Deep Purple
2018/10/14
幕張メッセ国際展示場 9・10・11ホールで、Deep Purpleのライブ。彼らのライブに参戦するのはこれが2度目ですが、前回はなんと今から18年前。しかし、名盤『Made in Japan』(日本では『ライブ・イン・ジャパン』)が収録された彼らの初来日はそこからさらに18年前の1972年ですから、今回のツアータイトルである「The Long Goodbye」が暗示するように、もしこれがバンドの最後の来日になるようであれば、私はDeep Purpleの来日史の真ん中と終わりとに立ち会ったことになるわけです。
しかもすごいのは、これはバンドデビュー50周年を祝う懐メロツアーではなく、昨年リリースされた彼らの20作目のスタジオアルバムである『Infinite』のプロモーションツアーであるというところ。このツアーは昨年5月から開始されており、途中に休みをはさみながらヨーロッパと南北アメリカを行き来した後、今年の10月に日本にやってきて11月のメキシコで終了するという恐ろしく長大なツアーとなっています。
現在のDeep Purpleのメンバーは、黄金期のメンバーであるIan Gillan(73)、Roger Glover(72)、Ian Paice(70)の3人に、1994年から加入しているSteve Morse(64)と2002年からのDon Airey(70)。Ritchie Blackmoreはここにはおらず、Jon Lordは鬼籍に入っていますが、このラインナップで既に16年が経過しており、その間に4作のスタジオ盤を発表していることを考えれば、紛れもなくこれがDeep Purpleだと言うことができます。
さて、日本での初日の会場となった幕張メッセ国際展示場9・10・11ホールは自分にとっては初めての場所ですが、構造的には音響に対する配慮がなされたものとは見えず、これで大丈夫かな?と少々不安にさせられました(ただし、その不安は杞憂であったことが後でわかります)。客層はやや年齢高めで、年季もののジャンパーを着て大昔のロッカー然とした年配の男性もいれば、上品なおばさま4人組もおり、親子連れ(「子供」の方が既に大人)の姿も見掛けたりします。
14時半開場、16時開演という異例に早い時刻のスタートとなったこのライブは、照明が落ちたところでSEとしてホルストの『惑星』から「火星」が流されるうちにメンバーが所定の位置につき、そしてオルガンのグリッサンドから「Highway Star」で幕を開けました。ステージ上で身体を動かしているメンバーを見ると、Ian GillanもRoger GloverもSteve MorseもDon Aireyも健康的にスリムな姿で、プロフェッショナルとして歳を重ねた彼らが十分な節制に基づく万全のコンディションでこの日を迎えていることがわかります。唯一、Ian Paiceだけは体型的に貫禄を感じる姿をしていますが、その体躯をキックに乗せている感じでバスドラの音圧が強烈。しかも手数の多さとタイトさは十分過ぎるくらいに健在です。
「Highway Star」「Pictures of Home」「Bloodsucker」「Strange Kind of Woman」と1970年代前半の楽曲を切れ目なく演奏した後に初めてMCが入り、続いてIan Gillan・Roger Glover・Steve Morseの3人でサビを一緒に歌う「Sometimes I Feel Like Screaming」と、輝かしいシンセブラスのリフが特徴的な「Uncommon Man」。前者はSteve Morse加入後最初に制作されたアルバムからの曲で、一方の後者はJon Lordの死去後にリリースされたもの。Jon Lordの遺影がスクリーンに映し出され、Jonの記憶に捧げる曲だとのアナウンスがなされました。
遊び心に満ちたオルガンのイントロからIan Gillanのハーモニカも活躍する「Lazy」に続いて、新譜『Infinite』からリズムのキメが強烈な「The Surprising」、堂々たる進行の「Birds of Prey」、不気味なモノローグをイントロに置く「Time for Bedlam」とそれぞれ個性的な3曲連続演奏。『Infinite』の楽曲の充実度を見せつけます。
重厚なチャーチオルガン、MiniMoog Voyagerの速弾き、そしてKurzweilのピアノ音による「SAKURA」(いきものがかり)と「上を向いて歩こう」を織り込んだキーボードソロでDon Aireyが客席を湧かせてから、ヘヴィーなリフとエスニック音階にRitchie Blackmoreの個性が詰め込まれた再結成Deep Purpleの「Perfect Strangers」を経て、「Space Truckin'」「Smoke on the Water」といずれも日本人には馴染みの深い2曲で本編が終了しました。
