Eddie Jobson
2013/11/10
2日前の波瀾万丈のU.K.公演に引き続いて、この日はEddie Jobson単独名義の公演です。彼のプロ生活40周年ということで、キャリアのスタートラインとなったCurved AirからRoxy Music、Frank Zappa、U.K.、そしてソロキャリアの後にUKZに至るナンバーを演奏するため、ベースとなるバンド編成はAlex Machacek、Marco Minnemann、それにサポート的な位置付けでベースのRic Fierabracci。そこにSonja Kristina、John Wetton、Aaron Lippertの3人のボーカリストがゲスト的に加わる(ただしU.K.ナンバーではJohn Wettonがベースも弾く)という構成になっています。実はもう1人ボーカリストがいるのですが、それは後ほど。
ところで、2日前のU.K.名義でのライブがよれよれだったことは既報のとおりですが、それではDVD収録はどうなってしまうのだろう?という疑問は、ネット上の情報ですでに氷解していました。何と、昨日(11月9日)のEddie Jobson単独名義ライブ初日の終演後に、追加で「Nothing to Lose」と「Rendezvous 6:02」を撮り直したのだそうです。しかしその日の本編でもEddieの機材は不調で、「Carrying No Cross」を演奏の途中で止めてスタッフが修理にかかっている間にJohn WettonとMarco Minnemannが「Pink Panther's Theme」で遊び、それでも直らなかったのでドラムソロで時間を稼ぐ場面があったとのこと。果たして今日は大丈夫なのか?
会場に入ってみると、機材の配置は2日前と同じ。ただし、ステージのフロントにはボーカルマイクが4本立っていて、一番下手はEddieのMC用、中央は歌詞モニターとセットのJohn Wetton用、そして追加された2本は背丈の違いでSonja Kristina用及びAaron Lippert用であることがわかります。やがて、定刻を過ぎて場内が暗くなると、音楽と共にステージ後方のスクリーンにEddieのキャリアを示す写真やビデオが流れ始めました。
Curved Air、Brian Ferry、Roxy Music、King Crimson、Deep Purple(と表示されていましたが実際はRoger Glover)、Frank Zappa(後ろにTerry Bozzioの姿)、U.K.、Jethro Tull、Zinc、Yes、『Theme of Secrets』のCG、TVコマーシャルソングやTVドラマ(『Viper』『Nash Bridges』)、Bulgarian Women's Choir(Eddieが指揮)、映画『Brother Bear』(Phil Collinsの姿)、ソロでヴァイオリンを弾く姿……と続いて、その画像を引き継ぐようにグリーンのヴァイオリンを持ったEddieが登場しました。
Violin Solo
喝采が湧く中で、Eddieはひとしきりヴァイオリンを鳴らし、やがて低い持続音がフェードインしてきて……。
Armin
まずはCurved Airのナンバーから、ヴァイオリンの技を聴かせるこのインスト曲。引き締まったリズム隊とAlexらしからぬいかにもロックなギターソロに驚きます。Marcoは時折左手側を見て楽譜を確認しながら叩いている模様。
It Happened Today
16歳のときに自分を見出してくれたのがSonja Kristinaだ、というEddieのMCがあって、貫禄のあるSonjaがボーカルをとるCurved Airのヒット曲。Sonjaの声は素晴らしく、歌っていないパートでは妖しいダンスでクリスタルのヴァイオリンを持つEddieに絡んでいきます。なお後半の極めて美しいヴァイオリンソロのバックで、エレピのパートをAlexがギターで見事に再現していました。
U.H.F.
