伊勢神宮参拝

今年は、伊勢神宮の20年に一度の式年遷宮の年。持統天皇の690年を第1回とし、途中に戦乱による中断をはさみつつ今日まで1300年も続く重要行事で、今年が第62回です。そういえば今まで伊勢神宮に参拝したことがなく、これは日本人としていかがなものかと思っていたので、思い立ってお伊勢参りをすることにしました。

伊勢神宮(正式には単に「神宮」)は単一のお宮を指すのではなく、五十鈴川畔に広がる内宮ないくうと伊勢市駅近くの外宮げくうの二つの正宮を中心に、別宮、摂社、末社、所管社などからなる125社の総称なので、お参りにはガイドブックが必携です。そこでちょっとミーハーかな?とは思ったものの『るるぶ お伊勢まいり』を味方に付けて、新幹線に乗り込みました。

2013/10/26

実はこの日、台風27号が日本の南岸を通過するために直前まで中止も覚悟していたのですが、思ったより南寄りにコースを変えてくれたために名古屋に着いてみれば青空が広がり始めていました。ラッキー。名古屋からは在来線で一路伊勢市を目指します。

伊勢市駅の駅舎はこんな感じ。すっきりした外観は、神宮の素木しらき作りに倣ったものなのでしょう。そして参道は駅の真っ正面なので、道に迷う心配はこれっぽっちもありません。

外宮

外宮(豊受大神宮)は、天照大御神の御餉(食事)を司る神=豊受大御神を祀る正宮を中心に、三つの別宮ほかからなっています。内宮が五十鈴川畔に創建されてから500年後に、5km離れた山田原の地に設けられたもの。

表参道火除橋を渡って境内へ。ここは左側通行です。そして、まずは手水舎でお清め。

ちょうど、勾玉池の舞台上では御神楽の奉納がされていました。

第一鳥居、第二鳥居とくぐって、御神札授与所。鳥居をくぐるときに一礼するのは、基本マナーです。

正宮の古い方(という言い方でいいのかな?)。神様は既に、新しいお宮に移られた後です。

こちらが新しい方。白絹の御幌の前で、二拝二拍手一拝の拝礼で安寧への感謝を念じました。中は写真撮影禁止ですし、そもそも正殿を見ることはできないのですが、この奥には古代の高床式穀倉から宮殿形式に発展した唯一神明造の巨大な正殿が聳えているはず。その屋根に乗る鰹木は9本、千木は外削(先端が地面に対して垂直に切られる)というのが外宮の正殿の特徴です。

左は何でしょう?皆が手をかざしていたところからすると、何かのパワースポット?右は御池に架かる橋=亀石。確かに、亀の姿をしているようにも見えます。

別宮の一つ、風宮。こちらは建て替えられておらず、隣に建替え用地=新御敷地が広がっています。

こちらも別宮=土宮。地主神を祀っています。この辺りで、主立った宮は隣り合った二つの敷地を交互に用いる配置になっているのだということがわかってきました。遷宮は、内宮・外宮の正宮と14の別宮で行われ、したがってそれぞれにこうした新御敷地が設けられています。

なぜか人気の多賀宮。豊受大御神の荒御魂をお祀りしており、外宮の別宮の中で最も格式が高いそう。

左が立て替えられたばかりの多賀宮。右は旧宮。

こうして並べてみると、20年でどれくらい傷むものなのかがよくわかります。ふと見ると、足元には寝ているお地蔵さんのような石が……。

静かな裏参道を歩いて北御門鳥居の外に出ると、そこに御厩がありました。この神馬(笑智号=アングロアラブ種)はとてもおとなしく、皆がばしばし写真を撮っているのにも動じずじっと佇んだままでした。

月夜見宮

いったん宮域外に出て、神路通りを月夜見宮へ。徒歩10分ほどの至近距離にあります。

やや広めの境内の奥にある社殿には、月夜見尊と月夜見尊荒御魂を共に祀っています。神の二面性である和御魂にぎみたまと荒御魂あらみたまを一緒に祀る例は、珍しいそう。

社殿の左右にも小さな鳥居。これらも含めて、ひっそりと静かな雰囲気がすてきでした。

せんぐう館

見るべき程の事をば見つ……と言う前に、せんぐう館で学習。

式年遷宮では建物だけでなく御装束神宝も作り直されるのですが、その調製の様子や遷御の儀の模型、外宮殿舎のジオラマが展示されていました。そして圧巻は、外宮正殿の実物大模型(部分)です。高さ12.4m、幅9.3mの外宮正殿東側面部の模型を見れば、棟持柱の太さや屋根を葺く萱の分厚さなどに圧倒されること請け合いです。

