塾長の鑑賞記録
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塾長の鑑賞記録

Dream Theater

2012/04/24

Dream Theaterは、確かにそのあり得ないほどのテクニックとパワーに敬意を抱いてはいるものの、正直に言うと、アルバムを出すごとにだんだん曲の区別がつかなくなっているバンドの一つ。そんな中途半端な思い入れの対象であるDream Theaterのライブ at SHIBUYA-AX。

今回のツアーは、バンド結成以来の中心人物であったスーパードラマーMike Portnoyが脱退し、替わりにMike Manginiを迎えて制作された最新アルバム『A Dramatic Turn of Events』のプロモーションを主目的とするものですが、サポートアクトにAndy McKeeを起用している点が不思議と言えば不思議。おそらくDream TheaterファンでAndy McKeeに関する予備知識を持っていた人は少ないと思うのですが、私は以前にたまたまYouTubeで見た映像でそのギタープレイの虜になり、CDも買っていたので、こちらもまた楽しみにしていました。

開演時刻は19時で、その30分前に会場に入ると既に1Fのスタンディング席は大勢のファンが詰めかけていましたが、比較的隙間のある右前方の適当な位置に立つことができて一安心しました。やがて定刻になって登場したAndy Mckeeの最初の曲は、アコースティックギターのボディをパーカッシヴに叩いてリズムを作りながら、ハンマリングとタッピングを多用して音を紡ぎ出すテクニカルな「Drifting」。これで会場をつかんだ後に日本語で「こんばんは」と語り掛けると、会場の若者たちも一斉に「こんばんわー!」。ちょっとだけわかりますという日本語で自己紹介をして、以下全5曲のうち3曲目と4曲目は低音弦を伴う大きなハープギターを使用しながら、私の大好きな切なさ全開の「Rylynn」も交えた演奏は最後にDream Theaterの「A Change of Seasons」のさわりを披露して歓声のうちに終了。Dream Theaterとはおよそ対極にあるような音楽性なのに、期せずしてMckeeコールが起こるほど、ファンの心をとらえたようでした。私自身も、初めて生で見るAndy McKeeの多彩な演奏に大満足です。

Andy McKeeがステージを下りると、舞台上ではAndyの背後に垂れていた幕が下ろされてMike Manginiのドラムセットが姿を現しましたが、その偉容に客席からはどよめきが湧き上がりました。四角い檻のようなフレームの中に、中央から左右に対称に並ぶタムやシンバル、四つのバスドラ、そしてさらに特徴的なのは、ドラマーの頭上に固定されたオクタバンです。Mike Manginiは、Marco Minnemann、Virgil Donati、Thomas Langら驚くほど豪華なドラマーたちを集めたオーディションを経てDream Theaterのドラマーの座を獲得した人物で、2010年のEddie Jobsonのプロジェクトで来日したときにその演奏を見ましたが、Marco Minnemannとのツインドラムだったこともあり、あまり強い印象を受けてはいませんでした。しかし、Dream Theaterのオーディションでは、まさにこのときの2人=Marco MinnemannとMike Manginiの一騎打ちとなり、そしてバンドはMarco Minnemannのコミカルな陽性よりもMike Manginiの野獣的なエナジーを採用したようです。

映画『Inception』からの妖しい曲「Dream Is Collapsing」に乗ってバンドのメンバー(海賊風あり、魔術師風あり、忍者風あり……)が召還されて飛行機に乗るアニメーション(Led Zeppelinの映画『The Song Remains the Same』へのオマージュ?)に導かれて始まったこの日のライブは、そのMike Manginiのパワーが全員に乗り移ったかのようなエネルギッシュで一体感のあるものとなりました。

懐メロばかり演奏するライブが多い昨今の中で、この日のライブでは新譜から「Bridges in the Sky」「Build Me Up, Break Me Down」「Outcry」「Far From Heaven」「On the Backs of Angels」「Breaking All Illusions」と6曲も演奏され、その合間に過去の名曲が散りばめられるという、まさに現役の選曲。新譜からの曲も堂々たる演奏でしたが、自分としては大好きな「Surrounded」がオリジナル通りの演奏で披露されたことに感動しました。この曲のボーカルワークは今のJames LaBrieには厳しいかと思っていたのですが、まったくそんなことはありません。そしてこの曲に限らず、James LaBrieのボーカルは好調。曲調に応じて金属質の高音を使ったりシャウトしたり、あるいは情感をこめてしみじみと聞かせたり。上唇型(?)に湾曲したマイクスタンドを手にステージ上で聴衆を煽る姿は、フロントマンとしての自信に満ちあふれていました。

