U.K.
2013/11/08
Eddie Jobsonのプロデビュー40周年ライブがアナウンスされた後に、追いかけるようにしてU.K.としてのステージも披露されることになりました。しかも『U.K.』『Danger Money』の2枚のアルバムの曲を、収録順に全曲再現するという企画。ということは、これまでライブで演奏されたことがない「Mental Medication」も演奏されるということだな?とその一点の興味のために、こちらのライブにも参戦することにしました。
もちろん、オリジナルU.K.のメンバーはEddie JobsonとJohn Wettonの2人で、そこにサポートとしてAlex MachacekとMarco Minnemannが加わるという2011年の4人編成での来日時と同じ布陣です。mixiの関係コミュニティでは2012年のTerry Bozzioが参加したトリオ編成でのライブの評価があまりにも高く、そのために今回はもう行かないという声がちらほら聞かれたのですが、それはそれ、これはこれ。
仕事を終えてただちに移動し、川崎駅構内の蕎麦屋さんで腹を満たしてから、おなじみのクラブチッタへ。グッズはプログラム、Tシャツ、タオル。そして会場入口には、この公演が収録される旨の貼紙が掲示されていました。
私の席は、ここでは初めての経験となる2階席で、その右端の方でステージ全体を見下ろしながら観戦することになりました。それほど大きなハコではないのでこの2階席からでも十分に臨場感が味わえ、メンバーの動きも一望できるので席としては悪くありません。そして、定刻をかなり(20分くらい?)過ぎたところでようやく照明が落ち、重低音が響く中、全員黒っぽい衣裳のメンバーが登場しました。
- In the Dead of Night / By the Light of Day / Presto Vivace and Reprise
- 冒頭のリズムパターンから、ボーカルパートへ。John Wettonは一時期パフォーマンスが非常に不安定な時期がありましたが、冠動脈の手術を受けアルコールも断つようになってからはすっかり安定した感があります。使用しているベースはZONのElite Black。ひげ面でずいぶん精悍な印象です。そのままスムーズに「By the Light of Day」へ移行。Eddieはブルーのヴァイオリンを使用し、キーボードに戻ってからのゆったりしたパートではJohnがベースをかなり自由に歌わせていました。そして、ドラムがフェードインしてきて、「Presto Vivace and Reprise」。聴かせどころの高速フレーズもばっちり決まって、まずは第一関門通過。
- Thirty Years
- ただちにストリングス音が広がって、Johnの雄大な熱唱へ。アルバムではファルセットの部分がムリがあるように聞こえるのですが、この曲でのJohnはファルセットを自在に操り、まったく違和感なく聴くことができました。シンセサイザーの華麗なベンディング、流れるようなギターソロ(コピーではなくオリジナルライン)も文句なし。
- Alaska / Time to Kill
- 昨年のライブのときのように吐き気がするほどの超重低音ではありませんでしたが、それでもビリビリとくる低音から極北のストリングスが鳴り響き、そこから「Time to Kill」へ……となるのですが、ここで明確なトラブル。原曲ではVCS 3で鳴らしているキラキラ効果音が出ず、しばらく重低音を聴きながら待機していたMarcoが、諦めたEddieの合図を受けて4カウントを鳴らして曲を進めることになりました。曲の途中のブレイクの場面でも同様に効果音が出ておらず無音の瞬間を生じてしまいましたが、クリスタルのヴァイオリンソロは白熱の演奏で挽回しました。
- Nevermore
- イントロのアコースティックギターは、コード部分をEddieのハープシコード系キーボード、ソロ部分はもちろんAlexのギターのクリーントーン。この曲のファルセットはもともとJohnの声域を無視したものであるために、さすがにJohnも苦しそう。Eddieもしきりに下手袖を振り返っては何やらサインを送っていて演奏への集中力を欠いている感じで、見ているこちらも不安になってきてしまいました。しかし、この曲の最大の聴かせどころであるギターとシンセサイザーの掛け合いのパートは、今までのライブではサンプリングを併用していたEddieが金属質の鋭い音色で潔く手弾きで弾き通してみせたのが収穫。音色の切替が遅れたり音が若干間引かれていたりと結果的に必ずしも満点の演奏とはいかなかったにしても、Eddieの勇気を讃えたいと思います。ただし、この曲のコーダ部分でも出るはずのないところでピアノ音が出たりと音色の切替がうまくいっておらず、これはどうみても機材トラブルを抱えた状態での演奏だということがわかりました。
- Mental Medication
