Jeff Beck

2015/09/25

昨年に引き続いてJeff Beck来日。今回はBlue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN(横浜)への出演に合わせて単独名義でのライブが東京と大阪で各1回組まれたものですが、今年の5月に『LIVE+』をリリースしていますから、そのプロモーションを兼ねたツアーという色彩もあります。サポートメンバーはこの『LIVE+』と同じく、ギターにNicolas Meier、ベースにRhonda Smith、ドラムにJonathan Joseph(ここまでは昨年の来日時と同じ)、そしてボーカルには2005年の来日時にも同行したJimmy Hallです。

Zepp Tokyoの1Fはスタンディング、2Fは椅子席で、チケットをとるのが遅れた私はスタンディングの整理番号738番。四角い会場の前から四分の三ぐらいの中央やや右寄りに立ち位置を占めました。

ステージ上は、中央奥にRhondaの立ち位置。その左(下手)にJeff Beckのギターアンプ、中央右奥にJonathanのドラムセット、その手前にNicolasの立ち位置です。定刻を大きく回ったところで暗転し、神秘的なアルペジオに続きバスドラとハイハットがミドルテンポのリズムを刻み始めて、Jeffの鋭いギター音が切れ込んできて「Even Odds」からスタート。続く「Hammerhead」で早くも黒いシャツを脱ぎ白のタンクトップになったJeffは、ステージの大半をリバースヘッドの白のStratocasterで通します。3曲目のThe Mahavishnu Orchestraをカバーした「You Know You Know」はリズムセクションの2人のソロコーナーがあり、とりわけRhonda姉さんのベースソロは昨年に比べてエフェクターを控えスラッピングや早弾きを効かせたかっこいいもの。

スネアロールから地を這うようなベースリフに移り、もはやJeffのライブの定番となった「Stratus」が終盤リズムに破綻をきたしそうになりながらもどうにか息を合わせて終わったところでマイクスタンドが中央に置かれ、ヴォーカリストのJimmy Hallが登場しました。「Come on Tokyo!!」と聴衆を煽りながらJimmyがまず歌った「Morning Dew」はRod Stewertのボーカルで第一期Jeff Beck Groupの『Truth』に収録されていますが、原曲はBonnie Dobsonのフォークソングです。この曲を強靭なリズムに乗って高らかに歌い上げたJimmyは、続く「A Change Is Gonna Come」でソウルシンガーとしての真骨頂を発揮しました。Sam Cookeにより歌われ、その非業の死の後に公民権運動の賛歌となったこの3拍子のスローテンポの曲で、Jimmyは実にパワフルかつソウルフルな歌唱を披露し、聴衆を掌握していきます。

一転して「Yemin」は、Nicolasのフラメンコギターソロから。出だしの妖しいコードにゾクっとしたJeffがクネクネしてみせて笑いをとりましたが、やがて曲は中近東風のエスニックなスケールとなり、Nicolasのアコースティックギターソロが曲を牽引します。Jeffのギターもヴァイオリンのような音を出して雰囲気を盛り上げ、Nicolasのソロの後には短いながらも強烈なギターソロ。次にがらりと曲調を変え、マーチングドラムに乗ってJimmyのハーモニカとJeffのオクターバーによってハーモニカっぽいサウンドになったギターの掛け合いが陽気で楽しい「Lonnie on the Move」、ついで「The Pump」のテンポを二倍にして刺激的なリフをイントロと中間に付け加えたような「Nine」と畳み掛けてから、ボトルネックを取り出したので何をするのかな?と見ていたら、あの名曲「Nadia」が艶やかなトーンで演奏されました。『You Had It Coming』収録のこの曲、もう少しゆっくりしたテンポでもよかったのにとは思いましたが、それでもその美しさは比類のないもの。また、Nicolasの12弦ギターのアルペジオにJeffのギターが絡むイントロから始まった「Little Wing」は、Jimi Hendlixのカバー。昨年のステージではインスト曲として演奏されましたが、今回はヴォーカリストがいるのできちんと歌われます。

