Asia
2014/06/20
渋谷公会堂でAsiaのライブ。今回は、新作『Gravitas』リリースに伴うツアーということになります。ま、新作が出ようが懐メロになろうが、John Wettonが来るなら仕方なくチケットは買うわけですが。
金曜日の夕方、定時と共に会社を後にして一路渋谷へ。Asiaは2010年も2012年も渋谷公会堂でライブを行っていますが、よほど渋谷が気に入っているのでしょうか?そういえば、『Phoenix』に収録されている「Nothing's Forever」の中ではSan FranciscoやNew York Cityと並んでなぜか(Tokyoではなく)Shibuyaが歌詞の中に登場します。
今回の話題の一つは、Yesでの活動に専念することになったSteve Howeに代わってAsiaに加入した新ギタリストSam Coulsonです。Steve Howe脱退後、Steve LukatherやPaul GilbertにコンタクトしたJohn Wettonに対し、Paulが自分の代わりに推薦したのがSam Coulsonだったそうですが、他のメンバーとは親子以上に歳の離れた若い彼が、果たしてどんなプレイを聴かせてくれるのか。
Samのギターはストラトタイプ。アンプはENGL。CarlのドラムはLudwigで、左手側にひっそりKORGのWAVEDRUMがセットされています。一方、Johnの足元の右足側にはMoog Taurus III、左足側には歌詞のモニター。Geoffのキーボードは今回は8台で、舞台中央側のメインキーボードはRoland Fantom G8ですが、その下にあるフットペダルも活躍します。
定刻19時から5分ほど過ぎ、客席中央のPAブースでヘッドセットをつけ仁王立ちになっていたスタッフの1人が右隣のもう1人にキューを出したところで照明が落ち、ド派手なチャイコフスキー『序曲 1812年』に導かれてメンバーが上手から登場。歓声が沸き上がる中、それぞれの定位置に着いた4人は、Carlの4カウントと共に演奏を開始しました。
- Sole Survivor
- 堂々たる演奏。珍しくつばのあるハットをかぶったJohnの声の調子も良さそうです。SamとJohnは上下黒づくめ、Carlは白地に濃い青のTシャツ、Geoffは黒のシャツにブルーのパンツ。中間のいったん静かなパンパイプフレーズに入る前に手拍子で観客に歌わせるパートを挿入して聴衆のボルテージを上げさせるのも巧みな演出です。最後はCarlのどかどかツーバスに乗ってSamがそつのないギターソロ。
- Wildest Dreams
- 間髪入れずにCarlの4カウントで「Wildest Dreams」へ。これは凄い!原曲よりも速く、ダイナミクスに溢れていて、Steve Howeが脱退したのはこのスピード感についていけなくなったからではないかと思えるくらい。歌詞の「across to California」のところは「across to Shibuya」と歌われていました。そしてこの曲終盤の見どころであるCarlのソロコーナーは、正直かなり危なっかしかったにもかかわらず、大拍手を集めました。
- Face on the Bridge
- ハットをとったJohnのMCで曲名紹介があった後に、『XXX』のこの曲が、これまた原曲よりかなり速いテンポで演奏されました。Geoffのシンセサイザーによる鋭いオブリガートが印象を強めます。Samのギターソロも最後に駆け上がる高速フレーズが秀逸。それにしても、Johnはひと頃に比べてずいぶんスリムになったな。それに引き換えGeoffの膨張ぶりは……。
- Time Again
- Carlの銅鑼が炸裂!シャッフルビートのこの曲は実に盛り上がります。高揚感に満ちた演奏でJohnのボーカルワークも文句なく素晴らしかったのですが、この曲の仕掛けであるピアノとギター手のこんだ掛け合いの部分をSamは無難に持続音で逃げていたのが残念。
- Valkyrie
- MCに続いて、ここで『Gravitas』からの曲が登場。落ち着いたリズムの上で、Geoffのキーボード群が原曲を巧みに再現していました。
- I Know How You Feel
- ここでSamとCarlが下がり、Johnもベースを肩から下ろして、Geoffと2人で『XXX』のこの叙情的な曲。Geoffが作るストリングス系の音色は、ときどきチープに聞こえて「?」と思うことがありますが、ここもややそうしたきらいあり。
- Voice of America
- Samがアコースティックギター、Johnはアコースティック12弦、そしてCarlのタンバリンとGeoffのピアノ・ストリングスで演奏されたこの曲は3rdの『Astra』収録ですが、原曲のエレクトリックなアレンジよりもこうしたアコースティックバージョンの方が、歌詞本来の切ない感情を適切に表現できています。
- The Smile Has Left Your Eyes
- これも、『Alpha』でのこてこてのアレンジよりは、シンプルなピアノ弾き語りの方がぴったりくる曲です。いったん弾き通した後に、全楽器が入ってエレクトリックなコーダをつけるのはこれまでにも採用された手法。
- An Extraordinary Life