- 個人的にはこの日もっとも期待していた曲。これまたムリ筋のファルセットが入っていてファンの間では必ずしも人気のある曲ではありませんが、私はかなり好きですし、よく聴けば意外に難曲です。最初の夢みるようなギターのコードの積み重ねから、ボーカルの背後に入る密やかなヴァイオリンはかすれるようなフラジオレット(ハーモニクス)も交えてとてもデリケート。しかし、途中の跳ねるリズムのパートはMarcoが正しいリズムを再現できていなかったようです。それでも、高音から駆け下りてくるシンセサイザーから始まるギターとシンセサイザーのユニゾンとその後の掛け合いは見事。ところがその後に続くこの曲の最大の特徴であるヴァイオリンソロは、果敢な演奏ではあったもののなぜかEddieが早くヴァイオリン演奏を切り上げてしまい、Alexのギターのコードが空しく響くばかりで尻切れとんぼ感を拭えませんでした。うーん、この曲の一番美しいところだったのに残念。
- ←ヴァイオリン演奏が省略されたパート(原曲)
- Drum Solo
- 「Mental Medication」から引き続いて演奏されたドラムソロは、陽性のMarcoらしい明るいもので、Carl Palmer並みのエンタメ系シンバルワークや怒濤のツーバス連打に心が温かくなりましたが、ただそれがU.K.のライブになじむものであったかどうかは、若干疑問。
残りのメンバーが戻ってきて、Johnが恐れ入りましたのポーズをMarcoに向かってしてみせたところで、この日初めてのMCをEddieがとりました。「Mental Medication」をライブで演奏したのは初めてだ、引き続き『Danger Money』へ、といったアナウンス。
- Danger Money
- 元来はトリオ演奏の曲ですが、ここではAlexはステージ上に残って音を重ねていました。深いリヴァーブが掛けられたドラムに導かれたイントロに続いて、オルガンのグリッサンドから迫力ある演奏へ。しかし、オルガンのリズムキープの上で弾かれる妖しげなギターとベースのメロディが何やら怪しげ。おまけにその後のシンセサイザーのソロも音を外しており、Eddieは明らかに不調です。機材に対する信頼を失っていることが演奏への集中を妨げているのだと思いますが、ここまでくるとその不調が他のメンバーにも伝播し初めているようでした。
- Rendezvous 6:02
- Alexが下がってトリオになっての演奏でしたが、この曲は最後に空中分解寸前までいきました。美しいピアノのアルペジオから迫力あるMoogソロまではうまくいったものの、ソロからピアノへの戻りがたどたどしく遅れた上に、最後のピアノ独奏でのアルペジオでは音色がまったくおかしなものになってしまいました。Eddieは足元のフットコントローラーとの悪戦苦闘の末にオルガンの白玉でかろうじて曲を締めくくりましたが、演奏が終わった瞬間、自分の喉を切るポーズ。痛々しい……。
- The Only Thing She Needs
- 後遺症はまだ続き、この曲でもドラムソロに続いて入ってくるオルガンの音量・音色が本来のパーカッションサウンドの効いた迫力のあるものではありませんでしたが、途中から正しい音色が復活すると、後は立ち直った演奏を聴かせてくれました。ピアノの高らかなアルペジオ、ブルーのヴァイオリンによる気合の入ったソロ、オルガンによる高速アルペジオ、さらに原曲にはない流麗なギターソロ。Marcoのパワフルでスピーディーなドラミングもマッチして、ここまでの数曲の鬱憤を一気に晴らした感じです。
- Caesar's Palace Blues
- ところが、Eddieのカウントに合わせて叩きだしたMarcoが次の「Nothing to Lose」のリズムを叩きだしてしまったらしく1人でめちゃくちゃに突っ走ってしまい、慌てたMarcoは即座に「うわー!ストップ!」みたいな感じで両手を頭上で振って演奏停止。Eddieが前に出てヴァイオリンを構えているのだから間違えようはないはずなのですが……Marcoよ、お前もか!ともあれ、もう一度カウントを出して最初から演奏やり直し。Eddieの必殺の武器であるクリスタルのヴァイオリンは絶好調で、このやり直し演奏は完璧だったと言ってよいでしょう。
- Nothing to Lose
- この曲はMarcoが出だしのカウントを出したのですが、速い!というか速過ぎる!原曲の3割増しくらいのスピードにどうなるんだ?とはらはらしていたら、さすがにEddieから「テンポを落とせ」というサインがMarcoに飛び、ボーカルが入るところで軌道修正されてほぼ原曲のテンポに落ち着きました。しかし波乱はまだ続き、中間のヴァイオリンソロからEddieがキーボードに戻り、オルガンの後に太い音色のシンセサイザーでメインリフを弾こうとしたところへタイミングを間違えたJohnがボーカルをかぶせてしまい、Marcoはドラムを叩きながら「ええっ!」という表情。しかし自分がミスしているとは知らぬ顔のJohnは思い入れたっぷりにボーカルを続け、Eddieは必死の演奏を続けながらシンセサイザーの音色を修正してなんとか曲をまとめ上げました。
- Carrying No Cross
