Jeff Beck

2010/04/13

昨年に引き続いてJeff Beck来日。今回は、先月発表された新作『Emotion & Commotion』のプロモーションツアーということになります。

このアルバムは、オリジナル4曲はJason Rebelloがメインのライターとして作曲し、前回のツアーでもサポートをつとめたVinnie ColaiutaやTal Wilkenfeldが演奏に加わっているのに対し、他の曲はさまざまなジャンルの曲のカバーとなっていてバックのミュージシャンも異なり、そして全編にオーケストラが使用されているなど、かなり異色の作品です。

今回のツアーでは、キーボードは上述のJason Rebello、ベースはパワフルな女性ベーシストRhonda Smith、そしてドラムにはびっくり仰天のNarada Michael Waldenでした。Naradaと言えばJean-Luc Pontyと共に加わった第二期のThe Mahavishnu Orchestraで名を挙げ、Jeff Beckのアルバム『Wired』にも参加して、特に「Led Boots」でのユニークかつ強烈なドラミングが圧倒的な印象を残しています。また、以前、何かの雑誌にSense of Wonderのそうる透氏がNaradaのことを師と仰いでいるといった発言をしていたように記憶していますが、1980年代以降はずっとプロデューサーとしての活動に専念しているのだと思っていました。この組み合わせで、果たしてどんな音を聞かせてくれるのか?とツアー開始前からわくわく。

会場の東京国際フォーラムに入ったのは、開演1時間前。舞台上には、上手にキーボードが2台ずつL字型に計4台、ベース、舞台上に直置きのツーバスのドラムセット、そしてJeffの足元のコントローラー。のんびり待つうちに開演時刻となって、5分遅れで会場が暗くなり、メンバーが下手から登場して歓声が湧き上がりました。

Eternity's Breath
すんなりとしたシンセとドラムの前奏に続いて、DVDにもなったロンドンのRonnie Scott's Clubでのライブでもオープニングで演奏された力強いディストーションリフを持つこの曲、本はといえばThe Mahavishnu Orchestraの曲です。短い演奏の後、直ちに次の「Stratus」へ。
Stratus
うねるようなベースが気持ち良いこの曲はBilly Cobhamのソロ『Spectrum』の中の曲ですが、Billy Cobhamは第一期The Mahavishnu Orchestraのドラマーで、言ってみればNaradaの前任。そしてこの曲ではラストに他の楽器によるリフレインの背後で展開するドラムソロがポイントになるわけですが、Naradaは本家Billy Cobhamや昨年のVinnie Colaiutaにひけをとらない激しいドラムが展開し、終曲と同時にNaradaがスティックを後方へ高く投げ上げると会場の興奮はのっけから最高潮に達しました。
Led Boots
冒頭の摩訶不思議なドラムパターンが開始されると観客は大喜び。ドラムの音が実にクリアに聞こえていて、Naradaのダイナミックな手捌き足捌きが手にとるようにわかります。キメのたびに客を煽るJeffに会場も歓声で応じ、スラッピングベースと、そして後半ではJasonのシンセソロがさらに盛り上げます。
Corpus Christi Carol
アゲアゲだった展開から一転して、しんみりとしたギターとストリングスで演奏されるこの曲は新譜の1曲目で、元は聖歌。ギターのヴォリュームコントロールの妙技を堪能できます。
Hammerhead
続いて新譜2曲目。こちらは唐突に激しく始まる前奏を置いて、ワウのきいた面白いギターのカッティングが続き、そこから6/8拍子のリズムパターンの上でJeffのギターが叫ぶミドルテンポのロックナンバーです。
Mná na h-Éireann
極めて印象的な美しいテーマをもつ曲。この曲は何?と思って後で調べたところアイルランドの曲で、曲名の意味は「Women of Ireland」。Mike Oldfieldも『The Voyager』でとりあげていましたが、Jeffのギターは情感豊かに歌い上げる感じで、ベースもエレクトリックアップライトで穏やかにボトムを支えていました。
Bass Solo
ハーモニクスからガキガキと硬質な音での細かいフレーズ、そして怒濤のスラッピング。ドラムが入ってバチバチと火花が散るようなソロが展開し、最後は思い切りディストーションをかけてきました。Jeffのこの日最初のMCは、このベースソロの後の「Rhonda Smith!」。
People Get Ready
ベースのRhondaのブースには明らかにボーカル用とわかるマイクが立っていたので、この曲では彼女が歌うのかなと思いましたが、ギターがメロディを奏でるインストバージョンでした。中間のブレイクからピアノソロになったところではリズムが細かい3連符系に変わり、オルガンソロから元のリズムパターンに戻るといった具合。
Rollin' and Tumblin'
サーチライトが舞って、ここでRhondaのボーカルが登場……ですが、ダミ声と言ってもいい声に仰天。Imogen HeapもJennifer Battenも、そこまでリキの入った歌い方ではなかったけどなあ。途中ではJasonもヴォコーダーでボーカルパートに参入。
Never Alone
新譜3曲目の、悲しげなテーマを持つ曲。助奏部は12/8拍子でメインテーマからは3拍子系になる手の込んだリズムで演奏され、後半ではビヨンビヨンとレゾナンスのきいたエフェクトがかかったベースソロあり。これだけあざといエフェクトの使い方をするベーシストというのは、今どきなかなかお目にかかれません。
Big Block
地を這うようなベースとタイトなドラムが、奔放なJeffのギターをがっちり支えて好演でした。
Somewhere Over the Rainbow
「Blast From the East」の出だしをJeffが弾きかけましたが、Rhondaがアップライトベースにスイッチしようとしているのを見て演奏を止め、何やら確認。その後にしんみりと始まったのは、またまた新譜のカバー曲。Jeffならではのヴォリュームコントロールとアーミングは感動的です。原曲は言わずと知れた、『The Wizard of Oz』のJudy Garland。
Blast From the East
気を取り直して、トリッキーなリズムパターン(7-8-8-7)をもつこの曲。テンポはゆったり目でしたが、このリズムパターン好きなんですよね。と思ったら、唐突感のある終わり方で「えっ?」という感じ。
Angel (Footsteps)
引き続いてこちらも『Who Else!』からの、レゲエ調のリズムを持つ穏やかなこの曲。最後のボトルネックでの超高音フレージング(ネックの上限を超えてピックアップの上でボトルネックを操作)は会場が固唾をのんで見守りましたが見事に決まり、演奏が終わったところでJeffが手をひらひら。
Dirty Mind
ギターをもう1本のStratocasterに替えて、「Rollin' and Tumblin'」と同じく『You Had It Coming』からの曲ですが、中間部にNaradaのドラムソロ(Jasonがシンセによる打楽器音で応酬)あり。とにかくパワフルで、言ってしまうと連打しているだけなのに圧倒されるほどの説得力がありました。
Brush with the Blues
ステージ上に紫煙がたちこめるような、ジャジーな雰囲気の名曲。ギターにオクターバーがかかって激しくかき鳴らされたかと思うと、一転して音量を落としレイドバックした雰囲気に変わるなど、変幻自在。
I Want To Take You Higher
Naradaの4カウントから、いきなりハイテンションなHa! Ha! Ha! Ha!で始まるこの曲は、Sly & The Family Stoneのファンクナンバー。JeffはTelecasterにスイッチし、ウルトラ能天気なボーカルはRhondaとNaradaで、そこにJasonもヴォコーダーで絡み、Naradaによるキメの「Boom shaka-laka-laka」も堂に入ったものです。
A Day in the Life
この10年ほどJeffのコンサートの定番になっている曲ですが、そろそろセットリストから外してもいいんじゃないかな……と思いましたが、ひざまずいたJeffが最後にStratocasterから絞り出した一音がどこまでも長く伸びて、やがて虚空に消えていくのに観客もじっと聞き入り、完全な無音になってから感動の拍手が湧き起こりました。

