塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

私=juqchoの芸術鑑賞の記録集。舞台も絵も和風好き、でもなぜか音楽はプログレ。

Queen + Paul Rodgers

2005/10/30

Queenとのつきあいについては5月の「We Will Rock You」のレビューで書いた通りでそれなりに長いのですが、とは言ってもそのメンバーであるBrian MayやRoger Taylorをじかに見たことはありませんでした。ましてやFree、Bad Companyといったブルース系ハードロックには興味もなかった(じゃあZepはどうなんだ、というツッコミはしないように)ため、Paul Rodgersの声を聴いたこともありませんでした。そんなわけでQueen + Paul Rodgersの来日が決まったときもチケットを買う気にはなれなかったのですが、その認識を変えたのは、銀座のProgbarの若いマスターの「Paul Rodgers、いいですよ。Freddieの代わりじゃなく、自分のものにしてます」との一言でした。

というわけでこの日、横浜アリーナでQueen + Paul Rodgers。会場の前の長蛇の列に辟易しながらなんとか中に入り、開演時刻である17時ぎりぎりにプログラムをゲットして上手側アリーナの自席へと駆け込みましたが、実際には開演はそこから20分余り後でした。それまでの間派手なBGMが本番と変わらないくらいの大音量で流れていて客席後方からの音のかえりが気になりましたが、フロアの聴衆はそんなことにはおかまいなしに開演を待っていて、やがてBGMとしてFreddieの声(「It's a Beautiful Day」)が流れるとまだ明るいのに既に三々五々立ち上がって手拍子。かたやステージ前方に伸びた花道周辺ではたくさんの観客が立ち上がって既に縁日のような賑わい……と思ったら、どうやら自分の席を勝手に離れてかぶりつきに陣取った強引なファンたちだったようです。そして客電が落ちてさらにBGM1曲の後に、花道上に白いスポットライトに照らされてPaul Rodgersの姿が浮かび上がり、朗々としたボーカルが響き渡る「Reaching Out」。Paul Rodgersはのっけからめちゃくちゃかっこいい。さらに続く「Tie Your Mother Down」でついに巨大な黒い幕が切って落とされてBrianとRogerが登場し、Queenのハードネスな面が遺憾なく披露されてもうノリノリです。Brianはフリフリの白いシャツに黒いパンツ、Rogerは上下黒にサングラスといういでたちで、いずれも存在感のある音を叩き付けてきています。ステージ上の下手にはサポートのキーボード、ギター、ベースが並んでおり、彼らがコーラスも担当している模様。また、ステージの背後には巨大なサーチライトが人力で右往左往していて、頭上の照明セットも上下に動く構造になっています。

「Fat Bottomed Girls」「I Want to Break Free」に続いてFreeの曲だとMCが入って「Wishing Well」。これもまた実にかっこいい。当たり前と言えば当たり前ですが、Paul Rodgersはこうしたソウルフルな曲では水を得た魚のよう(後でiTunes Music Storeでこの曲を購入して聴いてみましたが、オリジナルよりもこの日のライブでのボーカルワークの方がさらによかった)。といってQueenの曲ではダメかというとそうでもなくて、Freddieの物真似ではなく自分のスタイルでQueenの曲を再解釈しているところに実に好感がもてるのですが、あの符割のかっちりしたリズムとBrianのギターの音圧に負けない明晰な発音でFreddieが歌うことを想定して書かれているQueenの楽曲と、時折フェイクを入れながらブルージーな歌声を聴かせるPaulとは楽曲の構造段階からのミスマッチがあるのではないかと思われてなりません。これはFreddieに対する思い入れとは別次元の話。何しろこのライブではFreeやBad Companyの曲がいずれも輝いていて、とりわけ「Feel Like Making Love」での静と動の対比やアンコールでの「All Right Now」の文句なしの存在感に接し、ロックのライブにおけるヴォーカリストの重要性を今さらのように感じたのですから。

