福田平八郎展
2004/01/11
新宿の小田急百貨店で「福田平八郎展」を観てきました。
今年は福田平八郎の没後30年。大分生まれで京都に学んだ画家は、初期の写実中心の画風からやがて抽象化した装飾性を活かす作風へとスタイルを変えていきますが、とりわけ年を経るにつれて自在さを増す色使いが特徴です。この展示会に出品された作品群の中でも、細密な描写が躍動する枝振りを示す《野薔薇》(その上に描かれている三匹の蜂の羽根の描写がまた凄い)や、静謐でありながら伸び伸びとした蔓が生命力を感じさせる白花の《朝顔》、上品な実りを写生した《茄子》などは初期の写実性の高い作品でそれぞれに素晴らしく、はっきりしたフォルムをもつ絵が好きな私にはとりわけ《朝顔》《茄子》の二点が好ましく感じられ、たとえば前者の朝顔の葉の裏の薄緑や白い花弁、後者の茄子の実のグラデーションの美しさに引き込まれます。その写実の技は、擂り鉢と貝の材質感が素晴らしい《蛤》やしっかりとした質量を感じさせる《桃》数点でも引き続き見られますが、ここでは初期の作品に見られる輪郭線の筆致によってではなく、一種の光沢を感じさせる色使いによって実現しています。さらに、川底に透けて見える石を描きたくて、しかし「石ばかりではどうかと鮎を添えた」というかわいらしい《鮎》(福田平八郎は釣りを趣味にしていました)、雪の質感を表現することだけを目的としたかのような《新雪》や水面に落ちる雨垂れを緑と青の大胆な色使いで描く《水》などの作品も並んでおり、そこではたとえどんなに大胆な色使いをしていても威圧的なものがなく、一種稚気のようなものが感じられます。
なお、この展示会では素描や下絵も数多く展示されていて、最初のうちはそれが下絵だとは気付かず「貼り合わせた洋紙にずいぶん荒っぽく描かれているけど、よっぽどお金がなかったのかな?」などと余計な心配をしてしまいました……。