川口千里

#968

2026/09/08

ブルース・アレイ・ジャパン(目黒)で、川口千里バンドのライブ。6月3-4日にここで行われた“THE LIVE RECORDING”公演の模様を収めたアルバム『E-Magination』のリリース記念ライブです。

狭い階段をとんとんと降りていくと、会場入口にはサイン入りの千里さんポスター。アルバムのジャケット写真は大人の女性の雰囲気(実年齢は29歳)ですが、こちらのポスターは少女らしさを残した表情になっています。しかし、後ほどのMCの中での千里さんの言によれば自分の顔がこうして大きくポスターになるのはとても恥ずかしいことであるらしく、ため息をつきながら「裏面を計算用紙に使ってください」と聴衆に訴えていました。

受付をすませて案内された席は上手側の壁際で、ギター(菰口雄矢)の立ち位置の関係で肝心の千里さんの顔を見ることができませんが、ベース(高橋佳輝)とキーボード(友田ジュン)は楽器演奏も演奏者の表情もはっきり見ることができる位置でした。

例によって開演前の楽器チェック。膨大な物量のペダルボードを前にしてスタンバイしているLes Paul、ヤモリロゴがトレードマークのYAMAHAドラム、そして正面にnord stage 4とYAMAHA、右手にMoogといったあたりは概ね6月のライブのときと同じでしたが、目を引いたのは暗がりにひっそり佇んでいるベースです。JBタイプのシェイプを持つ5弦ベースですが、ピックアップが太く力強そうなその面構えが一種異形。その実力は演奏が始まるとすぐに実感することができました。

さて、定刻をやや過ぎたところで登場した四人の姿は、千里さんが白いワンピースにポニーテール、後の三人は黒っぽいTシャツでリラックスした雰囲気。当初の予定ではMCなく演奏に入るつもりだったようですが、メンバーを迎える客席からの手拍子に煽られた千里さんが「本日はご来場ありがとうございました!ではアンコールにお応えして」と応じて笑いをとっていました。以下、演奏された曲は6月のライブとまったく同じなので曲そのものについての説明は行わず、特記すべき事柄に絞って記します。

Infinite Possibility

相変わらず素晴らしい音圧の中を突き抜けるスネアが力感満点ですが、やはりベースの存在感が際立っています。これは席の位置の関係なのか?とこのときは思ったのですが、そうではありませんでした(後述)。そしてオルガンソロの背後のベースのフレーズが何気に細かく、ドラムとベースの掛合いもパワーとグルーヴの応酬に引き込まれました。

Am Stram Gram

この曲を聴く頃から、どうやら今日は全員がリラックスして自由に遊びを入れた演奏をしているようだと気づきました。すると案の定、千里さんも「今日は収録から解放されて、何をやってもいいから楽しくてしかたない」とMCの中で語っていました。

Turn Right

このしっとりしたバラードが終わったところで千里さんのMCとなり、ライブ盤を出すことについてのこれまでの思い入れを語ると共にメンバー紹介を行いましたが、その中で千里さんは友田氏に対して同氏のバンドDEZOLVEにフュージョンムーブメントの先頭を行ってもらい自分はその後から甘い汁を吸うと邪悪な企みを披露、高橋氏からはくだんのベースが昨日買ったばかりだというSandberg Guitars社製のものであることを引き出し、最後に菰口氏が『E-Magination』のジャケ写の雰囲気を「千里ちゃんも大人になったんだな」と父親目線で語れば、千里さんはとあるスタジオで菰口氏が繰り出した親父ギャグを紹介して「菰口さんもおじさんになるんや」と思ったと逆襲していました。

Here I Come / April Sorrow

いかにも楽しそうなアイコンタクトの応酬の中で明るく弾けるリズムと突き抜けるギターがぐいぐい迫ってくる前者、前回ベースの高橋氏が苦戦したために菰口氏が高橋氏に向かって「大丈夫?いくよ?」とオフマイクでツッコミを入れて高橋氏が苦笑いしてから演奏された後者。これらの演奏後のMCによれば、これら新曲2曲はCDのサイズの関係で収録できなかったそうですが、録音はされているのでもしかすると後日配信されることになるかもしれないということです。