もちろん、他のメンバーのテクニックも相変わらず完璧。John Petrucciは、片膝を上げてのスーパーテクニカルなプレイを見せるかと思えば艶のあるロングトーンで美しいフレーズもたっぷり聞かせ、加えてMike Portnoyが担当していたコーラスパートでも奮闘していましたし、いつもは指の動きの激しさの割に影が薄いJohn Myungがこの日は積極的に前に出て、John Petrucciと肩を並べてベースを弾く場面も見られました。Jordan RudessのメインキーボードはKORGのKronosですが、その右上にフロートさせたiPadもポルタメント系の音で多用していました。使用されていたアプリは、Jordan Rudessブランドの「MorphWiz」と「SampleWiz」。そしてこれらを載せたキーボードスタンドは、従来のように360度水平に回転するだけでなく、右手側に傾いて聴衆に鍵盤上の指さばきを直接見せられるようにもなっていました。下手側にはラップスティールとContinuumもセットされていましたが、Continuumを1曲だけ使ったほかは見向きもされず、さらに背後に縦置きされたショルダーキーボード(Zen Riffer)は完全にオブジェ状態。

そして注目のMike Manginiは、目にも止まらない速さでスティックを振るって大規模なセットをフルに使い、ダイナミックなリズムを止めどなく繰り出してきました。特筆すべきは世界記録を保持していたこともあるシングルストロークでの連打のスピードで、随所に片手打ちを誇示する場面が見られ、とりわけ「A Fortune In Lies」の後半に出てくるマシンガンのようなスネア連打を片手で叩いてみせたときは場内に大歓声が湧き上がりました。ドラムソロも聴覚・視覚共に刺激する派手なものでしたが、それ以上に彼の正確無比のドラミングがDream Theaterの全ての楽曲にぴったりはまっていたことの方が重要です。あの複雑怪奇な楽曲群の全てで完璧なアンサンブルを実現できるのは、ドラマーがこのバンドの音楽を理解し尽くしているからに違いありません。

この日のライブは、会場の特性なのか音の分離がやや悪かったものの、大事なポイントではギターやキーボードのフレーズがきちんと聴き取れましたし、カラフルで動きのある照明は非常に美しく、そしてもちろんバンドの演奏の水準の高さによって、ショウとしての完成度は素晴らしいものでした。それにしてもこのバンド、テクニックもさることながら凄い耐久力の持ち主ばかり。2時間ほどのステージはほとんど全力疾走で、ピアノ弾き語りで歌われた「Wait for Sleep」や、そこにベースが加わった「Far From Heaven」が数少ない癒しでしたが、それらも含めてスタンディングで聴きながら歓声を送り続けているこちらも、体力の限界への挑戦となりました。

アンコールは彼らの究極兵器である「Pull Me Under」かと思っていたら、意外にもヘヴィーな「As I Am」。そして終演後、メンバーたちはそれぞれに前に出てきて聴衆に手を振っていましたが、John Myungがあの何を考えているのかわからない表情のまま積極的に聴衆とハンドタッチを交わしていたことと、Mike Manginiが野獣的だったプレイとは裏腹に、爽やかで誠実そうな笑顔を見せてくれていたことが印象的でした。カリスマドラマーMike Portnoyの「代役」ではなく、新生Dream Theaterのメンバーとして聴衆の支持を克ち得たMike Mangini。冒頭に「中途半端な思い入れの対象」と書きましたが、こうなったらぜひ、このメンバーで次作はさらに刺激的な音楽を作り、再び来日してほしいものです。

ミュージシャン

Andy McKee guitar, harp guitar
James LaBrie vocals
John Petrucci guitar, vocals
Jordan Rudess keyboards
John Myung bass
Mike Mangini drums

セットリスト

Andy McKee

  1. Drifting
  2. Ebon Coast
  3. The Friend I Never Met
  4. Rylynn
  5. Tight Trite Night

Dream Theater

  1. Bridges in the Sky
  2. 6:00
  3. Build Me Up, Break Me Down
  4. Surrounded
  5. The Root of All Evil
  6. Drum Solo
  7. A Fortune In Lies
  8. Outcry
  9. Wait for Sleep
  10. Far From Heaven
  11. On the Backs of Angels 〜 War Inside My Head 〜 The Test That Stumped Them All
  12. Keyboards, guitar Duo
  13. The Spirit Carries On
  14. Breaking All Illusions
    -
  15. As I Am

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