The Police
2008/02/13
手元にLDやDVDでライブ映像はいろいろ持っていますが、その中でもトップクラスのクオリティを感じる作品が、The PoliceのSyncronicity Tour(1983年)の映像です。このライブ作品は、本当に凄い!あのGodley & Cremeの手になる映像もスタイリッシュだし、選曲もベスト盤の趣きですが、何といっても若々しい3人の渾身の演奏には圧倒されます。
そこから四半世紀を経て、The Policeの演奏をまさか生で見られる機会が来るとは思っていませんでした。しかし、何を考えたか彼らはバンドを再結成し、世界中を回って日本にも上陸したのです。これを見逃す手はありません。
水道橋の駅から小走りに東京ドームに向かい、通路に立っているお姉さんからプログラムを買って場内に入って自分の席についたのが18時25分。周りを見渡すと妙に人が少なく、「?」とチケットを再確認したら「19時半開演」と書いてあります。開場が17時なので、てっきり18時半開演だとばかり思ってあせっていたのですが、なんだ損した……と思ったら、実はそうでもありませんでした。18時半に突然会場が暗くなり、ステージ上にバンドが現れて「コンバンワ東京!Fiction Planeデス!」とMCが入ったかと思うと、元気のいいロックが流れてきました。このFiction Plane、Stingの息子Joe Sumner(Vo, B)を中心とするギタートリオで、Telecasterのハードエッジなカッティングギターに時折レゲエ調のリズムやU2のEdgeを思わせるスペーシーなコードを織り交ぜ、その上で力のあるボーカルを聴かせるなかなかの演奏でした。それに時折入るJoe SumnerのMCも上手な日本語で、その誠実な姿勢に好感を持ちました。
30分強の演奏が終了すると、しばし休憩。
ステージ上が本番用に整備されて、定刻をわずかに過ぎたところからBGMがレゲエ「Get Up, Stand Up」に変わり、やがて暗転すると歓声の中、バンドがステージ上に登場。ドラムセットの後方の巨大な銅鑼をStewart Copelandが叩き、Andy Summersのギターのイントロが流れて、誰もが知っている「Message in a Bottle」で幕開けとなりました。
以下、いつものように曲順を追うのではなく、要素別にこのライブを振り返ってみましょう。
まずはドラマーのStewart Copeland。髪は白くなり、メガネもかけるようになってはいましたが、3人の中では一番変わりない姿をしていました。もちろんレギュラーグリップから繰り出す彼独特の硬質なスネア、ハイハットとリムショット、バスドラムでのビートは健在。また、ドラムセットの後方一段上には上述の銅鑼のほか、各種シンバルや鉄琴、ティンパニなどが並べられ、「Wrapped Around Your Finger」や「Walking In Your Footsteps」「King of Pain」ではこれらのパーカッション類が活躍しました。
ギターのAndy Summersは、見た目が最も変わってしまっていました。あごの下にたっぷり贅肉をつけたその姿は、まるでラサール石井そっくり。出だしから「Hole In My Life」までとアンコールをStratocasterで、中間の楽曲をTelecasterで弾いていましたが、「When the World Is Running Down」での彼にしては異様に長いソロや「Walking In Your Footsteps」でのエキセントリックなソロに感動させられる一方で、アンコールの「So Lonely」のソロはよれよれ。もともとソロのテクニックで聴かせるタイプのギタリストではないだけに、本来の曲の構成を活かしたアレンジで押せばよかったのに、と思わないでもありません。それにしても、Andyがあんなにちゃんとバッキングボーカルを歌えるとは知りませんでした。
そしてSting。老けてはいるものの、こちらもStewart同様、25年前とさほど変わりはありません。ベースはイエローサンバーストの塗装がかなり剥げかかったTelecasterタイプの古いPrecision Bassを主として親指で弾き、「Don't Stand So Close To Me」ではTaurus Bass Pedalsを、「Walking In Your Footsteps」ではパンパイプを披露しました。肝心のボーカルは、最初はなかなか調子が出なかったものの3曲目あたりからは本調子となって、曲によっては驚異的なロングトーンを聴かせたり、ボーカルのコール&レスポンスで客席を煽ったり。しかし、いくつかの曲のキーが下げられていたほか、アンコールの「King of Pain」では明らかに声が出なくなっており、「So Lonely」のよれよれギターソロ後のリフレインははっきりと♭しているなど、残念なパフォーマンスとなりました。
また、東京ドームでのライブは初体験で、サウンドのクオリティには危惧を抱いていましたが、そこは天下のThe Police。PAスタッフがよほど優秀なのか、Stewart Copelandの金物の一つ一つまできれいに分離して聴かせてくれています……と喜んでいたら、「Can't Stand Losing You」からラウドになり過ぎ、塊になった音が割れるようになってしまいました。しかし、スクリーンを用いたヴィジュアルとライティングは全編を通して素晴らしいもので、バックスクリーン前に設けられたステージの後方に3面、左右に各1面、さらに内野席に近い位置に独立して1面立てられたスクリーンには恐ろしく高精細なライブ映像が映し出され、さらにステージ左右及び上部の壁面もスクリーンになっていて、「Synchronicity II」ではアルバムのジャケットを模した青・赤・黄のカラーパターンが踊り、「Walking In Your Footsteps」では巨大な恐竜のスケルトンがゆったりと歩きます。続く「Can't Stand Losing You」は全編の白眉で、お約束の客席との掛け合いの後に全楽器が全力で突っ走る場面では白色光の乱舞に会場の興奮も最高潮に達しました。
「Every Breath You Take」の演奏が終わってStingが「サヨナラ、トーキョー」と引き揚げた後、なぜか1人戻りそびれた感じのAndy Summersがスクリーンに大写しになり、客席からの歓声に「もう1曲聴きたい?」といったジェスチュア。そして残る2人が消えたステージ後方を覗き込んでいたかと思うと激しいギターリフを奏で始めて、それを合図に戻って来た他のメンバーと共に最後の曲、明るいロックンロール調の「Next To You」。ステージを囲む極彩色のライティングの中、後方のスクリーンに若い頃のメンバーの映像がモノクロで映し出され、ノスタルジックな余韻とともに全ての演奏を終えたバンドは3人揃って客席に向かって手を挙げてから、今度こそ本当にバックステージへ消えて行きました。
上述のように文句なしのパフォーマンスというわけにはいかなかったのですが、それでもこの巨大なシステムに負けることのない堂々たる演奏は、やはりさすが。貫禄十分のステージングに2時間しっかり惹き付けられた、満足のいくショウでした。
ミュージシャン
Sting | : | vocals, bass, panpipes |
Stewart Copeland | : | drums, percussion, vocals |
Andy Summers | : | guitar, vocals |
セットリスト
- Message In a Bottle
- Synchronicity II
- Walking on the Moon
- Voices Inside My Head / When the World Is Running Down, You Make the Best of What's Still Around
- Don't Stand So Close To Me
- Driven To Tears
- Hole In My Life
- Every Little Thing She Does Is Magic
- Wrapped Around Your Finger
- De Do Do Do, De Da Da Da
- Invisible Sun
- Walking In Your Footsteps
- Can't Stand Losing You / Reggatta De Blanc
- Roxanne
-- - King of Pain
- So Lonely
- Every Breath You Take
-- - Next To You