跳ねるようなリズムを持つこの曲、出だしはギター、ベース、ドラムのスリーピースにボーカルという構成です。途中で力強いヴァイオリンソロが入り、その後滑らかにピアノソロ、さらにギターソロへと移って、冒頭のギターリフへ回帰。最後はダイナミックなヴァイオリンソロになり、Macoのツーバス連打が激しく曲を盛り上げて終わります。
Elfin Boy
アコースティックギターを抱えたSonjaの詠唱に、Eddieのバンドネオン風のシンセ音が絡む妖しい雰囲気の曲。その冒頭でEddieに音色の選択ミスがありましたが、キーボード、ベース、ギターの構成で独特の世界観を再現していました。
Metamorphosis
マーチ風のイントロ、踊るSonja。少し疲れたか、Sonjaの声が唐突に出なくなっていましたが、この曲の聴かせどころは中間部のピアノソロパートなので問題なし。そのピアノの背後に、上手袖のキーボードでそっとストリングスを重ねるAlex。やがてリズム隊と存在感のあるギターソロが入り、リズムが冒頭のマーチ風に戻ってEddieのラグタイム風ピアノ連打へ。
Out of the Blue
ボーカリストとしてAaron Lippert登場。彼を見るのは、UKZのメンバーとして来日した2009年以来ですが、見た目が全然変わっていませんでした。曲はRoxy Musicの著名なナンバーで、サックスは左手、メロトロンは右手で弾かれていました。また、後半のヴァイオリンソロもオリジナルに忠実なものでした。AaronもBrian Ferryのあの頽廃的な歌い方を再現しようとしていて、一応及第点はあげられるでしょう。
Lather
Frank Zappaのナンバーで、空間を活かした特徴的な雰囲気の伴奏の上に、いかにもAlexらしい粘着質のギターソロ、そしてレコードでのMoogサウンドを再現した流麗なシンセサイザーソロ。事前のMCでも、この曲はMoogソロによって後世に名を残すことになったというようなことをEddieが言っていましたが、確かにこのソロは音色もフレーズも極めて印象的です。
Presto Vivace / In the Dead of Night / By the Light of Day / Presto Vivace and Reprise
Latherに引き続いてそのままあのドラムパターンがフェードインし「Presto Vivace」。そこから「In the Dead of Night」のリズムが鳴る間に歓声を受けて登場したJohn Wettonにベースがスイッチして、そこからは2日前と同じU.K.ナンバーへ。やはり手慣れたナンバーだからか、MarcoもAlexも生き生きと演奏しているように見えます。「By the Light of Day」のヴァイオリンソロではJohnのベースが美しく歌い、Alexも密かにキーボードを重ねて曲を分厚くしていました。そして、その様子を上手袖でスマホを構え密かにビデオを撮るAaronがかわいい。しかし、「Presto Vivace」2回はちょっとやり過ぎだと思います。
Rendezvous 6:02
Alexが退場し、トリオ編成で。2日前のトラウマがあってハラハラしながら聴きましたが、中間部のシンセソロはポルタメント大暴れ系の音色をEddieが御しかねている雰囲気もあったものの、おおむねOK。よかった……。
Carrying No Cross
Eddieが事前にオルガン音を確かめてから、イントロへ。この曲、きちんと決まればこれほど血湧き肉踊る曲はありません。ピアノのマーチ風連打やテクニカルなアルペジオ、ダイナミックなオルガンのテーマフレーズとソロ、シンセサイザーの咆哮やシークエンスパターンとの融合など、キーボードプレイヤーの技の集大成のような曲。小さなミスはあっても曲自体の生命力で聴かせきる力強さに、心底感動しました。
Alaska
John Wettonが下がってベースがRic Fierabracciに戻り、Alexも戻って4人編成。凄まじい爆音が極北のオーロラの音色を聴かせた後に、キャラキャラというシークエンス音からリズム隊がなだれ込んだ後、ギターのコード一発で『Zinc / Green Album』の曲へ。
Resident
Eddie Jobsonがキーボードを弾きながら、自分でボーカル!ちゃんと高音が出ているじゃないですか。それだけ歌えるならU.K.ナンバーでもコーラスをつければいいのに、と思いましたが、それはともかくかなり複雑な原曲をほぼ完璧に再現していて、完成度の極めて高い演奏でした。これは、この日のベスト演奏かもしれません。
Who My Friends...
間髪を置かずに演奏されたこれもZincの曲ですが、攻撃的なシンセサイザーのフレーズが特徴的。その分キーボード演奏の負担が高いからか、ボーカルはピンチヒッターのAaronに委ねていました。そして後半、グリーンのヴァイオリンを手にしたEddieが前に出てきたところで、キーボードのバッキングトラックをアサインしたキーをベーシストが押すことになっていたようですが、上段のキーボードを使うべきところを下段のキーボードのキーにタッチしてしまい、とんでもない音が出て一度演奏が止まるアクシデント。そこはEddieが苦笑いをしながら優しく注意を与えて、バンドは何ごともなかったかのように演奏に戻りました。ここでのEddieのヴァイオリンソロも、極め付きのアグレッシブさと美しさ。
Eddie Jobson Solo
『Zinc』から「Prelude」「Nostalgia」、『Theme of Secrets』から「Spheres of Influence」「Inner Secrets」。「Nostalgia」の最後でヴァイオリンを下手袖のスタッフに渡すときにEddieがかなり厳しい口調で何か叫んでいましたが、いったい?