In Three Ways

この曲のベースソロでのベース音は、癖の強いエフェクトがかかっているにもかかわらず芯が通っていて強靭。高橋氏が「もう1本ほしい」と惚れ込むのもわかります。そして摩訶不思議なフレージングや高音部でのコード弾き、スラッピングを織り交ぜたベースソロのバックで千里さんはスナッピーを外したスネアやタムでラテンっぽさを出していましたが、刺激的なギターソロや流麗なピアノソロに続く最後のドラムソロはカオスのような手数足数のドラミングで、音の洪水が眼前に押し寄せてくるようでした。

Onyx

休憩をはさんで演奏されたのは、千里さん言うところの「私にとって欠かせないあの曲」。とにかくツーバス連打のドコドコが痛快です。

Winds

故・菅沼孝三氏の作品で、冒頭のベースのフレーズがひたすら美しく、そのフレーズをギターも引き継いでこよなく優しく、それでいて疾走感のある音世界が広がります。なお、終盤のベースソロの中で登場したハーモニクスのスライドアップにはちょっとびっくり。

Ginza Blues

ほとんどハードロックな世界観のシャッフルナンバーで、典型的なブルース進行で曲の構造が定型であるだけに各自のソロの自由度が高く、しかもメインテーマではランニングベースが曲をぐいぐいドライブします。この曲が終わったところでのMCでは、先日のライブレコーディングの独特の緊張感についての言及と、その中での感心ポイントとしてメンバーたちに対する「皆さん、上手ね」というお褒めの言葉があり、これに対して菰口氏が「千里ちゃんほどではないけど、我々も地元では天才と呼ばれてた」と返しました。また、このリリース記念ライブは今後ツアーに出ることが予定されており、その最後の五所川原でのライブは(菰口氏曰く「涼しい顔してすごい演奏をする」)友田氏が参加しないそうなので、魚料理が大好きだという友田氏のために千里さんは「舟盛りの写真を送りますね」といじめていました。

No Sweat / Longing Skyline / Flux Capacitor

「激しいナンバー」という紹介のとおりギターとドラムが突き抜けてくる力強い曲と、一転して情感のこもったピアノを主体に繊細なスネアやシンバルワークを聴くことができるバラード。さらに「このメンバーはリハーサルなしで弾きこなしてしまうが、普通のミュージシャンならリハなしはあり得ない」という難曲。この大きな振幅の中にもドラムの存在感は一貫しています。

本編は一応これで終わりですが、メンバーはそのままステージ上に残ってアンコールに入ります。その前にMCで紹介されたのは、千里さんが9月中旬に招聘されているHanoi Jazztival 2026の話題。打診を受けたのが直前だったため今日のメンバーは都合がつかず、代わりに千里さんをサポートするのが田中晋吾(T-SQUARE)、安部潤(CASIOPEA)、増崎孝司(DIMENSION)だと披露されて客席からは悲鳴のような歓声が上がりました。なお、この三人は千里さんのファーストアルバム『A LA MODE』(2013年)のレコーディングとこれに続くツアーにも参加していたそうですが、皆さんベテランだけに三人とも「旅行」に重きを置いて快諾してくれたのではないか?と千里さんは一抹の不安(笑)を抱えている様子でした。

Raging Spur

千里さん曰く「Cozy Powellみたいなシャッフルを叩きたい」というリクエストに応えて菰口氏が作曲してくれた曲。その言葉の通り、随所に千里さんの足技が炸裂しますが、長丁場のライブの最後にこれだけパワフルなドラムを叩き出すスタミナには脱帽です。

ステージ上の四人が演奏を心底楽しんでいる様子がありありと伝わってきて、文句なしに楽しいライブでした。それぞれが卓越したソロ奏者としての技巧を披露するだけでなく、完全にシンクロしたタイム感の中でお互いによく聴きよく見て「川口千里バンド」としてのグルーヴを作り上げていく一体感は爽快です。訳あってこのところ少なからず暗い心で過ごす日々が続いているのですが、このライブはそうした暗さをいっとき吹き飛ばしてくれて、前向きに生きる力を取り戻させてくれたような気がします。音楽の力というのはすばらしい!とあらためて実感することができた一夜になりました。

ミュージシャン

川口千里 drums
菰口雄矢 guitar
高橋佳輝 bass
友田ジュン keyboards

セットリスト

  1. Infinite Possibility
  2. Am Stram Gram
  3. Turn Right
  4. Here I Come
  5. April Sorrow
  6. In Three Ways
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  7. Onyx
  8. Winds
  9. Ginza Blues
  10. No Sweat
  11. Longing Skyline
  12. Flux Capacitor
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  13. Raging Spur