Yes featuring Jon Anderson, Trevor Rabin, Rick Wakeman

2017/04/19

Jon Anderson、Trevor Rabin、Rick Wakemanの元Yesメン3人が「Anderson, Rabin and Wakeman」というまったく工夫のないネーミングのユニットで活動を開始するとアナウンスされたのは、2016年1月のこと。この通称ARWは同年10月から「An Evening of Yes Music and More」と題するツアーを開始し、12月までを北米、2017年3月にヨーロッパ、そしてこの4月に日本に来たのですが、この来日の直前にYesがJourneyらと共にRock and Roll Hall of Fameを受賞し、ARWの3人も現在のYesのメンバーであるSteve HoweやAlan Whiteと共に4月7日の記念ステージに立ちました。これはめでたいとは思うもののなぜこのタイミング?と不思議に思っていたら、今度はARWが「Yes featuring Jon Anderson, Trevor Rabin, Rick Wakeman」に名前を変えることが伝えられ、二度びっくり。この「featuring」方式は「Keith Emerson Band featuring Marc Bonilla」のようにゲストメンバーの名前を敬意をもって示したい場合に使われるのが普通ですが、今回のこれは「Asia featuring John Payne」のように「元祖」「本家」みたいな感じで、あまりいい感じはしませんでした。もっとも、ここまで来たら毒皿。二つのYesが合体して『Union II』といったアルバムをリリースしてくれないかな。デザインはもちろんRoger Dean、プロデューサーも『Union』(1991年)と同じくJonathan Elias。ただし、そうするとまたしてもSteveとRickのパートを差し替えられてしまうかもしれませんが。

Bunkamuraオーチャードホールのロビーは、意外にも幅広い年代のファンでごった返していました。グッズはさすがに差替えがきかずARWの名前のままのものが売られていましたが、とりあえずプログラムだけ買ったらさっさと場内に入りました。BGMはシタール、管楽器、それに呟き系のボーカルからなる怪しいインド風音楽です。

ステージ中央は扇風機を前に置いたJonの立ち位置。身長165cmと背が低い彼のために台が置かれています。下手にはTrevorの立ち位置と、その後ろにドラムセット。中央やや右奥はベースの立ち位置で、RickenbackerとMusic ManのStingRayがスタンドに乗っていました。そして見どころは上手のRickの10台のキーボードです。

こちらの映像で使用機材の内訳がわかりますが、KORGが2台、Rolandが3台、Minimoogが2台、Hammond、Digital Mellotron、そしてYAMAHA(今回の日本公演ではGEMに代わっていました)。どうしてこんなにたくさんのキーボードが必要なのか?という疑問は誰しも持つところですが、どうやらRickは曲の途中で音色を切り替えるのが苦手(?)である模様です。

さて、定刻を過ぎてしばらくたったところで場内が暗くなり歓声が湧きましたが、導入の音楽が流れてきません。なんだか居心地の悪い無音の時間が30秒余りも続いて不安になった頃にようやく「Perpetual Change」のテーマをクラシカルにアレンジした音楽が流れ始めてリズムセクションの2人がひょこひょこと登場。ついですっきりシャツ姿のTrevorと大仰なケープを羽織ったRickも左右から出てきてハグしてからそれぞれの立ち位置につき、重低音が導入音楽にかぶさる中にスネアロールが始まりました。

