Keith Emerson

2005/10/16

Emerson, Lake & Palmerは比較的好きなバンドだったにもかかわらず、ライブということになるとこれまで不思議と縁がなかったのですが、今回とうとうKeith Emersonのライブを観る機会を得ました。東京厚生年金会館17時開演というのはいくらなんでも早過ぎるんじゃないか?とは思いつつ、それでもそわそわと16時45分に到着してみれば、プログラム(「ポスターグラム」と言っていたからポスターとセットなのかな?)は既に売り切れとの声……。多少がっかりしながら会場に入ってついた席は前から8列目の上手寄りで、場所的にはまあまあいいところです。既にスモークが立ちこめ始めているステージ上は、下手寄りにKeithのキーボードブース。私のところからは壁のように立ちはだかるMoogのモジュラーシステムと上手寄りにオルガン、その上に特徴的なサイドパネルでそれとわかるKORGのOASYSがよく見えます。下手寄りにも1台キーボードがあって客席からでは機種が判然としませんが、どうやらKORGのTriton Extremeだったようです。中央前寄りにギター&ボーカルの立ち位置があって、後方やや上手側にレフティ仕様のドラムセット。その前上手側がベースのポジションです。

定刻にブザーが鳴って着席を促すアナウンスがあり拍手が沸き起こりましたが、その後5分過ぎてもBGMが流れたまま。とうとう業を煮やした観衆が手拍子を始め、その手拍子も徐々に小さくなって寂しさが漂ってきたときに突如大音量のチャーチオルガンの音が流れて暗転し、歓声の中ブルーの光が乱舞して、メンバーが入場してきました。Keith Emersonを生で見るのはこれが初めてですが、思いの外に若々しくて、にこやかな表情です。そしておなじみのSample & Holdフレーズが流れて、曲は「Karn Evil 9: 1st Impression, Part 2」。John Wettonのライブでこちらは何度も見ているDave Kilminsterが、ブラックのTelecasterを肩から下げてGreg Lakeの代わりにそこで歌っているのがなんだか不思議ですが、でもいい感じで曲を再現しています。バンドはほかにドラムのPete RileyとベースのPhil Williamsで、この2人を私は知らないのですが、最初から実にタイトな演奏がポイント高し。

続いてOASYSのピアノでガンガンと左手パターンが鳴り響き、DVD『Works Orchestral Tour』でも聴くことのできる「Piano Concerto No.1 3rd Movement」。かつて持っていたブートレッグLP『Works 1/2』(名盤!)にはピアノソロ仕立ての第1楽章が納められていてこの演奏も好きだったのですが、バンド形式で聴く第3楽章もかなりいい感じ。『Trilogy』からの「Living Sin」に続いて演奏された「Bitches Crystal」はけっこう驚きで、『Tarkus』の地味な印象のあるB面の曲もこうして聴いてみるとハードに跳ねる3拍子が強力で思わずノッてきます。

ここでKeithのMC。メガネとアンチョコを取り出して、「ポケットにフトンがハイッテル」とかなんとかワケのわからないことを繰り返したあげく、「ヨクイウヨ!」でおしまい。何だったんだあれは?しかしその直後に「This is Hoedown!!」と告げられて会場の興奮は最高潮。シンセのフレーズから快速オルガンフレーズが展開してぐいぐい引き込まれていきます。ソロパートではDaveのギターソロが展開し、そこにKeithがブルースハープで絡む場面も見られました。Keithはこの日実にサービス精神旺盛で、曲間のMCも積極的でしたし、続くThe Nice時代の「Country Pie」では左膝でリズムをとりながらグルーヴィーなオルガンソロを聴かせてくれました。次の曲との合間のMCのときにDaveがふざけてLed Zeppelinの「Stairway to Heaven」のイントロをつま弾いてウケていましたが、続く新曲「Static」はそのDaveのボーカルとKeithのOASYSでのソロが冴えてなかなかかっこいい曲でした。

TritonとOASYSの分厚いフレーズからMoogが活躍する「Intermezzo From the Karelia Suite」の後、「今日地震があっただろう?ちょうどサウンドチェック中だったんだけど」みたいな話をしながら、Daveと共に上手に移動して、グランドピアノの前に座ります。しばらくリズム隊はお休みになって、2人でアコースティック・デュオで、最初は美しい旋律の曲、続いてラグタイム風の曲になって、最後に直接弦を弾く音を出してみせた後に突如始まったのはヒナステラの「Creole Dance」。派手なアクションでオルガンを弾きたおすKeithもかっこいいですが、こうして激しく打楽器のようにピアノを操るKeithも実にホットです。この曲が終わった途端の大歓声は、他の曲での反応をはるかに上回っていて、Keithも満面の笑みを浮かべていました。