バンドはステージから降りることなく、すぐに定位置に戻ってアンコール曲の演奏にかかりました(このため、Twitter上では「アンコールがなかった」という誤った情報が流れることに)。ピアノの演奏からドラムとギターが入って、この下降フレーズはJeff Beck Groupも取り上げたブルース・スタンダードの「Going Down」では?と思っていたらそのまま「Hush」へ。50年前のデビューアルバムからシングルカットされた、言わば彼らのデビュー曲です。オルガンとギターとの即興でのインタープレイを楽しんでいたら引き続き「Black Night」のリフが登場して会場は大湧き。ひとしきりの演奏の後にはIan Paiceが叩き出すシャッフルビートに乗ってSteve Morseが中央に出て聴衆と掛け合いを演じ、客席は大喜びです。36年前の初来日時にアンコールとして演奏されたこの曲を、生で聴くことができる日があろうとは夢にも思っていませんでした。
以上で終演となり、Ian Gillanが客席に向かって感謝の言葉を述べ、Ian PaiceのスティックとSteve・Rogerの2人のピックがこれでもかというくらいにばら撒かれて、メンバーはステージの背後に消えていきました。
正直に言えば、ここまで質の高いショウを披露してくれるとは期待していなかったので、この日のライブの出来具合はうれしい驚きでした。選曲は名盤『Machine Head』と新譜『Infinite』を中心に据えつつ彼らのキャリアのほぼ全期間(David Coverdale期を除く)をバランスよくカバーし、音響も照明も文句なし(ただし映像関係で若干のトラブルあり)。ステージ上は終始和気藹々で、ソロを決めたSteve MorseにIan Gillanがグータッチをすれば、その後ろでDon Aireyがにこにこと笑っており、その様子が背後の大スクリーンに映し出されて客席も笑顔に包まれるといった感じです。さすがにIan Gillanのボーカルは往年のシャウトの力を失っており、新譜の楽曲では味わい深さで聴かせるタイプに変わっていて、過去の曲をそのときのスタイルで再現できていない点については「まあ、仕方ないよね」と鷹揚に構えるしかなかったのですが、その分、Steve MorseとDon Aireyという職人2人が自分の楽器を存分に唄わせていて、リカバリーに不足はありません。またRoger Gloverのベースも安心の演奏でボトムを支えていましたが、何より感銘を受けたのはIan Paiceのドラミングです。結成以来ただ1人、50年間にわたってDeep Purpleの楽曲にビートを供給し続けてきた彼の、強靭なキックから生み出されるバスドラの力強さがロックならではの迫力をもたらし、そこに手数の多いスネアとタムの高速コンビネーションが加わって、新旧の楽曲をぐいぐいドライブしていました。
このように、演奏力の高さは絶対的な正義であるという当たり前の事実を見せつけられた聴衆が終演後に送った拍手と歓声は、「レジェンドに対するリスペクト」ではなく「現役の演奏家に対する賞賛」。久々にロックの醍醐味を味わった、満足度の高いライブになりました。
さて、このツアーで彼らは本当に活動に終止符を打つのでしょうか?その問に対しては、ウドーのインタビューによる以下のIan Gillanの説明が答を提供してくれそうです。
要するに、いつかは必ず終わりが来るが、それがいつになるかはまだわからない、ということなのだと思います。
ミュージシャン
Ian Gillan | : | vocals |
Roger Glover | : | bass |
Ian Paice | : | drums |
Steve Morse | : | guitar |
Don Airey | : | keyboards |
セットリスト
- Highway Star(『Machine Head』1972年)
- Pictures of Home(『Machine Head』)
- Bloodsucker(『Deep Purple In Rock』1970年)
- Strange Kind of Woman(『Fireball』1971年)
- Sometimes I Feel Like Screaming(『Purpendicular』1996年)
- Uncommon Man(『Now What?!』2013年)
- Lazy(『Machine Head』)
- The Surprising(『Infinite』2017年)
- Birds of Prey(『Infinite』)
- Time for Bedlam(『Infinite』)
- Keyboard Solo
- Perfect Strangers(『Perfect Strangers』1984年)
- Space Truckin'(『Machine Head』)
- Smoke on the Water(『Machine Head』)
-- - Hush(『Shades of Deep Purple』1968年)
- Black Night(シングル曲 1970年)