Cinema
90125Yesのテーマ曲のような位置づけのこの曲からスタート。その途中で両手を広げてJonも入場し、ひときわ大きな歓声が上がりました。短いこの曲が終わって最後の音が持続している間に、Jonが4カウントして次の曲へ。
Perpetual Change
昨年のYes公演でも演奏されたクラシカルYesの名曲の一つです。Jonの声を聞くのは2003年以来で14年ぶり(TrevorとRickに至っては1992年のUnionツアー以来ですから実に25年ぶり)ですが、その声はとてもよく出ていて、3日連続のステージの3日目とは思えないほど。演奏も、キーボードはデジタルに、ギターはソリッドに変わってはいるものの、原曲の雰囲気をしっかり再現していました。
Hold On
Rickによる短いゴージャスなイントロつきで90125Yesのロックナンバー。ところどころにRickがMinimoogで鋭く切れ込みながら曲が進んだ後に、Trevorの強烈なギターソロが展開しました。YouTubeで見る限りこのツアーの最初の頃のTrevorは明らかに腕が落ちていましたが、ツアーが進むにつれてかつての技術を取り戻したらしく、今ここで目の当たりにするTrevorのギターは全盛期を彷彿とさせるほどにエモーショナルでテクニカルなものでした。
I've Seen All Good People
「アナタハウツクシイ」→「Very good」→「Good people」とJonがイントロクイズをして、Trevorのアコースティックギターと見事な四声のコーラスとでこの定番曲。後半のハードシャッフル「All Good People」もお約束の客席手拍子コーナーで大盛り上がりとなりました。
Drum Solo / Lift Me Up
Jonが童謡第一弾「ぞうさん」で笑いをとったあと、彼の紹介を受けてLouis Molino IIIのドラムソロ。初めはスネアのスナッピーをオフにしてドコドコと、後半はノーマルな音でスティック捌きの速さを見せつけて、短いながらも確実な技術を見せるドラムソロからインテンポとなって「Union」収録のTrevorがリードボーカルをとる曲「Lift Me Up」へ。Trevorのボーカルはもともと声質はいいものの音程にかすかにフラット方向の揺らぎがあり、その傾向はこの日もそのまま再現されていて妙に懐かしいものを感じます。曲の終わりにはバスドラのリズムキープをバックにした四声アカペラも付されていて、美しく終了。
And You and I
「And You and I...And You and I...And You and I...」とJonが紹介して、名盤『Close to the Edge』からの名曲中の名曲ですが、イントロのアコースティック12弦ギターによるテーマは省略され、中間部のそれもパッド系の白玉の上でJonがチーンチーンとティンシャを鳴らしてヒーリング風。雄大なメロトロンをバックに演奏されるスティールギターは通常のエレクトリックギターで演奏されています。当然、曲の最後の天空に消えていくスティールギターもありません。この曲を強く特徴づける二つの要素に変更が加えられたこのアレンジには、オールドファンは不平の声を漏らすでしょう。それでもRickの美しいMinimoogソロが聴けたから、私としては満足です。なお、歌詞もメロディーラインもリードボーカルとは異なる特徴的なコーラスパートは、ベースのIain Hornalが1人で引き受けていました。当初予定されていたサウスポーのLee Pomeroyの代役として急遽参加した彼は、もともと「歌えるベーシスト」ではなく「ベースも弾けるヴォーカリスト」であるようです。
こちらは、Iainが歌う「Love Will Find Away」。さすがにJonのパートは苦しそうですが、Trevorパートは完璧です。
Rhythm of Love
Jonがアコースティックギターを肩にかけ、ステージが赤い光に包まれて、90125Yesのセカンド『Big Generator』の冒頭の曲。イントロのアカペラは録音されたものではなく、アレンジされたものながらステージ上でしっかり再現されていた上に、Jonが恐ろしくノリノリになって腰を振っていたのが印象的でした。真ん中でTrevor→Iain→Jonとボーカルを回した後のギターソロは、オクターヴを重ねてぐいぐいと刺激的。さらにピッチベンドを交えた長いMinimoogソロも加えられて、原曲以上にスピーディーかつアグレッシブな演奏でした。ところでJon、2番の入りのところで「Morning...」と違うところを歌いかけてあわあわと誤魔化しただろう?
Heart of the Sunrise
Jonの4カウントに全楽器がジャストのタイミングで入る超高速イントロから、Iainが前に出てきての長いベースウォーキング、そして再び超高速ユニゾンへ。こうしたテクニカルな要素をまったく不安なく聴けるのも見事ですが、Jonのボーカルが入ってくるとそれまでのすべてが塗りつぶされてAndersonワールドとなり、やはりこの曲は彼のボーカルがあってのものだということがよくわかります。一方でこの曲は、メロトロン、オルガン、ピアノ、MinimoogなどRickのマルチキーボードが存分に活躍するナンバーでもあり、実際この演奏の中でも多彩なキーボードを縦横に駆使したRickの姿は見どころの一つとなったのですが、原曲のキーを維持したまま、歌詞の最後であり最高音であるI feel lost in the cityを歌い上げたJonには完全に脱帽です。この曲が終わった瞬間、リスペクトの大歓声と拍手の音がホールの中を埋め尽くしました。
Changes
トリッキーな7/8+10/8拍子のイントロが特徴的な90125Yesのナンバー。このプログレパートを終えれば後はTrevorの叙情的なメインボーカルとJon・Iainのコーラスがじっくり聴かせる曲ですが、この曲ではとりわけ故Chris Squireのコーラスの不在がYesの楽曲にとっていかに大きな損失であるかがよくわかります。
The Meeting
Jonの童謡第二弾「どんぐりころころ」に客席からも頭打ちの手拍子と合唱が上がって場内がほんわかしたところで、2人だけで演奏された『Anderson Bruford Wakeman Howe』からのピアノ / ボーカル曲。JonとRickとの長い長い交流を反映したように息の合ったしみじみとしたデュエットでした。
Awaken
古代中国を舞台にしてハリウッドが映画を作ったら予告編はこうなるだろうなと思わせるドラマティックなイントロにJonが小型のケルティックハープを重ね、ついでRickの激しいピアノが空気を切り裂いて高音域から低音域へ高速で駆け下った後に、一転して神々しいJonのボーカルが聴衆を別世界へ誘います。11拍子のリズムパターンが特徴的なメインテーマにChrisのトリプルネックベースはありませんが、その視覚的な寂しさを補うかのように過剰装飾(!)されたJonのタンバリン。一転して後半の静謐なオルガンパートでは、延々と続くRickのチャーチオルガン〜サンプリングAh音の上にミニマルなJonのハープとLouisのクロテイル、Trevorのギターの低音が重なって意識がトリップしそうになりましたが、荘厳な終曲部のJonのボーカルがこちらの世界に引き戻してくれました。歌詞の最後のLike the time I ran away. Turned around and you were standing close to me.には、心底感動……。
Make It Easy / Owner of a Lonely Heart
ギターのアルペジオから始まる序曲(Cinema「Make It Easy」)つきの「Owner of a Lonely Heart」。Rickはサンプラーによるオーケストラヒットをちゃんとタイミングよく入れていて安堵していたら、曲の途中でスタッフがショルダーキーボードを演奏中のRickの肩にかけ、Minimoogでの短いソロの後にRickはステージ中央に進んでTrevorと向き合った後、左右に分かれて目配せをし合ってからそれぞれに客席の通路に降りてきました。大喜びの聴衆の間を、照明を掲げたスタッフに先導されて演奏しながらゆっくり練り歩いた2人はPA卓の辺りで何やら遊んでいたようですが、詳細は不明。やがて2人はステージに戻り、最後はRickがキーボードを裏側から弾いて終曲しました。
Roundabout
イントロのギターは妖しげにアタックを消した持続音系のエレクトリック。「And You and I」と同じく、曲の顔となるようなアコースティックギターのフレーズを変えるアレンジをあえて採用しているのはSteve Howeのコピーはしないという意図とも受け取れましたが、リズムが入ってくればほぼ「ラウンドアバウト音頭」といったノリで手拍子が叩かれる絶対的な定番曲。中間の二拍三連から静かなパートを省略してメインテーマからJonの4カウントでそのままオルガンソロになだれ込むスリムバージョンでした。最後はTrevorがキメのフレーズを外し、RickはLFOでMinimoogに悲鳴を上げさせ、半ばカオスのうちに大団円。

