Ron Carter Big Band

2012/12/10

ブルーノート東京(南青山)で、Ron Carter Big Bandのライブ。ビッグバンド形式のジャズというのは映画の中でしか経験がないのですが、巨匠Ron Carterが昨年ビッグバンドCDをリリースし、それを前面に出して東京にやってくるというので、たまにはこういうのも聴いてみようか、とチケットをとったもの。ところで今、映画の中で……と書きましたが、高校生の頃から古いミュージカル映画が好きで比較的よく見ている方なので、こういうオールドスタイルの音楽も案外好きなのです。

フォアグラのカナッペを肴に軽くシャンパンを飲んで待つうちに、バンドメンバーが登場。舞台に向かって左端がピアノ、その前にギター、ギターの後ろにRonが立ち、その右横はドラムです。そして舞台右半分はホーンセクションで、後ろからトランペット4本、トロンボーン4本、サックス4本。しばらく店内のBGMはそのままに楽器の調節をしたりで間があって、やがてRonが合図を送ってBGMが消えると、おもむろに演奏が開始されました。

まずは落ち着いたリズムを持つ「Loose Change」で幕開け。ステージと客席が指呼の間なので音が相当うるさいのではないかと危惧していたのですが、実に適度の音量で楽器一つ一つのニュアンスまでも伝わってきます。テーマ部の演奏の後には、まずギターソロ、そしてトランペット→サックス→トロンボーンのソロが続きますが、ホーンの1人がソロを吹いている間、他のメンバーの何人かはソロ奏者を見上げて「お、いいね!」といった表情を見せており、いかにも音楽を楽しんでいる様子が伝わってきます。最後にギターのトリッキーなカッティングから、わざとヨレたようなベースのフレーズが入ってフェードアウトして終わり。

続いて不思議なリズムのイントロで始まる「Pork Chop」。かなり刺激的なテナーサックスソロに大きな拍手が湧き、トロンボーンも負けじとこれに続きます。そうしたやんちゃな(?)ホーンセクションの後ろで、大きなグルーヴを作り出すRonのベースとLewis Nashのドラムがなんともすてき。

この2曲の後に初めてRonのMCが入り、低い落ち着いた声で最初の2曲の紹介(「Pork Chop」のことを「ベジタリアンの友人たちに捧げる曲だ、と語っていました)があった後に演奏されたのが、「Opus Number One」。ここでようやく、それまで控えめだったDonald Vegaの流麗なピアノソロが入りました。この曲は短く終わり、続いてRonが「私の好きなジャズソングだ」と紹介して始まったのは、とても可愛らしいベースのフレーズから入る「The Golden Striker」でした。Lewisのブラシワーク、Donaldのピアノとの3人で骨格を作り、ニュアンス豊かなホーンのバッキングとソロが続きます。演奏の熱が上がってくるとLewisはブラシをスティックに持ち替え、そしてサックスソロのときにはいたずらっぽい顔つきと大仰な身振りで、ギターのRussell Maloneと示し合わせてつんのめるようなリズムのトリックを入れてきたりしていました。途中でテナーサックスとアウトサックスが2本だけで対位的にソロを絡めるスリリングな場面もはさみ、最後に冒頭のベースフレーズが戻ってきて、ふんわりと終了。

Donaldのピアノが単音のフレーズをつま弾きだし、これは聴いたことがあるぞ?と思ったら有名な「My Funny Valentine」でした。情感豊かなピアノにRonの粘り気のあるベースがまとわりつき、Russellのギターの控えめなカッティングやアルペジオが色をつけるトリオ演奏。うっとり聞き惚れてしまいました。曲はやがて長めのピアノソロに移り、最後にベースとギターが一定のリズムパターンをかぶせてきましたが、ここでRonは右手で3弦を弾くと同時に左手人差し指で1弦をもプリングするという奏法を見せ、不思議な音の重ね方を聴かせていました。

ムード溢れる演奏が終わって、Ronがステージ上のミュージシャンたちを一人一人、ファーストネームで紹介。呼ばれたミュージシャンは立ち上がって拍手を受けていましたが、最後にRonがひと呼吸おいて「... Ron」と自分の名前を呼ぶと、客席からは笑い声と共に一際大きな拍手が湧き上がりました。そして最後は「St.Louis Blues」。ゴージャスな4ビートの助奏の後に、マンボ風にリズムを変えてあの有名なフレーズが演奏されると客席は大喜び。再び4ビートに戻って、ドラムとギターをバックにお待ちかねのベースソロが登場しました。インパクトのあるダブルストップや品の良いポルタメントを多用した、カラフルなソロに満足!その直後のホーンのソロでRonのタイム感がかなり前のめりになっていたように思えたのがちょっと不思議ですが、やがてピアノが割って入ってバンド全体の進行を調節していました。

当然のように始まったアンコールは、ドラムのフェードインから「Buhaina, Buhaina」。ゆったりした華麗なギターソロの中にRussellはごく自然に「涙そうそう」のフレーズを織り込んで客席をびっくりさせていましたが、その後にも輝かしいトランペットソロやサックスソロ、ピアノソロを重ねていって、最後にバンド全体がクロマチックに大きくダウン&アップ、ドラムが一際大きなタムとシンバルのフレーズを聴かせて、見事なキメで演奏を終了しました。

上質の演奏に客席も満足、Ronもステージを下りて客席の間を抜けていくときに上機嫌でお客との握手に気さくに応えていました。このビッグバンド形式は、昨日の上原ひろみのトリオ演奏とは対極のスタイルですが、演奏者の個性と即興性を重視している点はやはり共通ですし、それをミュージシャン自身が楽しんでいる雰囲気はどちらの演奏からも伝わってきました。それこそが、ジャズの本質なんでしょうね。それにしても、ミスター・ベースマンの姿をこうしてじかに見たのは初めてでしたが、やはりかっこいい。真摯に音楽に向き合う姿勢と穏やかな語り口とは、まさしくジェントルマンです。自分も歳をとるなら、ああいう風に年を重ねたいものだな……無理か……。

ミュージシャン

Ron Carter bass
Russell Malone guitar
Donald Vega piano
Lewis Nash drums
Scott Robinson saxophone
David DeJesus saxophone
Wayne Escoffery saxophone
Jerry Dodgion saxophone
Jay Brandford saxophone
James Burton trombone
Steve Davis trombone
Jason Jackson trombone
Douglas Purviance trombone
Greg Gisbert trumpet
Tony Kadleck trumpet
Alex Norris trumpet
Jon Owens trumpet

セットリスト

  1. Loose Change
  2. Pork Chop
  3. Opus Number One
  4. The Golden Striker
  5. My Funny Valentine
  6. St.Louis Blues
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  7. Buhaina, Buhaina