モネ、ルノワールと印象派展

2004/02/21

Bunkamuraザ・ミュージアム(渋谷)で、「モネ、ルノワールと印象派展」。

会場は、まずルノワールの作品を多数並べ、次にモネのコーナーに移って、その後にモネから発する風景画の系譜(シスレー、ピサロ、スーラ、シニャック)とルノワールに連なる人物画の系譜(ロートレック、ボナール、ヴュイヤール)のそれぞれのコーナーに続いています。風景画のコーナーでは、モネが自然光の変化に対応するために編み出した色彩分割の技法が点描技法へと発展する過程が見てとれ、それはやがて色彩による平面分割=コンポジションへ連なることが予言されますし、人物画のコーナーでは、生きた人間の肌をみずみずしく描くために透明絵具の層を不透明絵具の層の上に重ね塗ることによって濁りのない翳りを生むルノワールの技法が受け継がれ、微妙な陰翳(ニュアンス)による豊かな感情表現を実現していく様子が示されます。ルノワールとモネは一緒にイーゼルを並べて《ラ・グルヌイエール》(1869年)や《アルジャントゥイユの鉄橋》(1873年)を描いているほど親しい関係なのですが、その2人が異なる技法を発展させ、対照的とも思える流れを生み出していくのが興味深いところです。

正直にいうと、行くまでは「印象派?もういいよ」と思っていました。ルノワールは、初期の絵はいいけど輪郭線を強調した「乾いた技法」の時代のものは最悪だし、それにあの豊満過ぎる裸婦はどうしても好きになれません(ボリュームのある女性はきらいではないけれど、限度というものがあります)。モネもぼんやり溶けてしまったような大聖堂とか積みわらとか、晩年は飽きもせずに睡蓮ばかり。それでも人から招待券をいただいたので、せっかくだからと足を運んだのでしたが、実際にはずいぶん認識を改める発見があり、行ってみて正解でした。最も感銘を受けたのはモネの圧倒的な技術で、特に水面の表現は恐ろしいほど。上述した《アルジャントゥイユの鉄橋》はルノワールの方は精彩を欠いているような気がするのに、モネのそれは硬質な鉄橋の橋脚や青い空を映し込みつつ流れていく川面の描写が見事ですし、《アルジャントゥイユ、夕方》(1872年)は、夕日に高層雲が照らされてぼんやりとした奥行きと高みを示す空に対して、その下の川はガラスのように光を反射しているのがはっきりわかります。ヴェネツィアで描いた《コンタリーニ宮》(1908年)は、建物の手前の水面が青や緑や紫の色彩分割で現実にはあり得ない色を示しているのにその中にぼんやりと建物の姿が映し込まれており、何点かある《睡蓮》の一つは、画面自体は池の限られた場所を切り取っているにすぎませんが、そこに倒映している空や向こうの木々が見る者に画面の外の果てしない広がりを感じさせるといった具合。久しぶりに「凄いものを見た」と感じました。

なお、販売されていた図録もなかなかよくできていて、特に後ろの方に載っている学芸員の方の、謎の老人・茂根蔵人(しげねくらんど)氏とのヴェネエツィアでの対話は抱腹絶倒。この展覧会に行く人には、図録を忘れずに購入されることを勧めます。