- ここでCarlがドラムセットの横に立てられた専用のマイクスタンドの前に立つと、それだけで聴衆は大喜びで拍手と歓声。いかにCarlが愛されているかということが、これを見てもわかります。その彼に紹介されたのが、『Phoenix』収録でJohnがお気に入りであるらしいこの曲。Samの大らかなフレージングのギターソロも、曲調にマッチしていました。
- Gravitas
- 新譜『Gravitas』のタイトルナンバー。これまたケレン味が一切ない堂々たる演奏ですが、GeoffのキーボードオーケストレーションとSamの短いながらも溌剌としたギターソロは特筆できるものでした。
- Geoff Downes Solo
- Carlから「King of keyboards」と紹介されたGeoffによる、おなじみ「Cutting It Fine」のボレロパート。私としては、どうせキーボードソロをするなら新しい工夫をしてほしいし、それよりは『Omega』の曲を何かとりあげてほしかったな。
- Days Like These
- 『Then and Now』にSteve Lukatherのギターをフィーチュアして収録されていた軽快なポップナンバー。私はこの曲、けっこう好きです。でも、終盤近くのリズムブレイクの直前のタム回しでCarlが右手のスティックを取り落として思い切り慌てた表情になったのを、私は見逃しませんでした。
- Go
-
『Astra』のオープニングナンバーで、不遇ながらファンには愛されている曲。ハードエッジなギターのカッティングが必要とされ、Samのギターには最もマッチしていたと思います。ギターソロも速弾き主体の存在感のあるものでGood。ちなみに、Steve HoweもAsiaのステージではかなりハードな音を出しますが、相当にドライな音質であるのに対して、Samのギターはブルースにルーツを持つせいか艶のある音色を好んでいるようです。
- Don't Cry
- 名曲。ピアノとボーカルのデュオで演奏されることもありますが、今回はフルバンドスタイルで、Taurusの重低音も雄々しく演奏されました。
I'll hear you when you're calling. I'll catch you when you're falling. Don't worry I will always be there like never before.
なんて言ってみたいものです。言える相手を見つけることが先決ですが……。 - Carl Palmer Solo
- 来ました、Asia名物Carlのドラムソロコーナー。誰もが認めることでしょうが、これはもはや芸の域。技術云々ではありません、あのひたむきなショウマンシップがすべての人を感動させ、笑いと涙を誘い、拍手と歓声を集めるのです。何をやってもCarl、大したことなくてもCarl。そして、渾身のソロが終わって息も絶え絶えのCarlが立ち上がると、客席も自然に総立ちになりました。
- Only Time Will Tell
- Carl、もう休んでもいいぞ。安らかに眠ってくれ……という私の老婆心にはおかまいなしに、Geoffは誰もが知っているあのフレーズを弾き出し、手拍子で応える客席は新興宗教もかくやの法悦状態。
- Open Your Eyes
- 最後は名曲「Open Your Eyes」。これを聴いてヴォコーダーを買ったロックキーボディストやエレクトリックシタールを買ったギタリストもいるはず。そして、シンセサイザーとギターの美しいユニゾンからJohnのボーカルが冴え渡る最後のヴァースへ。泣ける。
- Heat of the Moment
- アンコールはもちろんこの曲。もはや言うことなし。
Sam Coulsonはそつのないギター演奏を聴かせましたが、まだ経験が浅いせいかフレーズの抽き出しをそう多くは持っていない感じ。比較的狭い音域の中で同じフレーズを繰り返すタイプのソロが多く、Steve Howeのソロで時折遭遇する「えっ、そうくるのか!」という飛び道具的な意外性は感じられませんでした。たぶん、10分間ソロを弾き続けろと言われたときには2人の力量差が如実に出るのではないでしょうか。しかし、何よりもバンドの演奏がロックならではのスピード感を維持するために彼の貢献が必要だったのは、確かなのでしょう。
サン=サーンス交響曲第3番ハ短調op.78「オルガン付き」をバックに上手の袖へ引き上げるメンバーたち、リスペクトの拍手で見送る聴衆。1時間45分余りとコンパクトな、しかしとてもいいライブでした。
ミュージシャン
John Wetton | : | vocals, bass |
Geoff Downes | : | keyboards, vocals |
Carl Palmer | : | drums |
Sam Coulson | : | guitar |
セットリスト
- Sole Survivor
- Wildest Dreams
- Face on the Bridge
- Time Again
- Valkyrie
- I Know How You Feel
- Voice of America
- The Smile Has Left Your Eyes
- An Extraordinary Life
- Gravitas
- Geoff Downes Solo
- Days Like These
- Go
- Don't Cry
- Carl Palmer Solo
- Only Time Will Tell
- Open Your Eyes
-- - Heat of the Moment