- トリオ演奏のこの曲は、最初の歌い上げるパート、迫力あるキーボード演奏の長大なパート、最後に再びボーカル、という三つのパートになっているのですが、最初のボーカルは絶唱。聞き惚れました。ドラムが入ってきてからの数小節ではメロディアスなベースソロも聴けて、Johnのこの日一番の演奏だったと言えるでしょう。ところが、ドラムがタテ乗りのリズムを叩きだしてピアノに入るところでまたしても何らかのトラブルがあったらしく、ピアノの入りが8拍遅れました。それでも何とかピアノの音を復活させ、オルガン、高音のシンセサイザー、オルガン、シーケンスパターンときたものの、このシーケンスパターンが一瞬消えて曲の流れが途切れてしまうミス。気を取り直してシーケンスパターンを復活させ、ポルタメントの効いたシンセサイザーソロから緊迫感に満ちたオルガンソロへ、さらにピアノの大胆な独奏から高速オルガンまでなんとか辿り着きましたが、続くパーカッションサウンドの効いたオルガンのフレーズのバックが本来ポリシンセなのにピアノ音、続くマーチ風のドラムの上で弾かれる高音のシンセサイザーのロングトーンでのリフのバックは本来ピアノなのにオルガンの音。そのシンセサイザーをEddieが途中で途切れらせてしまったためにMarcoとの間で曲の進行の理解に齟齬が生じ、Eddieのメロディがまだ途中なのにMarcoが一回り早くドラムパターンを切り替えようとしてしまいました(Marcoがフィルインを入れてきたのを見たときは心臓が止まるかと思いました)が、ここはEddieがシンセサイザーのフレーズを続けているのを見たMarcoが瞬時に軌道修正して事なきを得ました。
波瀾万丈だった2枚通しの演奏もようやく終わり、ここから先はアンコール。U.K.コールの中に戻ってきたEddieはクリスタルのヴァイオリンを抱えて「1979年に演奏した曲だ」といったアナウンスをして、ヴァイオリンをつま弾き始めました。
- Waiting for You
- まさかここでこの曲を聴けるとは!ライブアルバム『Night After Night』の後、ヴァイオリニストとしての性格をさらに強めたEddieが自身の指向を最大限活かしたこの曲は、ブートレグでしか聴くことができません。激しいヴァイオリン演奏、リズムのキメをはさんで各楽器が短いソロの応酬を聴かせるこの曲では、AlexのギターもMarcoのドラムもひときわ輝いていました。演奏終了後には、Johnも「うまくできた」と満足そうな表情。この曲を生で聴けただけで、チケットを買った甲斐があったというものです。
- ←ブートで聴ける「Waiting for You」
- Night After Night
- しかし、この曲でまたしても音色の切替がうまくいかないトラブル。ピアノの音とキラキラ系のシンセサイザーの音が行ったり来たりした上に、本来は壮麗なオルガンで弾かれるはずのソロが薄いシンセサイザーの音色で演奏されてしまいました。どうも、Eddieは途中でキーボードのコントロールを諦めた感じです。演奏自体は申し分なかったのに、無念。
Johnが「ドモアリガト」、そしてステージ上に残ったJohnとEddieの前には舞台上手から引き出されてきたキーボードが1台。
- As Long as You Want Me Here
- 聴衆の手拍子とEddieのピアノをバックにこぶしを効かせて歌うJohn。この日一番安心して見ていられる演奏だったかもしれません。
ほとんどMCなし、Johnの「キミタチサイコダヨ」すらもなしの緊張感に満ちた演奏でしたが、こんなに心臓に悪いライブは初めてです。Eddieをはじめ、彼らほどのプロフェッショナルがここまでめためたになってしまうとは。EddieはMIDIフットコントローラーを使って自分で音色の切替を行っている(cf. 2009年来日時のシステム)のですが、このコントローラーが不調だったのかもしれません。気の毒なEddie……。しかし、DVDはどうなってしまうのか。少なくとも「Rendezvous 6:02」「Nothing to Lose」はこのままでは収録は無理。「Carrying No Cross」だって厳しいでしょう。
明後日は、Eddie Jobsonの40周年ライブ。彼のキャリアを網羅し、U.K.に限らない多彩な楽曲が演奏されるはずですが、果たして大丈夫なのでしょうか?何とか立ち直ってもらいたいものです。
ミュージシャン
Eddie Jobson | : | keyboards, violin |
John Wetton | : | bass, vocals |
Alex Machacek | : | guitar |
Marco Minnemann | : | drums |
セットリスト
In the Dead of Night
- By the Light of Day
- Presto Vivace and Reprise
- Thirty Years
- Alaska
- Time to Kill
- Nevermore
- Mental Medication
- Drum Solo
- Danger Money
- Rendezvous 6:02
- The Only Thing She Needs
- Caesar's Palace Blues
- Nothing to Lose
- Carrying No Cross
-- - Waiting for You
- Night After Night
- As Long as You Want Me Here