塾長の鑑賞記録

シンデレラ(Kバレエ カンパニー)

2021/10/07

Bunkamura オーチャードホールで、Kバレエ カンパニーの「シンデレラ」。この日の主役は、シンデレラがヒューストン・バレエ団のプリンシパルから今年Kバレエ カンパニーに転じた飯島望未、王子が昨年Kバレエのプリンシパルに昇格した山本雅也。私の座席は2階席の最前列で、上から見ると1階席はほぼ満員。またオーケストラピットの中では管楽器奏者同士が透明の衝立で区切られていました。

これまで「シンデレラ」は観たことがありませんでしたが、昨年12月にプロコフィエフのバレエ音楽「シンデレラ」を井上道義が指揮するN響の演奏で聴いて、バレエ作品としてとしての「シンデレラ」に興味を持ったのが、この公演を観ることにした動機です。

上記の通り「シンデレラ」は今回が初鑑賞でしたので、以下に自分の備忘として少し細かく舞台上の進行を追ってみます。控えめにメモをとりながらの鑑賞だったため誤りや大事なポイントの書き漏らしがあるものと思いますが、いずれまたこの作品を観る機会に恵まれたらそのときに補正するつもりです。

第1幕(シンデレラの家)
しっとりした序曲から幕が上がると、そこには大きなアーチの曲線を活かした不思議な屋内のセット。下手の暖炉で揺らいでいるのは本物の炎。部屋の奥には枠付きのガラス(または紗幕)で閉ざされたかぼちゃの形の出入り口。まずはシンデレラをいじめる2人の義姉が登場し、そこに継母(男性ゲストダンサー)も加わってシンデレラの逆境が描かれますが、義姉2人のいじわるダンスの息が見事にぴったりで感心してしまいます。とは言えシンデレラが大事にしているカバンから取り出した亡き母の肖像画を戻ってきた継母に燃やされ、形見のドレスも義姉たちによってぼろぼろにされるなど虐げられている姿を見ると可哀想すぎて、そう言えば「父」はどこへ行ったのか?と思わないわけにはいきません(継母ではなく父が登場する版もあるそう)。
シンデレラが1人になったところで奥の扉からよぼよぼと入ってきた老婆をシンデレラが暖炉の前に案内して飲み物を与えると、老婆はシンデレラに祝福を与えるような様子。老婆が去ったあとには仕立屋や靴屋、宝石商などといった人々がどやどやと入ってきて、継母・義姉が宮廷の舞踏会に赴く支度のマイムを始めますが、ここでポイントになったのはバレエ教師のダンスレッスンです。上述のN響の公演でも演奏された「踊りのレッスン」のぎこちない曲に乗ってコミカルなダンスが踊られましたが、このとき舞台上の暖炉の前にヴァイオリニスト2人が舞台衣装を着て立ち生演奏をしているのが面白いところです。
一同が去って曲調が変わり、ひとり残されたシンデレラの夢見るソロ。自分も舞踏会に参加しているつもりで踊るそのダンスは、表情にも身振りにも乙女な雰囲気を残しつつ素晴らしく伸びやか、それでいてポーズがびしびし決まり、観ていて心が浮き立ってきます。そこへ出入り口の向こうに現れた老婆が光を浴びて立ち上がると仙女の姿に変わるマジックがあって、青みを帯びた蛍光色に輝く衣装が神秘的。そしてここから通常は四季の妖精の登場になりますが、この演出ではシンデレラが大切にする日用品や自然の中から、バラを庭に投げて登場するバラの精、長い羽を背につけたトンボの精、金色に輝くキャンドルの精、そして青と白のティーカップの精。