塾長の鑑賞記録

塾長の鑑賞記録

Yes

2016/11/29

2年前に『Fragile』『Close to the Edge』再現ツアーとしてYesが来日したとき、このサイトではChris、Steve、Alanの3人はもちろん不動のラインナップだと言ったのですが、Chrisは2015年6月に亡くなり、Alanも腰の手術を受けて戦線離脱中。代役には長年Chrisに影武者のようについていたBilly Sherwoodと、Billyの旧友でAsiaにも関わりを持つJay Schellenを迎えて、今年もYesが来日しました。その牽引役はもちろん、Asiaでの仕事を辞めてYesに専念するようになったSteve Howeです。

Bunkamuraオーチャードホールのロビーのグッズ売り場では、既に売り切れの商品多数。この日が日本公演の最終日なのでやむを得ないでしょう。私は今さらTシャツでもないのでプログラムだけを購入しましたが、私の数人前でトートバッグが売り切れになったのを見たときは少し悔しい思いをしました。

長いYesの歴史を物語るCD売り場。そして今回の公演は『Drama』『Tales from Topographic Oceans』『Yessongs』からの選曲ということになっています。

ライブ盤である『Yessongs』の名をここで出すのは違和感なきにしもあらずですが、定刻通りに場内が暗くなってステージ上に置かれたRickenbackerベースにスポットライトが当たり、『Tormato』からの静謐な「Onward」(Chrisが書いた曲)が流れる中、背後のスクリーンにChrisのステージ写真が次々に投影されると、そうした些細なことは気にならなくなってきます。

そして、前回と同じく「The Young Person's Guide to the Orchestra」の最終部分が響き渡り、大歓声の中、メンバーが上手から登場してそれぞれの場所に立つと、Steveのヘヴィーなギターリフがフェードインしてきました。

Machine Messiah
最初の3曲は『Drama』から。素晴らしい音圧のベースとドラムが入ってロックならではのパワーとスピード感が客席の興奮を誘い、さすがに自分の曲だけあってGeoffのシンセサイザー演奏も完璧です。Steveのギターの音量がやや控えめ?なのはもったいない気がしますが、こうしてライブで聞くと、実はドラムのトリプレットビート(シャッフルではなく)がこの曲の中核であることがよくわかります。
White Car
オリジナルではあの高額システムFairlight CMIによるサンプリング音源とシーケンサー演奏を用いていたと思われるオーケストラパートは、今ではMacBookで簡単に再現できるのですから技術の進歩というのはすごいものです。ティンパニの音にはJayがマレットを用いたフロアタムを重ねていました。
Tempus Fugit
ベースによる有名な高速リフがぐいぐいと引っ張る曲ですが、テンポはオリジナルに比べてややゆっくり。Billyの使用ベースはSpectorですが、Rickenbackerの音をシミュレートしているようです。またBillyのマイクスタンドも立ち位置の右遠くに直立したシャフトの上から口元まで真横にアームを伸ばしたChrisスタイルで、こうしたところにもChrisを再現しようとする意図が感じられました(身体もでかいし)。途中Geoffがヴォコーダーで「Yes, Yes」と歌うところでは、スクリーンやドラム / キーボードが乗る台の前面に「YES YES」の文字が投影されます。
I've Seen All Good People
Jonの「コンバンワ、ゲンキデスカ」というMCに続いて『Yessongs』セクション。コーラスグループとしてのYesの性格を強く示す「Your Move」では、Steveのポルトガル12弦ギターに乗せてフロントの3人にGeoffも加わり四声のコーラスが聞かれました。そして荘厳なオルガンからロックンロールに移行する「All Good People」は、ファンキーなエナジーに満ちたハードシャッフル。Steveも好き放題にギターを弾いている感じです。
Perpetual Change
Steveによるメンバー紹介に続いての演奏。この曲を本家Yesのライブで聴くのは初めてですが、イントロのギターとピアノ主体のシンコペーションを交えた印象的なリフや、静寂部でのギターの柔らかいハーモニクスを用いたリフの美しさ、そして歌心に満ちたベースラインと見事な三声のコーラスには強い感銘を受けました。後半はSteveの代名詞とも言えるGibson ES-175のジャジーな音色によるフリーフォームなソロから、唐突にリズムのキメになって鮮やかに終了。
And You and I
あの透き通ったオルガンの音が流れると、アルバム『Close to the Edge』でSteveが呟いた「OK」をまねて客席から「OK!」の掛け声。LINE6のVariax700によるアコースティック12弦の音があのこの上もなく美しいイントロを紡ぎだしてうっとりとなりました。インテンポになってからはJonもアコースティックギターを奏で、背後のスクリーンにはRoger Deanによる『Close to the Edge』の内ジャケットの絵(滝が動いているアニメーション)が映し出されましたが、全体にテンポが遅過ぎです!特に、中間部の雄大なメロトロンサウンドをベースペダルがゆったりと支える場面は、いくら何でもBillyが引っ張り過ぎ。さすがにSteveのスティールギターが入って多少前進し始めましたが、この曲は遅いように見えて実は心の中にギターのコードカッティングを感じるくらいのタイトなリズムが本来の曲想に合っているはず。
Heart of the Sunrise
一転、こちらはスピーディーでダイナミックな素晴らしい演奏でした。イントロから全楽器ユニゾンの高速リフがぴしっと決まり、思わず身体を揺らしたくなるBillyのウォーキングベース、Rick Wakemanをほぼ完璧に再現したGeoffのカラフルなキーボードワーク、自在の境地に遊ぶSteveのギターがそれぞれに聴かせます。Jayのシュアなドラミングが曲の骨格を形づくり、最後にJonの最高音「Feel lost in the city」には力がこもりました。この鮮烈な演奏を聴けただけでも、この会場に足を運んだ甲斐があったというものです。