「Cozy Powellに捧げる」とのMCで意外な選曲の「Touch and Go」。さらにDaveが12弦ギターに持ち替えての「Lucky Man」。この曲でのMoogの重低音が凄まじかった!会場全体が根こそぎ振動しているような、今までに経験したこともない分厚い重低音が再現されて、Moogの計り知れないパワーを否応なく実感させられました。さらにおなじみ「America / Rondo」では、さすがにかわいそうなHammond L-100が引っぱり出されることはなかったのですが、派手なグリッサンドの連発は健在。そしてOASYSのディスプレイを倒して逆さ「Toccata and Fugue」もお約束。このときDaveがキーボードブースに入って2音だけちゃんちゃん、とOASYSを弾いてウケまくり、しかも本人が照れて顔の前で手をひらひらさせていたのが笑いを誘っていました。しかし、この曲がくれば本編は終わりかな?と思っていたら、Tritonでコーラス音が徐々に重なってきました。もしかしてこれは!とわくわくしていると、カウントが入って凄いスピードの「Tarkus」が始まって会場炸裂。あの5拍子の高速フレーズをベースのPhilは指弾きで完璧に弾いていますし、KeithはオルガンではなくOASYSで「Eruption」のテーマフレーズをがんがん繰り出してきます。ここは本当はオルガンの方がいいのになと思っていたら、しっかり「Stones of Years」ではパーカッシブなオルガンパフォーマンスで決めてくれました。「Iconoclast」に入る直前、フットペダルでのOASYSの音色チェンジが決まらず間が空きかけましたが、気を取り直して演奏を続け(キーボード・テクが心配してOASYSの様子を見にきていました)、とうとうリボンコントローラー登場。そのまま下手舞台前でKeithとDaveは、リボンコントローラーとギターでまるで立ち話でもするように掛け合いを始め、Keithが悪のりしてお尻でリボンコントローラーを鳴らすと、Daveは困惑した様子を見せながらも口を使ってスライドダウン。さらにPete Rileyの気合の入ったドラムソロをはさんで、「Battlefield」ではアコースティックギターを持ったDaveがボーカルで恐ろしい肺活量のロングトーン(それともエコーをかませていたのでしょうか?)を聴かせ、さらにまさか本当にやるとは思わなかった「Epitaph」を演ってくれました。最後はもちろん「Aquatarkus」。長大な組曲が終わりを迎えると、聴衆は自然に立ち上がって拍手と歓声でバンドを讃えました。これに対してKeithが思い出したようにMoogのスイッチを入れると、「3rd Impression」の最後に出てくるシーケンシャルなフレーズが流れて、Moogが背後からのスモークに包まれていくなか、メンバーは手を振りながらいったん下手へ。

アンコール1曲目は、予想もしていなかったLed Zeppelin の「Black Dog」。Robert Plantばりのハイトーンボーカルもさることながら、あの2拍子系のドラムパターンがVery Good。そして間髪を容れずファンファーレが鳴り響き、「Fanfare for the Common Man」。あの特徴的なシャッフルのリズムを、ベースのPhilはこの曲だけピック弾きで再現し、ドラムのPeteもキレの良いハイハットパターンで決めてくれました。演奏が終わり、肩を組んだ4人に向かって投げ入れられた小さな花束がマイクに当たってスタンドごと倒れてしまうハプニングもありましたが、バンドメンバーも総立ちの聴衆も、皆にこにこしています。

さすがにこれで終わりだろうなと思っていたら、なかなか客電がつきません。まさか、と思っていたら本当にKeithが三たび出てきて、OASYSでサンプリングの列車の音を出してから、まずは「slow train.」とゆったりしたテンポの「Honky Tonk Train Blues」をひとしきり弾き、他のメンバーが位置につくのを見計らってから、今度は「fast train. 1,2,3,4!!」とカウントしてバンド全員で倍速の「Honky Tonk Train Blues」。もちろん聴衆は大喜びで、目の前の席に立っているかっこいいお姉さんも腰フリフリで踊りまくっていました。

久しぶりに見たDave Kilminsterは随所でアグレッシブな速弾きやタッピングを見せてくれましたが、全体にギターは控え目で、それよりもボーカルでこれほど活躍するとは思っていませんでした。もちろんあの深みのあるGreg Lakeの声質とは異なるので、たとえば私の好きな「Pirates」などはDaveでは再現が難しかったでしょうが、今回のセットリストでも十分に楽しいものでした。また、上述のようにリズム隊の2人のタイトな演奏がステージをしっかり引き締めていたのは特筆できます。そして、そんなメンバーに囲まれたKeith Emersonは終始余裕の表情でバンドでの演奏を楽しんでいたようで、そんなKeithを初めてじかに見ることができた私にとっても、大満足のライブでした。

ミュージシャン

Keith Emerson keyboards
Dave Kilminster vocals, guitar
Pete Riley drums
Phil Williams bass

セットリスト

  1. Karn Evil 9: 1st Impression, Part 2
  2. Piano Concerto No.1 3rd Movement: Toccata con fuoco
  3. Living Sin
  4. Bitches Crystal
  5. Hoedown
  6. Country Pie
  7. Static
  8. Intermezzo From the Karelia Suite
  9. Piano & Guitar Duo / Creole Dance
  10. Touch and Go
  11. Lucky Man
  12. America / Rondo
  13. Tarkus
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  14. Black Dog
  15. Fanfare for the Common Man
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  16. Honky Tonk Train Blues