それぞれの曲調を踏まえてあるいは元気よく、あるいは優雅に、そして最後にシンデレラも加えて5人で踊ると、セット後方から滝のようにスモークが降りてきてシンデレラはその中に消え、四頭の雄鹿(かぶりものがリアル)や御者の一角獣が姿を現し、そしてスモークの中からドレス姿に変身したシンデレラが登場します。家のセットが引き上げられると舞台奥にはゴージャスな馬車が出現し、12人の星たちと4人の精の踊りを経て鹿たちが馬車を引いて舞台上を回り、やがて止まったところは宮殿の門の前。星空を背景に城のシルエットが浮かび、馬車を降りたシンデレラはその城に向かって歩んでゆくところで第1幕が終わります。
第2幕(宮殿の舞踏会)
幕が上がるといきなり明るい宮殿の大広間。蔓草のような曲線デザインと立体的なフロアの構成が面白く、そこに儀仗を持つ式典長と赤青の道化師、八組のシックな色調の衣装を来た男女が次々に登場しましたが、招待状片手にやってきた継母と義姉2人はテンション高めでほとんど三馬鹿トリオ状態です。客席から見て縦一列に重なって歩く大小2人のコミカルな騎士コンビは小さい騎士の方がなぜか見事なブリッジを見せれば、長姉は赤い道化師と踊ってドタバタの中にフィッシュをばっちり決め(客席に拍手を催促!)、次姉の方も青い道化師との踊りできれいなステップを踏んで見せるなど、コメディタッチながらそれぞれに見せ場を作りました。
舞台上が暗くなり、ティンパニと共に4人の妖精が登場。彼女たちの姿はすぐに消えて明るくなり群舞、そして王子登場!と思いきや酔っ払った継母で一同がっくり。気を取り直して待つところへいよいよ王子が登場し、まさに颯爽という様子で跳躍や回転を見せました。元気一杯、しかしそこは王子なのでノーブル。続く王子の友人たちのパ・ド・カトルはちょっとバラバラの感があったものの、道化師を前に男たちの群舞や王子と4人の友人たちのパ・ド・サンク、そして王子が4人の妖精たちを次々にリフト、といった具合に力強いダンスが続きますが、母子3人に迫られた王子がぎょっとしてさりげなく逃げる場面も。
そうした後に曲調が落ち着き照明が落ちて階段の上が明るくなるとシンデレラが登場し、星たちが階段に作る通路の中を静々と降りて広間へ。ここから「グラン・ワルツ」に乗って踊られるシンデレラと王子との最初のダンスは緩急をつけ、宮廷の他の面々とも絡み合いながらの控えめなものですが、プロコフィエフらしい独特な音階の旋律を奏でる弦の響きのダイナミクスの変化が魅力的です。そんな美しい場面にも関わらず三◯◯トリオが割って入り、娘2人は王子の左膝と右腕にすがり背後から母も顔を出して少々不気味な構図。ノーブルな王子がこの3人に困惑させられる様子が笑いを誘いますが、第1幕でさんざんシンデレラをいじめた3人なのにどこか憎めないキャラクター設定になっているのもいいところです。
エジプト歩きのオレンジガール2人とオレンジマンが巨大なオレンジを運び入れてドタバタと下がってゆくと、一転してシンデレラの喜びに満ちたヴァリエーション。美しい回転を見せてこのダンスが終わると、続いて王子も力強い跳躍や回転を織り込んだヴァリエーション。そして人々にオレンジが振る舞われ、母娘3人の踊りが挿入された後で、シンデレラと王子の2度目の、そして2人きりのパ・ド・ドゥになりました。チェロの旋律に乗ったシンデレラは王子によるリフトやサポートを受けて徐々に高揚し、一体になっていきます。
