Tony Levin
2001/04/22
お台場のTribute to the Love Generationで、多くのミュージシャンの尊敬を集めるベーシスト / スティック奏者Tony Levinのライブ。
1980年代以降のKing Crimsonのメンバーとして、またPeter Gabrielの作品における数々のベースプレイで、この世界では知らぬ者のないTony Levinは1946年ボストン生まれ。地元の交響楽団に所属した後ジャズの道に入り、エレクトリック・ベースをメインの楽器とするようになってからはツアー及びセッションミュージシャンとしてポップ / ロック・フィールドでも活躍。King Crimson加入後はスティック(Chapman Stick)奏者としても著名となり、最近ではBill BrufordはもとよりMike PortnoyやTerry Bozzioといった多様な(しかしいずれも腕利きの)ドラマーとのコラボレーション作品を発表し続けている引っ張りだこの低音楽器プレイヤーです。今回のライブは昨年発表された彼のソロ作品『Waters of Eden』を中心に据えたツアーの一部であり、同行したのはPeter Gabrielのバンドでの盟友Jerry MarottaとLarry Fast、それにTodd RundgrenのバンドのギタリストJesse Gressの3人という豪華メンバー。特にJerry Marottaは一時King Crimsonへの加入も噂されたドラマーであり、どんなドラムを叩くのか興味津々でした。
「ゆりかもめ」のお台場海浜公園駅から数分歩いたところにあるTribute to the Love Generationは、いわゆるライブスポット的なチープな作りではなく本格的なクラブ形式の会場で、整理番号順に入場すると係が席まで案内してくれて丸テーブルに相席で座らされ、飲み物やら食事やらもきちんと注文をとってサーヴしてくれます。あらかじめ会場の座席表をWebで見ていておおよその予想はついていたのでさほど驚かなかったのですが、辺りを見回すといかにもライブを見にきましたという場違いな(たぶん本人も後悔しているであろう)雰囲気の客もいたりしてちょっと不思議。しかし、いずれにせよここは1人で来るところではない感じ……。ステージは客席からほんのわずかの高さにあり、最前列の客からは手を伸ばせばミュージシャンに届きそうな親密感があります。楽器は奥にドラム、向かって右がKurzweilのシンセサイザー、中央がTonyのスペースでエレクトリックアップライトが鎮座しており、スタンドには5弦ベースが2本(フレッテッド / フレットレス)、そしてスティックが立て掛けられていて、向かって左にはギターです。
定刻になり、まずLarry Fastが出てきてシンセの最低音の鍵盤を押さえるとドラムパターンのループが大音量で流れ出しました。そのまま鍵盤を何かの小片でホールドしたなと思っていると、会場の後ろの方から残る3人がそれぞれ異なるパーカッションを持って入場。客席の間を抜けながらステージに近づいて来ました。3人は丹念に客の間を練り歩き、とうとう私の目の前=距離20cmのところを通過してステージに上がると、それぞれ自分の楽器に向かって新譜の「Pillar of Fire」の演奏が始まりました。曲はその後タイトルナンバーの「Waters of Eden」、Tonyが「トカゲアルキ」という意味であると解説したノリのいい「Gecko Walk」と続き、ここでメンバー紹介。TonyによってLarry Fast、Jesse Gressが紹介され、次に後ろを振り向いて「on drums ... on drums !?」。なぜかJerry Marottaは前に出てきてサックスを手にしていて、ここで演奏されたのは静かなハイハットのシークエンスの上でサックスのフレーズが印象的な「Icarus」でした。ちなみにこの曲でJesseが盛んに客席頭上に設けられたPA卓に対して「ハイハットのレベルを上げてくれ」というジェスチュアをしていたのになかなか通じず、最後は「頼むから上げてくれよ」と拝む仕種を見せて客席の笑いを誘っていました。