総立ちの観客に見送られてメンバーが上手に下がり、20分の休憩。ステージ背後のスクリーンには残り時間が投影されていましたが、残り3分になったところで「Please Return Your Seats」の表示に変わり、泡がぶくぶくと上がったと思うと『Tales fromTopographic Oceans』のジャケットに登場する魚たちが左から右へゆらゆらと通過していきました。

『Tales fromTopographic Oceans』は、LP2枚組でAからDまで各面に20分強の長尺の曲が1曲ずつという大作主義の金字塔のようなアルバムですが、本来はA面がバンド全体、B面がRick Wakemanのキーボード、C面がSteveのギター、そしてD面がChrisとAlan Whiteのリズム隊をフィーチュアした構成になる予定だったものの、Rickがこの作品の制作に消極的であったためにB面はChrisの珍しいフレットレスベースが聴きどころ程度の中途半端なものとなり、作品全体の評価も「冗長」とされるに至った不遇な作品でした。第二部は、この大作からの抜粋演奏となります。

The Revealing Science of God
アルバムA面。スペイシーな効果音がフェードアウトしたところでJonの透き通った声による夜明けの祈りが始まり、Jayの細かいスネアワークからGeoffの優美なシンセサイザーとSteveのナチュラルトーンによる穏やかなギターリフ、そして三声の美しいコーラス。素晴らしい……と思ったのですが、このあとGeoffの演奏にはところどころで引っかかるものを感じてしまいました。
原曲でのRick Wakemanによる、この曲を支配するゆったりとたゆたうストリングスの響き。この味はメロトロンならではで、Geoffもシンセサイザーでその再現を目指したようですが、この深みを出すには至っていませんでした。
そしてこちらはMinimoogならではのポルタメントとVCOデチューンを活かした刺激的なソロ。Rick Wakemanは手癖だけで弾いていると言われがちですが、このソロを聴けば実によく練られたラインになっていることがわかります。したがって、本曲の演奏にあたってはこのソロの部分も原曲通りに再現してほしいところなのですが、Geoffのソロは残念ながらスケール上で音数を詰め込むだけの単調なアドリブとなっており、がっかりしてしまいました。とはいえ、曲は雄大なメインテーマから再び祈りにも似たコーダに移り、最後のフレーズ「... and you」でJonとSteveがステージから前方遠くを指差して神々しく終了しました。
Leaves of Green
アルバムC面に収められた「The Ancient」のアコースティックパートの抜粋です。
哀愁を帯びたギター独奏に、やがてJonのヴォーカル、ついでBillyのコーラスが加わる構成。特にコーラス部のメロディはたとえようもなく美しく、静かに声を合わせました。SteveがJonの歌声に合わせて身体を揺らすさまは、実に好々爺という感じ。
Ritual
アルバムD面。上述の通りリズム隊が暴れる曲で、Chrisを彷彿とさせるBillyのディストーションベースソロはライトショー状態になりました。
暗い寺院の祭壇に炎が燃え上がり、狂信的な祈りが捧げられているかのような儀式の場面。スモークが垂直に上がり、赤く・青く、怪しく光ります。ここでJayがドラムセットを離れたと思ったら、背後からダンディーなハットをかぶったAlanが登場!これに気付いた聴衆から歓声が上がる中、手術上がりとは思えない激しいドラミングにJayとJonのパーカッションも加わって舞台上はカオスになりました。しかし、最後にSteveの赤いLesPaulによるサステインの効いたシングルトーンが事態を収拾し、Jonのアコースティックギターで曲は沈静化。しみじみとしたヴォーカルをピアノのオブリガートが彩るのですが、Geoffのピアノがなんだか調子を外している感じがして、これならオリジナルのAlanによるピアノの方がうまいぞ、と思ってしまいます。それでも最後は、哀感漂うコーダによって曲が締めくくられました。