これ以上ないほどの歓呼の声の中、メンバー全員がステージ上に並んで挨拶をした後、引き上げてゆこうとするLouisのズボンをなぜかTrevorが引っ張り下ろそうとしていてLouisは身悶えするようにステージ上に倒れてしまいましたが、見たところその表情は嫌がっていない様子(この人たち大丈夫か?)。そんなメンバーたちを笑顔で眺めながら、Jonは悠然とステージを後にしました。

ARWの来日がアナウンスされたとき、オーチャードホールに行くべきかどうか少し迷ったのですが、それは既に相当な年齢に達しているJon Andersonのパフォーマンスに不安を覚えたからでした。素晴らしいキャリアを重ねてきた彼だけに、もしこのライブがその歌声の衰えを証明する場となってしまったらどうしよう……という私の懸念は、しかし完全に杞憂に終わったようです。アンファンテリブルならぬ、72歳テリブル。見事なコーラスも含めて職人技を発揮したリズムセクションのサポートを得てTrevorもRickも本来の腕前を見せつけて、Yesを名乗るにふさわしい(むしろ昨年のYesを超える)高い水準のライブを実現してくれた彼らに感謝あるのみです。

ミュージシャン

Jon Anderson vocals, guitar, harp, percussion
Trevor Rabin guitar, vocals
Rick Wakeman keyboards
Louis Molino III drums, vocals
Iain Hornal bass, vocals

セットリスト

  1. Cinema
  2. Perpetual Change
  3. Hold On
  4. I've Seen All Good People
  5. Drum Solo / Lift Me Up
  6. And You and I
  7. Rhythm of Love
  8. Heart of the Sunrise
  9. Changes
  10. The Meeting
  11. Awaken
  12. Make It Easy / Owner of a Lonely Heart
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  13. Roundabout

こちらは、来日に先立つ4月7日の「Rock and Roll Hall of Fame」の授賞式での記念ステージ。この授賞式でYesを紹介する役目を引き受けたのは、2013年に先に受賞しているRushのAlex LifesonとGeddy Leeでした。

このステージで彼らが演奏したのは「Roundabout」と「Owner of a Lonely Heart」の2曲で、「Roundabout」ではご覧の通りGeddy Leeが彼ならではのワンフィンガー奏法で弾ききり、また「Owner of a Lonely Heart」ではなんとSteve Howeがベースを弾きました。どちらも貴重と言えば貴重な光景になったわけですが、やはりChris Squire存命中にこの栄誉をYesに与えてほしかったとしみじみ思います。