Radiation
そして「Inner Secrets」の最後にノイズが接続して、UKZの「Radiation」。久しぶりに聴きましたがダークなこの曲、やはりかっこいい。ギターとシンセサイザーのユニゾンでの上行フレーズは何らかのミスで期待された音になりませんでしたが、その後の徐々に盛り上がるドラムソロ、ギターソロ、そしてディストーションのかかった攻撃的なヴァイオリンソロとどれをとっても一級品です。Aaronのボーカルも、存在感がありました。
Houston
MarcoがSonjaの使っていたアコースティックギターを抱えて舞台中央に座り、コードストローク。原曲ではドラム用のスティックで弦を叩いて音を出していたのですが、今日は普通に弾いています。淡々とした演奏の中に、Aaronのボーカルの悲壮感が沁み渡っていい演奏でした。
TU-95
ギターとヴァイオリンのユニゾンでぐんぐん引っ張るインストゥルメンタル曲。負けじと空間を埋めてくるドラムの音圧が凄い!
Through the Glass
こちらも「TU-95」から間髪入れずに演奏されましたが、UKZのダークな曲調に比べ極めて明るいシンセサイザーソロがメインに置かれたインスト曲。リズムもキメはあるものの基本的にストレートです。
ここまででもEddie Jobsonの多彩な音楽活動の歴史がわかるというものですが、ここからのアンコールでは、Sonja Kristinaをフィーチュアした曲を1曲、John Wettonをフィーチュアした曲を1曲、そしてサプライズが1曲ありました。
Young Mother
Curved Airの曲。シンセサイザーのパターンから入り、Sonjaのボーカル、クリスタルのヴァイオリンのソロ、そしていかにも1970年代風なシンセサイザーソロ。EddieのソロではAlexがキーボードでエレピの音を重ねていたので、シンセソロのパートではツインキーボードになっています。
Caesar's Palace Blues
続いて出てきたJohn Wettonが「コンバンワ!キミタチサイコダヨ!」を炸裂させ、大爆笑の中5カウントでこの曲へ。Aaronもコーラスに加わってのボーカルパートに続くEddieのヴァイオリンソロが超強烈!客席は興奮の坩堝と化しました。
Forever Until Sunday
そして最後にMCなしで始まったのが、『Bruford』に収録されている「Forever Until Sunday」でした。私の大好きなこの曲を、Eddieのヴァイオリンで生で聴くことができる日が来ようとは……。しかもディストーションヴァイオリンが入っていたり、キーボードのパターンが『Bruford』のものとは異なっていたりと、オリジナルU.K.版の「Forever Until Sunday」を再現したものとなっていました(感涙)。
ブートで聴ける「Forever Until Sunday」
以上で、2時間半ほどにわたったライブは終了です。今日もミスやトラブルと無縁というわけにはいかなかったものの、全体を通してみれば満足のいくコンサートでした。しかし、これは毎回言っていることですが、Eddie Jobsonには「回顧」ではなく「創造」を期待したいと今でも思っています。今回の40周年イベントが、遺産からの卒業につながってくれればよいと思っているファンは少なくないはず。次に来日するときには、今のEddieが理想とする新しい顔ぶれと新しい楽曲を携えてくることを切に望みます。
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ミュージシャン
Eddie Jobson | : | keyboards, violin, vocals |
Alex Machacek | : | guitar, keyboards |
Marco Minnemann | : | drums, guitar |
Ric Fierabracci | : | bass |
Sonja Kristina | : | vocals, guitar |
John Wetton | : | bass, vocals |
Aaron Lippert | : | vocals, keyboards |
セットリスト
- Violin Solo
- Armin(Curved Air)
- It Happened Today(Curved Air)
- U.H.F.(Curved Air)
- Elfin Boy(Curved Air)
- Metamorphosis(Curved Air)
- Out of the Blue(Roxy Music)
- Lather(Frank Zappa)
- Presto Vivace(U.K.)
- In the Dead of Night(U.K.)
- By the Light of Day(U.K.)
- Presto Vivace and Reprise(U.K.)
- Rendezvous 6:02(U.K.)
- Carrying No Cross(U.K.)
- Alaska(U.K.)
- Resident(Zinc)
- Who My Friends...(Zinc)
- Eddie Jobson Solo
- Prelude(Zinc)
- Nostalgia(Zinc)
- Spheres of Influence(Solo)
- Inner Secrets(Solo)
- Radiation(UKZ)
- Houston(UKZ)
- TU-95(UKZ)
- Through the Glass(Zinc)
--- - Young Mother(Curved Air)
- Caesar's Palace Blues(U.K.)
- Forever Until Sunday(U.K. / Bruford)