ところで、フュージョンギタリストとしてのJeff Beckのファンであれば『Blow By Blow』(1975年)と『Wired』(1976年)は聖典のようなものであり、昨年も前者から「Cause We've Ended as Lovers」、後者から「Led Boots」「Blue Wind」「Goodbye Pork Pie Hat」が演奏されたのですが、今回は「Cause We've Ended as Lovers」だけ。そして場内を大いに沸かせた「Superstition」はもちろんStevie Wonderのカバーですが、1973年の『Beck, Bogert & Appice』にも収録されていました。このように、今回のステージではJeffの長いキャリアの中でフュージョン色の薄い楽曲ばかりを(カバー共々)セレクトしているのが特徴であるようです。私のJeff Beck観もこのフュージョン期に形成されたものなので、実はJeff Beckと歌モノというのは不思議な感じがしてしまうのですが、後にLed Zeppelinによって完成されたハードなギターとボーカルの拮抗する音楽スタイルの原型はJeffとRod Stewartによる第一期Jeff Beck Groupであったと言われることもあるようですから、私の感覚はそうした歴史の文脈に照らすと適切ではないのかもしれません。

エフェクトの効いたギターの生み出すダークな重低音が会場に轟き聴衆に悲鳴のような歓声を上げさせた「Big Block」、一転してしっとりした出だしから入り中盤でギターに艶やかに歌わせる「A Day in the Life」、Nicolasの演奏するパッド系の白玉の上でボリューム奏法とハーモニクスによりしんみりとした古歌を聞かせる「Corpus Christi Carol」と多彩な曲調の曲が3曲続けざまに演奏され、そして本編最後の2曲はJimmyが出てきて、RhondaとJonathanもボーカルに加わる「Rollin' and Tumblin'」(私の前に立っていたお姉さんはノリノリ!でもなぜかウラ打ちの手拍子ができない模様)、さらにブラッシングの4拍子にJimmyのハーモニカが絡み、そこへあのギターの下降フレーズが弾かれるとそれとわかったファンから歓声が上がった第二期Jeff Beck Groupの「Going Down」。強靭なリズムに聴衆はほとんどヘッドバンギング状態で、この熱気に乗ってJeffも一緒に歌ってくれるかと期待しましたが、Jimmyの熱唱の前にそれはなりませんでした。

アンコールは、アイルランド民謡の「Danny Boy」をインストゥルメンタルでじっくりと歌い上げた後に、Jimmyが出てきて「今年5月に亡くなった"King of blues"、B.B.Kingに捧げる」とアナウンスして典型的なブルースコード進行の「The Thrill Is Gone」で締めくくりました。

この日の時点で、Jeff Beckは御年71歳。しかし、見た目も演奏も全く衰えというものを見せておらず、Stratocasterの艶やかな音色と時折切れ込む鋭いフレーズは健在です。Rhonda、Jonathanの盤石のリズムセクションとNicolasによるセカンドギター / シンセサイザーのバッキングも完璧で実に安定したステージでしたが、今までの来日ステージとの違いを上げれば、一つにはJeffがオクターヴァーなどエフェクターを多用してかなりギター音を作り込んでいたこと、そしてソウルフルな歌声(と性格)の持ち主であるJimmy Hallを起用したことでブルース、あるいはソウル寄りの選曲と演奏が目立ったことです。一例を上げれば、Muddy Watersの録音(作曲は別人)で知られるブルース「Rollin' and Tumblin'」を、『You Had It Coming』(2001年)でJeffはImogen Heapのクールなボーカルと打込みのリズムとによってテクノ調にアレンジしてみせていましたが、この日の「Rollin' and Tumblin'」はJimmy Hallの声質もあってよりナチュラルなブルースロックになっていました。さらに、最後の「The Thrill Is Gone」での違和感のない(でも少し強引な)ペンタトニックスケールでのギター演奏を聞けば、Jeffがそのキャリアの中でブルースに対するリスペクトを維持し続けてきたことに気付きます。

演奏を終え、舞台下手の袖に下がっていくJeff BeckをJimmyは"King of guitar!!"と讃えましたが、彼がその玉座を降りる日は、どうやらなかなか来そうにありません。

ミュージシャン

Jeff Beck guitar
Jonathan Joseph drums, vocals
Rhonda Smith bass, vocals
Nicolas Meier guitar
Jimmy Hall vocals, harmonica

セットリスト

  1. Even Odds
  2. Hammerhead
  3. You Know You Know
  4. Stratus
  5. Morning Dew
  6. A Change Is Gonna Come
  7. Yemin
  8. Lonnie on the Move
  9. Nine
  10. Nadia
  11. Little Wing
  12. Cause We've Ended as Lovers
  13. Supersutition
  14. Big Block
  15. A Day in the Life
  16. Corpus Christi Carol
  17. Rollin' and Tumblin'
  18. Going Down
    --
  19. Danny Boy
  20. The Thrill Is Gone