距離を近づけた2人はダンスを終えて背後のテラスから星空を見上げて幸せ一杯ですが、12時の時限を暗示する12人の星たちが不安をかき立てる短調のワルツを踊る中で時間のことを思い出したシンデレラが両手で頭を抱えたそのとき不協和音が鳴り響いて舞台上は赤暗くなり、曲は「真夜中」。写実的に時報を鳴らす打楽器群の轟音の中、頭上から「XII」の文字を刻んだ巨大な時計の文字盤が降りてきて、気がつけば道化師たちも長針と短針を持っています。人々の群れの中に取り込まれたシンデレラは12回のカウントに合わせて持ち上げられるたびに眩い光の中に浮かび上がりましたが、最後に全身を表したシンデレラが元の貧しい姿に戻っているというマジカルな演出があり、ガラスの靴の片方を残してシンデレラは宮殿を逃げ去ります。
第3幕(舞踏会の後)
休憩なく間奏が演奏される中、幕の一部が紗幕になって、その向こうで靴職人を集めたり女たちが足を差し出したりのマイム、さらに継母の悪巧みの様子も描かれます。やがて幕が上がって第1幕と同じシンデレラが住む家。目覚めたシンデレラは鏡をみても元の姿だし、バラもキャンドルも妖精の姿をしていません。それでも舞踏会の様子を思い出しながらひとり軽やかにダンスを踊っているうちに思いついてカバンを開けると、そこにはガラスの靴の片方。夢ではなかった、と靴を抱き締めるシンデレラが可憐。
もはやお笑い担当の義姉たちが寝巻姿で登場してシンデレラに対しオレンジ自慢を繰り広げていると、継母が現れて娘たちに何やら指示。そこへ第3幕冒頭のマイムで継母に騙されたらしい式典長がガラスの靴を捧げ持って廷臣たちと共に登場し、マント姿の王子を迎え入れます。それなりの装いに改めた義姉たちは勇んでガラスの靴をとりあげたものの2人とも履けるはずがなく、王子が式典長にどういうことだ?と問い詰める様子を見せる間に継母は背後からガラスの靴を履いて戻ってきましたが、これが偽物の靴だということがたちどころにバレて継母は怒った式典長の命により左右から槍を突きつけられてしまいます。これを止めようと飛び出したシンデレラのポケットからガラスの靴が飛び出し、ここで舞台上が静止する中、王子は靴を拾い上げるとシンデレラに履かせました。その様子を驚いて見守る母娘の前で、両足にガラスの靴を履いたシンデレラはポワントで立ち上がると王子と手を取り合い、道化師たちが金粉を2人の頭上に降らして祝福します。
継母・義娘たちと和解(屈託がないシンデレラに対し、継母の方も一瞬の表情の変化でわだかまりを捨てシンデレラを抱き締めるというよい演技が見られました)したシンデレラは、王子と抱擁を交わして2人きりでの最後のパ・ド・ドゥ。リフトやダイブを交えた親密なダンスが踊られてから仙女が出てきて2人が背後へ消えると、そこはシンデレラの住む家ではなくなり、スモークが舞台を覆う中で仙女のソロに星たちもコール・ドとして加わった後に静かに曲が終わると舞台上が光の粒に覆われ宮廷の柱が降りてきて、(魔法の力によってではなく)廷臣たちが引く白銀の馬車の上に白く正装したシンデレラと王子が現れます。背後には星空の下に城のシルエットが出現し、きらきらと銀粉が舞い星が流れ、夢見心地の「アモローソ」を聴きながら2人は馬車を降り、手を取り合い城を目指して歩み去ってゆくエンディングを迎えました。

