塾長の鑑賞記録

アラジン(劇団四季)

2021/10/13

電通四季劇場[海]で劇団四季「アラジン」。四季のミュージカルと言えば直近では「ジーザス・クライスト=スーパースター」を観たのが2018年ですが、ファミリー向け(?)となると2008年の「キャッツ」以来ということになります。いや、傾向としてはそのまた5年前に観た「ライオンキング」に近いかな?とにかく、この手のミュージカルを観るのは久しぶりだということです。

舞台版「アラジン」のベースになっているのはディズニーによる1992年製作のアニメーション映画で、劇中のナンバーは「リトル・マーメイド」「美女と野獣」と同じく作曲Alan Menken、作詞Howard Ashmanのコンビによるものですが、Howard Ashmanが「アラジン」の完成を見ることなくHIVで亡くなったためTim Riceがその仕事を引き継ぎ、さらに舞台化に当たって台本を書いたChad Beguelinが作詞したナンバーも追加されています。自分はアニメーション版は見ていませんが、この舞台を観るための予習として2019年の実写版映画を見てからこの日を迎えました。

ストーリーはところどころ映画版と異なる点がありますが、大筋はもちろん共通で、アラビアのアグラバーの町に住む貧しい若者アラジンがとある理由からランプの魔神ジーニーを助力を得られることになり、王宮で不本意な婿選びを強いられる運命から逃れたい王女ジャスミン、王位を狙う悪徳宰相ジャファーなどとの紆余曲折を経て、最後にジャスミンと結ばれジーニーを解放するというお話。全体を通して真実と友情の尊さが描かれ、最終的にアラジン(貧困の中での盗人暮らし)、ジャスミン(王家の女性としての義務)、ジーニー(ランプの魔神としての拘束)のそれぞれが自由と幸福を獲得します。

劇中で歌われるナンバーはどれも印象的ですが、特に次の歌はとりわけ楽しみ、あるいは魅了されました。

  • イントロダクションとしてジーニーがアグラバーの町を紹介しつつストーリーの梗概を歌う「アラビアン ナイト("Arabian Nights")」。中東風な旋律が一気に異世界へと連れていってくれます。
  • ジャスミンが王宮を飛び出して自由になりたいと熱唱する「壁の向こうへ(These Palace Wall")」。この日最も聞き惚れた歌でした。
  • 驚くアラジンを前にノリノリキャラ全開でジーニーが自己紹介する軽快な「理想の相棒-フレンド ライク ミー("Friend Like Me")」。中学生の頃にはまったハリウッドのミュージカル映画へのオマージュ(タップやらステッキダンスやらマジックやら)が感じられて楽しい。
  • 魔法の力でアバブワの王子アリに変身したアラジンが美々しい装いでアグラバーに入城する「プリンス アリー("Prince Ali")」。この場面、前に観たときはもっと賑やか感があったと相方が言っていましたが、開演前にアナウンスされていたようにコロナの影響で演出を変更した影響かも?
  • アラジンとジャスミンが魔法の絨毯に乗って月夜を飛び回る際に歌われる美しいデュエット「新しい世界-ア ホール ニュー ワールド("A Whole New World")」。満天の星々の中央に輝く月がいつの間にか地球に変わる不思議あり。ただ、歌としてはもっと盛り上がるのかと思っていたらそうでもなかったのも不思議。
  • 囚われの身となったアラジンを救おうと武器をとって王宮に乗り込む3人の友人たちの活躍を描く勇壮な「危険な冒険("High Adventure")」。コミカルに振り付けられた殺陣を交えての大立回りの末に、3人それぞれポカリとやられて捕まるというオチが楽しい。
  • そして、牢獄からの脱出を前にジーニーとアラジンが友情を確かめ合う「一人じゃないさ("Somebody's Got Your Back")」。もっとも、この後にもアラジンの心は揺れ動き続けます。

このミュージカルはなんと言ってもジーニー次第で、映画で予習していなかったらそのハイテンションキャラに仰天したかも知れませんが、そのキャラクター設定が1930〜40年代に活躍したハーレムのジャズマンにしてショウマンであるCab CallowayFats Wallerに由来することを知れば納得です。

この日ジーニーを演じた瀧山久志(敬称略)はもともとオペラ歌手(バリトン)としても活動していたそうで、朗々とよく通る低音からおちゃらけてひっくり返った高音まで大胆に声域を変えながらぐいぐい客席を引っ張っていましたが、ちょっと客席のリアクションがおとなしめだったのはもしかすると、冒頭にランプを取り出すところで雷門の提灯を出してスベった(残念!)ことが原因だったかも知れません。さらに洞窟の中でのジーニーとの初対面で驚いているアラジンが「君はランプの中から出てきたっていうの?」と問い掛けたときに「山口から出てきたほっちゃ」とパーソナルギャグ(瀧山久志は萩市に属する見島の出身)とかましたときはディズニーはこうしたローカライズに寛容なのだなといたく感心したのですが、実は、映画を見たときに感じた「アラジンの改心の動機がよくわからない」という弱点がこの舞台では亡き母への思いや3人との友情の強調によって解消されていた点も日本語版台本ならではのアレンジであるということをプログラムの記述によって知りました。

ともあれ、主要キャストの確かな演技と歌唱にアンサンブルのエネルギッシュなダンス、加えてエキゾチックで華麗な衣装や淀みなく場面を回し続ける舞台装置の妙も見られて理屈抜きで楽しめたミュージカルで、これだけキャラクターが立っていればキャストが違うごとに新鮮な舞台になるだろうなと思いながら劇場を後にしたのでした。

キャスト

ジーニー 瀧山久志
アラジン 厂原時也
ジャスミン 木村奏絵
ジャファー 深水彰彦
イアーゴ 嶋野達也
カシーム 川村英
オマール 町田兼一
バブカック 正木棟馬
王(サルタン) 吉谷昭雄