ここで本編終了。ここまで客席は着席のままで聴いていたのですが、ステージ前方に出てきた4人に対し総立ちになっての拍手が送られ、Jeffは「アイシテマス。アリガトウ」とのMCとメンバー紹介を行ってから下手に引き揚げました。

How High the Moon
アンコール1曲目で、Jeffは珍しいことにGibson Les Paul、そしてJasonもギターを抱えていて、女声ボーカル(録音されたもの?)入りの楽しいロカビリー調の曲はLes Paul氏に捧げられた「How High the Moon」。
Nessun Dorma
ギターをStratocasterに戻して、プッチーニの『トゥーランドット』から「誰も寝てはならぬ」。ストリングス、ボウイングも交えたアップライトベースをバックに、ギターが高らかに歌い上げました。Jasonのキーボードもオーケストラを完璧に代替していて凄い盛り上がり!

これだけ盛り上げるともう終わりだろうなと思っていたら、もう一度Jeffたちがステージに戻ってきてくれました。この日が日本での最終公演なので、サービス精神旺盛。

Cause We've Ended as Lovers
なるほど、こう来ますか。ブルーの光がステージを照らし、中間部では思い切り高揚しながらも、最後の最後はしんみり泣かせようという選曲。

これでこの後に「Blue Wind」をやってくれたら最高なんだけど、たぶんこれで完結しているんだろうなあ、と思いながらステージを見ていたら、「どうする?」という顔のNaradaにJeffが「もうおしまい」といった感じで手を振って2度目のアンコールも終了。会場のリスペクトの拍手に送られて、Jeffとミュージシャンたちはゆっくりと下手へ消えていきました。それにしても、今回のステージではしんみりサゲられたり激しくアゲられたりと振幅が大き過ぎて、正直自分のテンションをどこに持っていったらいいのか戸惑う面もあったのですが、Jeffの自由自在なギターとNaradaの変化に富んだドラミングは、掛け値なしで素晴らしいものでした。Jeff Beckは65歳ですが、どんなに少なく見積もっても70歳までは現役でのステージをつとめられそう。それまでの間にまた来日してくれて、この日聴きたかった / 聴けなかったたくさんの名曲を聴かせてもらいたいものです。

ミュージシャン

Jeff Beck guitar
Narada Michael Walden drums, vocals
Rhonda Smith bass, vocals
Jason Rebello keyboards, vocals

セットリスト

  1. Eternity's Breath
  2. Stratus
  3. Led Boots
  4. Corpus Christi Carol
  5. Hammerhead
  6. Mná na h-Éireann
  7. Bass Solo
  8. People Get Ready
  9. Rollin' and Tumblin'
  10. Never Alone
  11. Big Block
  12. Somewhere Over the Rainbow
  13. Blast From the East
  14. Angel (Footsteps)
  15. Dirty Mind
  16. Brush with the Blues
  17. I Want To Take You Higher
  18. A Day in the Life
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  19. How High the Moon
  20. Nessun Dorma
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  21. Cause We've Ended as Lovers