以下『Waters of Eden』のインスト曲を中心にしながらも、Tonyがイタリア語で歌うスティックのための曲(「今日はチューニングする時間がとれなくて」と話していました)、JerryがメインボーカルをとるKing Crimsonの「Sleepless」(もともとスラッピングで演奏されたこの曲を、ここではファンク・フィンガーを装着してばしばしベースを鳴らしていました)、Jesseが大活躍するJimi Hendrixの曲(King Crimsonの「Red」がまじっていて、終わったときにJesseいわく「Jimi Crimson!!」)などが披露されてぐいぐい引き込まれました。うれしい驚きはGenesisの「Back in New York City」。Peter GabrielがGenesis在籍時の最後のアルバム『Lamb Lies Down on Broadway』(邦題『眩惑のブロードウェイ』)の中でスローテンポながらハードに摩訶不思議なスケールのアルペジオ(Tony Banksのパートをここではスティックで)が展開する曲で、ここでのJerryのドラムを叩きながらのボーカルは絶品でした。そしてスティックが出てくるのであればはずせない曲がKing Crimsonの「Elephant Talk」。ジャムっぽいイントロに続いてあの高音トリルが始まると客席は大喝采で、そこから特徴的なスティックのリフに導かれて曲に入り、ボーカルはTonyがとっていました。ちなみに曲中の象の鳴き声のシミュレーションはシンセが担当しましたが、Jesseのギターソロは本家Adrian Belewを彷佛とさせるものでその最後ではきちんと象の雄叫びに突入していました。さらに新譜からの「Utopia」「Bone & Flesh」が演奏されて本編終了です。
アンコールはまずTonyとLarryの2人で静かに「Belle」を演奏。そして次がまたも意外な名曲、Led Zeppelinの「Black Dog」。ボーカルのパートをファズを利かせたベースで見事に再現していましたが、それにしてもこの曲でのベース&ギターとドラムとで感じるタイムが全く異なる摩訶不思議さを、Jerryのドラムに合わせて身体を動かしてみて改めて実感しました。そして最後はPeter Gabrielの陽気な「I Go Swimming」をJesseも入れた3人で歌って終わり、再度冒頭のドラムループが鳴り響く中、Larry以外のメンバーは太鼓を叩きながら会場を通り抜けて(至近距離を通るTonyと目が合いました)引き上げていきました。
Tony Levinの演奏は、ベースやスティックに上手に歌わせるツボを心得たもの。またLarry Fastは落ち着いたゆるぎない演奏で、一方Jesse Gressはエモーショナルなプレイがバンドに緊張と躍動感を与えていましたが、何といってもユニークなキャラクターはJerry Marottaです。上述のようにサックスやボーカルもとり、そのいずれも片手間ではないレベルでしたが、同時に二度のMCがなんとも言えない味があって笑えます。ずんぐりした体型でぶっきらぼうな口調で「夕べ(東京初日)ここにいたやつはいるか?」(手をあげた客が少なかったのでTonyが「じゃあ夕べのジョークはまた使えるよ」)、「CDを買ったやつは?帰りに買っていくように」といった感じ(に聞こえました)。
なお、ちょうどこの会場がオープン1周年ということで来場者に記念のマグカップが配られていた上に、ライブ終了後にはビールとケーキがふるまわれました。そのまま会場でTony Levinの写真展が行われ、Tonyも交えてビールで乾杯した後、スクリーンに大写しにされた写真を彼自身が解説してくれたのですが、バックステージで奇妙な格好でストレッチするRobert Frippとか「Shock the Monkey」でジャンプした瞬間のPeter Gabrielとか、何ともヘンな写真ばかりでした。
ミュージシャン
Tony Levin | : | bass, chapman stick, vocals |
Jesse Gress | : | guitar, vocals |
Larry Fast | : | keyboards |
Jerry Marotta | : | drums, saxophone, vocals |
セットリスト
- Intro
- Pillar of Fire
- Waters of Eden
- Gecko Walk
- Icarus
- Keyboard Solo
- L'abito
- Sleepless
- Jam Back at the House / Red
- Opal Road
- Back in New York City
- Elephant Talk
- Utopia
- Bone & Flesh
-- - Belle
- Black Dog
- I Go Swimming
- Outro