が降りしきる中、開場時刻に東京厚生年金会館に到着すると長蛇の列ができていて、どうやら座席は満員に埋まった様子。中に入るとステージ上ではカラフルなライティングのテストが続いており、その光に照らされたドラムセットが美しく輝いています。前回同様にフロントは向かって左からRich Williams、Robby Steinhardt、Billy Greerの重量フォワード3人衆で、後ろは台の上にSteve WalshとPhil Ehart。アコギがスタンドにセットされ、キーボードは2台、ドラムセットはツーバスに左手側にもフロアタムを置く構成とまったく前回と同じですが、勇んで買ったプログラムも実は前回と同じものとはちょっとひどいのでは?

定刻を25分過ぎて会場が暗くなると歓声が上がり、メンバーがステージに現れて聴衆は総立ち。オープニングはハードなナンバー「Mysteries and Mayhem」。複雑なリズムの上でRobbyとSteveが交互にリード・ボーカルを担当するKansasならではの曲です。ヴァイオリンが活躍する3/4と4/4が込みいったイントロを省略して4/4+6/4拍子の強力なギターのリフから一気になだれ込むアレンジが幕開けにぴったりで、曲はそのままノリノリで「Paradox」へ。歳とともに往年の艶を失ったと言われるSteveのボーカルですが今日はどんどん声の調子が良くなってきているようで、ここ数年のトレードマークだったヤギのようなあごひげも剃って長髪を振り回し実に若々しい姿です。Kerry Livgrenがいないためキーボードも2人分弾かなければならないので両手とも忙しく動かしており、しかも歌いながら弾いているのでほとんど手元は見ない上にフットスイッチで頻繁に音を切り替えていてこれでよく間違わないものですが、この「Paradox」ではヴァイオリンが弾く細かいリフまで左手で弾きながら歌っていました。ただ、曲間にプログラムをセットするときは眼鏡を取り出しているのはやはり寄る年並……。

前回のライブで感動した「Miracles Out of Nowhere」に続いて、Robbyがニューアルバムを紹介するMCを入れて、そのオープニングナンバーである「Icarus II」へ。ピアノのイントロから7拍子のメインリフに移り、Steveのボーカルが切々と歌い上げ、ベースに加えてボーカルもとれるBillyが加わっていることで可能になった3声のコーラスが圧倒的です。そしてエンディングでフェードアウトしそうに見えたところで「Back to '76」とMCが入って、そのまま懐かしいオリジナル「Icarus」に移ると会場は狂喜乱舞。その後も「Song for America」「The Wall」と大作が続いてさすがに聴く側にも疲れが見えてきたところへ、Billyがアコギに持ち替えPhilが引っ込み、アコギ2本とヴァイオリンでしっとりと「Hold On」が歌われました。当然、会場もサビでは合唱です。

続く「Cheyenne Anthem」も私の好きな曲です。私はKansasのアルバムの中では4作目の『Leftoverture』の「Miracles Out of Nowhere」から「Opus Insert」「Questions of My Childhood」を経て「Cheyenne Anthem」へ続く一連の楽曲群が格別のお気に入り。ちなみに途中のオリジナルでは子供の声で歌われるところは、Billyが若々しい声で歌っていました。MCで再びニューアルバムに触れてから演奏された「Not Man Big」ではRobbyの狂ったようなヴァイオリンやRichの印象的なギターソロが聴きどころで、その後ジャムっぽい演奏が続き、アレンジはかなり変えてあったようです。Robbyのダーティーなボーカルが入った「Down the Road」につないでから、聴衆が手拍子をしているうちにいつの間にかリズムが三連に変わっていてこれも懐かしい「Portrait (He Knew)」が演奏され、その最後に「Magnum Opus」のフレーズを入れて終わりました。

アンコール1曲目は「Point of Know Return」。この曲はキャッチーで歌いやすく、7拍子のリフレインも印象的でいつ聴いても楽しくなってきます。続いて再びアコギ2本+ヴァイオリンの構成になって大ヒット曲「Dust in the Wind」。そして最後は例によって、Steveの「Are you ready!? 1234」のカウントで会場の全員が「♫Carry on my wayward son. There'll be peace when you are done.」と大合唱。偉大なる予定調和です。最後のキメでPhilが2本のスティックを宙高く投げ飛ばして、ショウは終わりました。

終了は午後8時ちょうどで、約1時間半のステージでちょっと短い気もしましたが、相変わらずの職人芸に満足しました。Kansasの音楽は、メンバーの演奏技術の高さを前提とつつも複雑なリズムでかえってノリが生きるアレンジのセンスが特徴です。ただ新譜からの曲がもう少しあってもよかったかもしれず、たとえばサビが印象的な「Myriad」などはライブでも聴いてみたいと思っていました。ところどころリズムがかみ合わなかったり、シンセの音色の選択に疑問符をつけたくなるところ(特にストリングス系)もないではなかったものの、そうした不満も充実の楽曲群でぐいぐい押されると白旗を掲げざるを得ないのがアメリカン・プログレハードの最高峰たるKansasのKansasたるゆえんです。

ミュージシャン

Steve Walsh vocals, keyboards
Robby Steinhardt violin, vocals
Rich Williams guitar
Billy Greer bass, guitar, vocals
Phil Ehart drums

セットリスト

  1. Mysteries and Mayhem / Paradox
  2. Miracles Out of Nowhere
  3. Icarus II / Icarus - Borne on Wings of Steel
  4. Song for America
  5. The Wall
  6. Hold On
  7. Cheyenne Anthem
  8. Not Man Big / Down the Road / Portrait (He Knew) / Magnum Opus
    -
  9. Point of Know Return
  10. Dust in the Wind
  11. Carry on Wayward Son