Kバレエは久しぶりでしたが、相変わらずのゴージャスなプロダクションがまずもって圧巻。これくらいやってくれれば違和感なくお伽話の世界に没入できるというものです。そして、その夢のような世界の中でシンデレラを踊った飯島望未さんがとにかく素敵でした。素朴な娘と貴婦人との間を行き来しながら王子との距離感を少しずつ縮めてゆく心の動きをその表情とダンスで表現力豊かに描写し、あの細い肢体をフルに活かして特徴的な音階上を連綿と流れる旋律を持つプロコフィエフの音楽とシンクロしていました。シアターオーケストラトーキョーの演奏も、ときに写実的に、あるいはコミカルに、そして短調の響きを流麗に聴かせて、バレエは見る音楽だということを実感させてくれました。したがって音楽の方をもっと予習して臨めばさらに楽しく観ることができたはずですが、それはまた次の機会に。熊川哲也のストーリーがダイレクトに伝わる振付・演出も興味深く、解説によれば随所に熊川版ならではの工夫があるようですが、こちらも今後の振返り課題になりそうです。

カーテンコールではとりわけヒロインの笑顔が輝いていましたが、母娘トリオも最後まで小芝居を忘れてはいません。そして何度目かの、そして最後のカーテンコールのときに飯島望未さんが下手へ歩み寄ったので指揮者を招き入れるのかと思ったら、まさかの熊川哲也氏。わずか数秒で熊川氏は袖に引っ込んでしまいましたが、ブラボーも控えていた観客もこれには驚き喜び「おおー!」という黄色い歓声とひときわ大きな拍手が上がり、熊川氏のカリスマは今でも健在だということにちょっと感動しました。

キャスト

シンデレラ 飯島望未
王子 山本雅也
仙女 浅野真由香
シンデレラの義姉 戸田梨紗子 / 辻梨花
継母 ルーク・ヘイドン
第1幕 バレエ教師 杉野慧
美容師 本田祥平
靴職人 五十嵐脩
仕立屋 三浦響基
宝石商 武井隼人
2人のヴァイオリニスト 小山啓久 / 松村一郎シアターオーケストラトーキョー
4人の妖精 バラ 塚田真夕
トンボ 岩井優花
キャンドル 高橋怜衣
ティーカップ 成田紗弥
四頭の雄鹿 グレゴワール・ランシエ / 奥田祥智 / 金瑛揮 / 田中大智
第2・3幕 4人の王子の友人
2人の道化師 吉田周平 / 栗原柊
大きい騎士 中井皓己
小さい騎士 関野海斗
式典長 ニコライ・ヴィユウジャーニン
2人のオレンジガール 萱野望美 / 辻久美子
オレンジマン 石橋奨也
指揮 井田勝大
演奏 シアターオーケストラトーキョー

物語

第1幕(シンデレラの家)
幼くして実の母を亡くし、意地悪な義母と義姉たちに疎んじられる日々を送りながらも優しい心を失わないシンデレラは、ある日、訪ねてきた物乞いの老婆にこっそり水とパンを差し出す。一方、義母と義姉たちは身なりを整え、ダンスのレッスンもした上で宮殿の舞踏会へ出かけてゆく。ひとり残されたシンデレラが空想の世界で踊っていると先ほどの老婆が現れて仙女に姿を変え、シンデレラをお姫様のような姿に変えてかぼちゃの馬車に乗せ宮殿へと送りだす。
第2幕(宮殿の舞踏会)
舞踏会が始まった宮殿に星たちにエスコートされたシンデレラが現れると、王子はその美しさに心を奪われ、踊り始めた2人は互いに惹かれ合う。しかし12時を告げる鐘が鳴り始め、慌てて宮殿を飛び出したシンデレラはガラスの靴の片方を落としてしまう。王子は残されたガラスの靴を手にし、その持ち主を探し出すことを決意する。
第3幕(舞踏会の後)
居間で目を覚ましたシンデレラは舞踏会での夢のような時間を思い出す。ドレスも妖精も消えてしまったが、残されたガラスの靴の片方があれは夢ではなかったことを告げている。そこへ娘たちのどちらかを王子に嫁がせようとする継母の企みに騙された式典長が王子一行を家に連れてくるが、2人の足には靴は入らず、偽の靴を履いてみせた継母もすぐに嘘がばれて死刑になりかける。シンデレラが義母をかばおうと駆け寄ったときシンデレラのポケットからガラスの靴が転がり落ち、王子はシンデレラこそ舞踏会で出会った美しい娘であることを悟る。シンデレラの願いにより継母たちは罪を許され、王子とシンデレラは晴れて結ばれる。