2013/10/27

宿の窓から見た鳥羽の夜明け。今日もいい天気に恵まれそうです。

二見興玉神社

まず向かったのは、夫婦岩のある二見興玉神社。JR参宮線の二見浦駅舎は、夫婦岩をかたどったユニークな形です。

駅前は寂しい風情でしたが、海に近づくにつれ由緒正しそうな旅館が建ち並ぶようになりました。なぜか蛙の置物、そして海の匂いと潮騒の音。

かつては、ここで禊を済ませてから外宮・内宮へ向かう習わしがあったという二見興玉神社。猿田彦大神を含む三神を祀ります。

すぐに出てきました、夫婦岩。え、あれが?と思うくらい実物は小さいものでした。もっともそれは、潮が満ちていたせいかも。

ここでも蛙……。実は蛙は、猿田彦大神の使いなのだそうです。

岩の間から昇る日の出を見るなら春から夏がベター。絵葉書の写真によると、富士山の上に朝日が昇る構図になるようです。

こちらが日の出遥拝所。夫婦岩は縁結びに御利益があるそうですが……ま、それはもういいかな。道はその先にも続いていますが、適当なところで引き返すことにしました。

内宮

バスで内宮(皇大神宮)へ移動。五十鈴川の畔に神域が広がる内宮は天照大御神を祭神とし、境内には正宮の他に二つの別宮と10の所管社が点在しています。

平成21年(2009年)に架け替えられた宇治橋を渡り、境内へ。ここでは外宮とは反対に右側通行。そして、橋の下には清浄な五十鈴川の流れ。

神苑を通って火除橋を渡ります。お手洗 これより先は ありませんが何気に五七五。

手水舎でお清め。第一鳥居をくぐると内宮の内懐に入った気になりますが、まだまだお清めが足りません。

五十鈴川御手洗場で、五十鈴川の清流によってさらに心身を清めます。川縁には石畳があり、しゃがめば水に手を浸すことができました。

御手洗場のすぐ近くにある瀧祭神は五十鈴川の守り神。無病息災を祈って、第二鳥居へ進みます。

御神札授与所で、御守りをいただきました。隣の神楽殿の前には、新婚さんの姿も。

はい、こちらが正宮です。左が建て替えられた新しい正宮、右が古い方。歳月の経過以上に、神様が遷られたとたんに建物が古びていってしまっているような気がします。

旧正宮の周囲をぐるっと回ってみました。ちらりと見えているように、内宮の場合は千木の先端は地面と水平な内削で、風穴は二つ半(外宮は二つ)、さらに鰹木は10本です。

内宮のナンバー2、荒祭宮へ。ここは天照大御神の荒御魂を祀る別宮です。

ここも真新しい素木の白さが美しく、心が洗われるようです。

外幣殿と御稲御倉。この高倉穀倉の形が、伊勢神宮独特である唯一神明造の建築様式。正宮内の正殿は、これを巨大にして回廊を付けた形になっています。

橋を渡って、風日祈宮へ。元寇襲来のときに神風を吹かせて国難を救った神社の一つが別宮となったもの。

茅葺きの屋根は、相当に傷んでいました。風の神様だけに、出入りが激しいのか?

境内には鶏の姿も見られます。こちらは神様のお使いなので、うまそう……などと思ってはいけません。

アバンギャルドな剪定がされた庭を横目に見て、子安神社と大山祇神社にお参りして、これで内宮でのミッションはすべて終了です。

ありがとうございました。

そろそろお腹がすいたので、内宮を出た目の前に入口があるおはらい町に入ることにしました。

伊勢名物てんこ盛りの豪勢な昼食をいただいて、レトロな街並みをのんびり歩きます。ここだけでも十分楽しめそう。昼食を終えた後は、伊勢市駅までの間に点在する別宮を歩いてつなぎました。

月讀宮

猿田彦神社に立ち寄ってから、さらに車道をひたすら歩きます。ひっそりとした鳥居をくぐって境内へ。

これは四つの社殿が横一列に並ぶ変わった造り。右から二つ目が月讀尊を祀る月讀宮がひときわ大きく、その右に荒御魂宮、左に伊佐奈岐宮、伊佐奈彌宮と並びますが、では遷宮はどうするのか?実は、このスペースと同じ大きさの新御敷地が別の場所に用意されていました。

倭姫宮

垂仁天皇の皇女・倭姫命をお祀りする別宮。倭姫命は、天照大御神を伊勢に導いて内宮を創建したと伝えられています。

ここもひっそりとした境内の雰囲気が好ましく、自然な祖先崇敬の気持ちが湧いてきます。そしてこれが今回の旅の最後の訪問先となりました。

初めてのお伊勢参りでしたが、やはり来て良かったと思いました。内宮・外宮を中心に一帯に広がる神域は日本人の心の故郷、浄めの場です。一度と言わず、何度でも足を運んでみたいと思いました。