一方、RogerやBrianももともとQueen時代からリードボーカルをとることがありましたが、今日はやはりその比重が高く、曲によって花道から前方に出てきて(「Say It's Not True」by Roger、「Long Away」「'39」他 by Brian)、あるいはドラムを叩きながら(「I'm in Love with My Car」)相変わらず達者な歌を聴かせます。Rogerは例によってしゃがれた高音、Brianは優しく澄んだ高音と2人の特徴も昔のままで、特にBrianの歌う「Love of My Life」はとても美しかったのですが、この中間のアコースティックセットが多少物足りなくも感じたのは、この時点で既に、Paul Rodgersのボーカルをバンド形式でもっとしっかり聴きたいと思うようになっていたからです。また、楽器演奏の面ではBrianのギターはまったく衰えを感じることがなく、素晴らしい音圧で空間を埋め尽くしてくれて大満足。ただしギターオーケストレーションによるソロに限っては、構成もいまいちメリハリがなく、その上ノイジーでした。かたやRogerは正直太り過ぎ。曲によってはリズムがもたついているように感じましたが、それでも「I Want It All」での壮大なコーラスからハードドライヴィングに全速力で突っ走る展開はボーカルも含め全パートが一つになってぐいぐい迫るようで素晴らしい演奏でした。そして本編最後は、映像の中のFreddieがピアノとボーカルをとる「Bohemian Rhapsody」で、さすがにここではじんと来てしまいました。彼はもうこうしてステージに立つことができないのだな……。

全体に、先に発売された英国でのライブDVDとほぼ同構成のようで、「These Are the Days of Our Lives」での彼らが若い頃(たぶん30年前。本当に若々しかった)の来日時の野点の白黒映像は日本向けの演出かと思ったら、これは英国でも映していました。一方、日本向けには途中のアコースティックセットで「Teo Torriatte」がありましたし、アンコールでBrianとRogerがボーカルを分け合うこれもアコースティックバージョンの「I Was Born to Love You」はもちろん日本ならではのファンサービス。このアンコールでのFreeの「All Right Now」でついにPaulの曲に大合唱がわき起こり、Paulもマイクスタンドを真上はるか高くに投げ上げ、落ちて来たところを受け止めてリズムのキメとするパフォーマンスで応えました。最後は予定調和とも言うべき「We Will Rock You」「We Are the Champions」で終わって、主役3人は花道の前に出てきて聴衆から暖かい声援を受けていました。

客席は実に幅広い年齢構成ながら、それでも若い聴衆が過半を占めていたように思います。花道近くの客が日の丸やユニオンジャックを振っていましたが、Brianはアコースティックセットの終わりで日の丸をとりあげ、ステージ上手のアンプの上に掲げてくれて、その後ステージが終了するまで日の丸はそこにかかっていました。また聴衆の姿はカメラにとらえられてリアルタイムでステージ両脇のスクリーンに映し出されているのですが、皆がよく歌詞を覚えて一緒に歌っているのに驚きます。特に「Love of My Life」はほとんどの聴衆が予習済みだったようです。それに引き換え、Paul Rodgersの持ち歌を歌える客が少なかった(私も含めて)のが残念でしたが、曲の途中では反応できなくても曲が終わるとひときわ大きな喚声が上がっていましたから、皆がヴォーカリストとしてのPaul Rodgersにノックアウトされたのは間違いないでしょう。だからこそ、BrianやRogerがリードボーカルをとる機会が多かった今回のセットリストには少なからず不満あり。しっかりバンド形式での演奏を重ねて、もっと3人のケミストリーを見せてほしいと思いました。

ミュージシャン

Paul Rodgers vocals, guitar
Brian May guitar, vocals
Roger Taylor drums, vocals
Spike Edney MD, keyboards, vocals
Jamie Moses guitar, vocals
Danny Miranda bass, vocals

セットリスト

lead vocals : p=Paul Rodgers, b=Brian May, r=Roger Taylor

  1. Reaching Out (p)
  2. Tie Your Mother Down (p)
  3. Fat Bottomed Girls (p)
  4. I Want to Break Free (p)
  5. Wishing Well (p)
  6. Crazy Little Thing Called Love (p)
  7. Say It's Not True (r)
  8. '39 (b)
  9. Long Away (b)
  10. Love of My Life (b)
  11. Teo Torriatte (b,p)
  12. Hammer to Fall (p)
  13. Feel Like Making Love (p)
  14. Let There Be Drums
  15. I'm in Love with My Car (r)
  16. Guitar Solo
  17. Last Horizon
  18. These Are the Days of Our Lives (r)
  19. Radio Ga Ga (r,p)
  20. Can't Get Enough (p)
  21. A Kind of Magic (p)
  22. I Want It All (p)
  23. Bohemian Rhapsody (Freddie,p)
    -
  24. I Was Born to Love You (b,r)
  25. The Show Must Go On (p)
  26. All Right Now (p)
  27. We Will Rock You (p)
  28. We Are the Champions (p)
  29. God Save the Queen←演奏ではないが慣習的にセットリストに入れることになっている