再び場内総立ちになって、アンコールを求める歓呼の声。メンバーはすぐに戻ってきてくれました。

Roundabout
Yesのアンコールの定番曲で、もはや説明の必要はないでしょう。アンコールではドラムは最後までアランが勤めましたが、やはり病み上がりのせいかリズムにキレがなく、スネアの音にも力が入りません。走ったりモタったり小節数を間違えたりしながら、それでも一所懸命叩くAlan……なんていい人なんだ。その奮闘に応えたのか、Geoffのオルガンソロもなかなかの頑張りでした。
Starship Trooper
間髪入れずにSteveがアルペジオを入れて、最後は名曲「Starship Trooper」。この曲のヴォーカルラインの美しさはロックミュージックの中でも屈指のものだと思います。中間のアコースティックギターとコーラスのパートでは、日本人のリズム感に配慮したのか裏打ちではなく頭打ちでの手拍子を要求するJon。そしてコーダの「Würm」ではキーボードソロはなく、Billyのディストーションベースソロ、そしてSteveのギターソロへと続きます。必死にドラムを叩くAlanをアコースティックギターを持ったJonやタンバリンでリズムキープするJayがサポートする麗しい光景が続く中、Steveは唯我独尊の長大なソロを展開して見る者をはらはらさせましたが、最後はベテランコンビのSteveとAlanがさすがのアイコンタクトをしっかり合わせて大団円となりました。

今回のライブでは、やはりSteveがバンドを引っ張っていることがはっきりと見てとれました。「Tempus Fugit」での赤いStratocasterと「Ritual」での赤いLesPaulを除けば、GibsonのES-175(M1,4,5,7,11,12)かES-345(M6,8)という彼ならではのギターのチョイスは健在。Variax700によるアコギやシタール、そしてSteveのもう一つのトレードマークであるスティールギターも要所で聴くことができ、その存在感は「超絶にうまいお爺ちゃん」とあちこちで呟かれるほどに絶大です。MCもノリノリでしたし、ステージ上でメンバーが揃ってお辞儀をするときにもSteveが音頭をとり、その後も下手から上手へと足を運びながら客席を見やる姿には風格が漂いました。客席の歓声も7割が「スティ〜ヴ」、3割は「アラ〜ン」。

もちろん、その他のメンバーの活躍にも触れないわけにはいかないでしょう。少々線が細いもののJonのヴォーカルの安定感は言うまでにありませんし、Geoffも今回は随所に意欲的なフレーズを聴かせました。さらにJayのドラミングはリズムを引き締めてステージにメリハリを与えることに大きく貢献していましたが、やはりBillyがChrisの抜けた大きな穴をベース、コーラスの両面でほぼ完璧に埋めてみせたのが、このライブの成功に最も寄与しています。もともとJon Andersonが1989年にTrevor Rabin主導のYesを脱退してAWBHプロジェクトを結成したときにYesの後任ヴォーカリスト候補として接点をもったくらいのミュージシャンですし、マルチプレイヤーとして楽器の腕前も一流。

こうしてみると、Jon Andersonが抜け、Chrisが亡くなり、Alanもフル稼働できなくなり、それでもSteveの唯一無二のギターさえあれば他のメンバーがしっかりリカバーしてYesの音楽を再現しきれたわけですが、では、Steveが一線を退いたときはどうなるのでしょう?仮にSteveの穴を他のギタリストが埋める日が来たとしても、それは懐メロとしてYesミュージックを演奏するトリビュートバンドでしかなく、長年にわたって革新的な音楽を作り続けたYesというバンドの歴史は、そこで幕を閉じることになるのでしょう。

ミュージシャン

Steve Howe guitar, vocals
Alan White drums
Geoff Downes keyboards, vocals
Jon Davison vocals, percussion, guitar
Billy Sherwood bass, bass pedals, vocals, harmonica
Jay Schellen drums

セットリスト

  1. Machine Messiah
  2. White Car
  3. Tempus Fugit
  4. I've Seen All Good People
  5. Perpetual Change
  6. And You and I
  7. Heart of the Sunrise
    -
  8. The Revealing Science of God
  9. Leaves of Green
  10. Ritual
    -
  11. Roundabout
  12. Starship Trooper

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